(C)El Deseo. Photo by Manolo Pavón.

円熟の極み。アルモドバル十八番の母娘メロドラマ最新作!

 スペインのマドリードでひとり暮らしをしている中年女性ジュリエッタは、荷造りを終えようとしている。恋人と一緒にポルトガルに行くためだ。人生の再出発。しかし、ある日偶然出会った知人から、彼女の娘にイタリアで会ったと告げられる。動揺するジュリエッタ。娘は12年前に家を出て以来行方知れずであったのだ。意を決して、恋人にポルトガルには行かないと別れを告げる。ジュリエッタは、帰ってくるかは分からない昔暮らしていたアパートに移り住み、娘に宛てて手紙を書き始める。30年前に娘の〈父親〉と出会ったエピソードを最初に、封印されたジュリエッタの半生が語られ始める。

ペドロ・アルモドバル,エマ・スアレス ジュリエッタ ブロードメディア・スタジオ(2017)

 カナダのノーベル賞作家アリス・マンローの短編3編を原作に、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルがひと組の母と娘の関係を描き出す。アルモドバルでいえば、『オールアバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール〈帰郷〉』の〈女性賛歌3部作〉に連なるメロドラマの系譜の作品であり、十八番の題材を得てアルモドバルの名人芸が堪能できる作品である。

 とにかくアルモドバルの語り口のうまさである。簡潔にして艶やか。ヒロインの若い頃を演じる役者から中年の役者へ移行するシーンの、赤いタオル1枚でやってのけてしまう場面の鮮やかさ。赤いタオルということで言えば、若さや過去を〈青〉、老いや現在を〈赤〉の色でコーディネートする色彩設計の妙や、ヒロイン役のエマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、そして常連のインマ・クエスタら女優たちがみな素晴らしいときている。

 但し、円熟度を増したかわりに、ときに観客を豪快なまでに突き放す大胆さも増したところが今のアルモドバルのアブナくて面白いところだ。母娘メロドラマもののアルモドバルだから安定安心と高を括っていると、映画の最後で唐突に梯子を外されている自身に気づくだろう。贅沢でいて、一筋縄ではいかないアルモドバルの調理法を堪能していただけたらと思う。