力強く華やかに進化した6年ぶり新作

 08年に最初の夫を亡くしたコリーヌ・ベイリー・レイは、13年にプロデューサーのスティーヴ・ブラウンと再婚し、新たな人生を歩み始めた。しかも昨春にリリースされた『ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ』は、約6年ぶりの新作。それだけに、この最新作には、新しい“コリーヌ像”が打ち出されていて、音楽自体は以前より華やかで力強い。

CORINNE BAILEY RAE The Heart Speaks In Whispers Virgin/ユニバーサル(2016)

 「今回はじっくり腰を据え、なおかつ新しいことにトライしつつ、アルバムを作りたかった。そのためにも今まで一緒に仕事をしたことがなかった色々なミュージシャンに参加してもらって、これまでより時間をかけてアルバムを作りました。だから前作から少しブランクが空いてしまったけれど、自分の新しい側面を伝えることができたと思っています」

 最新作の中で、僕がもっとも愛聴している曲は、切なくもとろけてしまいそうなほどメロウな《ドゥ・ユー・エヴァー・シンク・オブ・ミー?》。カーティス・メイフィールドの曲を下敷きにした、このとびきりの一曲は、かつてモータウンのスタッフ・ソングライターだったアシュフォード&シンプソンのヴァレリー・シンプソンとのコラボレーションでもある。

 「ある日、『カーティス』(70年)を聴いていたら、《ザ・メイキング・オブ・ユー》のメロディとコード進行にすごく惹かれたので、その一部を借りて曲を作ろうと思い立った。そしてこの曲には70年代ソウルの雰囲気をよりいっそう取り入れたいと思ったので、ヴァレリーに声をかけて一緒に曲を作り、さらにはジェイムス・ギャドソンにドラムを叩いてもらいました。彼らは伝説的な人たちであり、もちろん私自身も昔から尊敬していたので、共演できて光栄です」

 一方、最新作の共同プロデューサーの一人は、コリーヌより若いパリス・ストローザー。16年にデビュー・アルバムをリリースしたR&B女性トリオ、キングのメンバーだ。パリスは、双子の姉妹であるアンバーとともに曲作りにも関わっている。

 「キングのことは、彼女たちがアルバム・デビューする前から知っていて、今回は現代的なR&Bテイストも取り入れたかったので、二人に参加を依頼しました。もちろん、直接交渉しました。ええ、私は音楽に対してもオープンです」

 コリーヌは、カリビアンの血を引いている。が、大先輩のリンダ・ルイスやジョーン・アーマトレイディングのことはよく知らないというので、ジョーンの『トゥ・ザ・リミット』(78年)を薦めた。すると彼女は即座にアルバム・タイトルをメモして、笑顔で感謝してくれた。こんなコリーヌにますます惚れた。