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めざすのは、〈わかりやすさ〉の背後に〈意味〉を匂わすポップ

――“LAST SUPPER”での柏井さんとの作業自体はどうでしたか?

「単純に、この曲のミックスを聴いたとき、〈ヤバッ〉って思いました。本質を見失わないうえで、感覚的にヤバイものを作りたかったんですけど、柏井さんのミックスを聴いた瞬間に、〈何も言うことねえな〉って。それが今回自分のなかで見えた答えというか、〈ここの音をもうちょっと下げてください〉とか、そういうシビアな作業をし過ぎると、リスナーから離れてしまうと思ったんですよね。柏井さんとは感覚的な部分を共有できて、おかげでいいものになったと思います」

――“LAST SUPPER”の歌詞のアイデアはどこから出てきたものなのでしょうか?

「今回のEPは〈食〉というコンセプトがあったんです。『LIVING ROOM EP』が〈住〉だったから、EP3部作で〈衣食住〉を揃えられたらなって」

――だから“LAST SUPPER”は「最後の晩餐」、“LIKE A HEPBURN”は「ティファニーで朝食を」がモチーフになっていると。

「先に“LIKE A HEPBURN”を書いて、そのあとに“LAST SUPPER”を書きました。途中でも話したように、今はバンドとして次のステージに行って、『a.k.a』をより多くの人に広める作業をしなきゃと思っているんですけど、変わっていくことに対しての恐怖心もすごくあって、純粋な部分がなくなっていくことにすごく怯えていたんです。なので、そういう純粋さと後々再会できたらいいなっていう、この曲はそんな気持ちで書きました。バンドが次のステージに向かうことと、昔の自分に出会うことって、矛盾しているんだけど、そういう人間らしい矛盾も含めて書けたらなって」

――それを実際に歌詞にすることで、変化することへの決意にもなりましたか?

「そうですね。この歌詞を書くときは、昔と今を照らし合わせながら書いたんですけど、昔はホントにただ〈やりたいこと〉ばっかりやっていたんですよね。でも、それが上手くいったり、いかなかったりするなかで、この歌詞を書くことで〈やらないといけないこと〉がより見えてきた気がします。自分がまた新たなステージに行くきっかけにもなったと思うので、5年後か、あるいは10年後か、もし自分が音楽をやらなくなっていたとしても、この曲はこれから先もきっと聴くんじゃないかな」

――一方、“LIKE A HEPBURN”と3曲目の“ERAION”は土器くんの作曲ですね。

※作詞はいずれも牧野

「“LIKE A HEPBURN”はカジュアルなものというテーマがあったんですけど、4月に先行で配信リリースするから、ある意味表題曲に近いものなので、ちゃんとメッセージ性も入れたいと思って、歌詞はそのバランスを考えながら書きました。アレンジに関しては、メンバーみんなで詰めたんですけど、最初はもっと(曲の尺が)長かったから、ちょっと伝わりにくいんじゃないかと思って、マイナスの作業をやった感じです。個人的な感覚としては、“Kitchen”みたいなカジュアルさをめざしていたので、ドラムのパターンだったり、ギターやベースだったりでエレクトロっぽさを出そうと思って、そのあたりのバランスをわかってくれるエンジニアの土岐(彩香)さんを含めて方向性を考えました。ライヴを想定した曲作りでもあったから、そのあたりも考えていたかな」

※サカナクションやCharaの作品などに参加

『a.k.a』収録曲“Kitchen”
 

――3曲目の“ERAION”は土器くんのプロデューサー/エンジニア気質が発揮された一曲になっていますね。

「今回、土器がバイノーラル・マイクを買ったんですよ。なので、ナイフとフォークのカシャカシャっていう音を採取して入れるとか、すごく実験的なことをやっています。エンジニアは(トクマルシューゴやD.A.N.の作品で知られる)葛西(敏彦)さんだったので、それでおもしろくなった部分もすごくありますね」

――今回のEPには3人のエンジニアさんが参加しているので、それぞれ聴き比べる楽しさもありますよね。葛西さんとの作業はどうでしたか?

「ミックスの作業とかエグかったです。土器が〈ここはちょっと……〉っていう部分を調整しつつ、葛西さんにも感覚的に自由にやっていただいたので、ワクワクしました」

――“ERAION”というタイトルの意味は?

「これは〈時代(=ERA)〉と〈ライオン〉を組み合わせた造語です。ライオンって、狩りをする生きものじゃないですか? 歌詞に出てくる〈盲目なライオン〉というのは、狩りができなくなったライオンのことで、今の社会で才能のある人が叩かれていることとリンクさせていて。でも、本当に才能がある人は自分の力で現状を抜け出せると思うから、最終的に〈盲目なライオンはまた叫んだ〉と締めているんです」

――ここまでの話を聞いてはっきりしたけど、最後の“STREET VIEW”は最初の3曲の内容が全部詰まった、コンセプチュアルな歌詞になっているわけですね。

「そうです。この曲で伏線を回収しています(笑)。EPとして何を言いたいかということと、あと『LIVING ROOM EP』と繋がっているんだということも言いたくて」

――この曲は作曲のクレジットがLILI LIMITになっていて、1人1人が作曲をするなかで、バンド全体でも作ってみようとなったわけですか?

「はい、セッションで作る曲があってもいいかなと思って、初めてこういう作り方をしました。いろいろやっていくなかで、ヒップホップ要素を取り入れたりもしたんですけど、もうちょっと肉体的というか、バンド感を出したいと思ったんですね。なので、それまで2、3曲作ったのを一回ナシにして、改めて志水(美日/Key)がピアノのコードを決めて、そこに楽器を乗せて、僕がメロディーを付けました。それぞれが影響を受けているアーティストがあらためて見えて、曲の作り方としていいなと思いましたね。今までは僕か土器のどっちかの色が出た曲しかなかったけど、そうじゃない部分も見えるEPになったんじゃないかと思います」

――今回は結果的に牧野くんと土器くんの曲が収録されたけど、今後は他のメンバーが作曲した曲も入ってくるかもしれないわけですね。終わりにもうひとつだけ訊くと、最初に〈日本はコンセプトをわかりやすくしないと伝わらない〉という話もありましたが、一面的な〈わかりやすさ〉にどう対抗するかって、今音楽だけじゃなく芸術全般にとってとても重要なことだと思うんですね。なので、その部分についてどう考えているのかをお伺いしたいです。

「わかりやすいものって、わかりやすくなればなるほど、わかりにくくなると思うんです。広告とかについて、すごくそう思うんですけど、ただ流行っているものをやってしまうと、〈あれのパクリか〉で終わってしまう。確かに、今って〈わかりやすい〉ものが喜ばれて、〈わかりにくい〉に辿り着く人が少ないと思うんですけど、〈この人はもっと奥深く考えているのかな?〉と思わせる、そういう匂いのある〈わかりやすさ〉を僕らが提示できたら、より音楽にも耳を傾けてくれるんじゃないかなと思うんです」

――ただ海外の流行りを真似するのではなく、あくまでJ-Popであり、間口が広いんだけど、でもちゃんと聴くと奥深い。LILI LIMITがそこを担ってくれることを期待しています。

「現代アートは、本質をめちゃめちゃ考えたうえで作られているものだから、意味がわからないものってそもそもないはずなんですよね。そこを考えない人からしたら〈意味がわからない〉で終わっちゃうのかもしれないけど、それこそインタビューを読むことで、〈こういう意味があったんだ〉とわかったときに僕はすごく喜びを感じるし、自分たちもそういう曲作りをしたい。ちゃんと意味があるものを作って、そこにちょっとしたわかりやすさを入れて、もうちょっと深くまで見てもらう。そういう流れというか、道を作ることができたらな、と思いますね」

 


Live Information
〈LILI LIMIT presents Archive〉

2017年9月2日(土)宮城・仙台enn 2nd
2017年9月8日(金)愛知 ・名古屋ell.FITS ALL
2017年9月10日(日)福岡DRUM SON
2017年9月16日(土)東京・渋谷 WWWX
2017年9月18日(月・祝)大阪・心斎橋Music Club JANUS
2017年10月1日(日)山口LIVE rise SHUNAN