道化師の二人がコンビを組んで制作した最新作
溢れ出るユーモアに欠かせない詩的な美しさ

 〈道化師(クラウン)〉というとサーカスのピエロが頭に浮かぶが、ドミニク・アベルとフィオナ・ゴードンは映画や舞台を中心に活動する道化師。これまで、脚本・監督・主演を手掛けて4本の長編作品を制作してきたが、最新作『ロスト・イン・パリ』はパリを舞台にした物語だ。本作の成り立ちを、アベルはこんな風に振り返ってくれた。

 「今回は私達の原点に立ち返って、クラウン的なもの、つまり私達の身体の動きをベースにしてストーリーを作る方法を取りました。ギャグも頭の中であれこれ考えるよりは、実際に身体を動かして、ヴィジュアル的なユーモアを作り上げていったんです。〈身体は頭より賢い〉という諺もありますからね(笑)」(アベル)

 パリに一人で住む年老いた伯母マーサ(エマニュエル・リヴァ)から、「老人ホームに入れられるから助けて!」という救いを求める手紙が届いたフィオナ(フィオナ・ゴードン)。彼女はカナダの田舎からパリへとやって来る。そして、浮浪者のドム(ドミニク・アベル)と出会い、行方不明になったマーサを一緒に探すことに。フィオナは『ポパイ』のオリーヴ、ドムはチャップリンのシルエットをイメージしたそうで、あえてセリフは少なくして、二人のパフォーマンスと上質なユーモアで楽しませてくれる。

 「大切なのは物語も笑いもシンプルであること。でも、そのシンプルさを見つけ出すのが大変なんです。映画のなかで(ぼけ始めた)マーサが手紙を出しに行く時に、ポストの前を素通りしてゴミ箱に手紙を入れます。それだけで、可笑しさと哀しさが自然に生まれます。そこで重要なのは人を笑い者にしないこと。私達がやっているのはパロディではないので、その人の立場になって『自分だったらどうする?』と想像することが重要なのです」(フィオナ)

 そして、二人の作り出すユーモアに欠かせないのは詩的な美しさだ。それは最近のコメディに失われつつあるエッセンスでもある。

 「観客はいったん笑うと、満足してしまって他のものはいらないと思いがちなので、時には笑いのペースを落として詩的な部分をきちんと取り入れていくのは難しいんです。でも私達は、道化師というのはコミカルな詩人だと思っていますから」(フィオナ)

 「そして、道化者は敗者でもあります。転んでも立ち上がって、また転んでも立ち上がることを繰り返す存在なのです。人は何かを失敗したり、途方に暮れたりした時にその人の人間味が出てくる。そういう状況の時こそ、自分が何者かを表現できるし、そこで見せる人間性が感動的なんだと思います」(アベル)

 思えば3人の登場人物は社会的弱者。そんな彼らを、ユーモアが優しく包み込む。知性であり、技術であり、詩であり、希望でもある。そんな豊かな笑いが『ロスト・イン・パリ』には詰まっている。

 

映画『ロスト・イン・パリ』
監督・脚本:ドミニク・アベル/フィオナ・ゴードン
音響:エマニュエル・ドゥ・ボワシュー
出演:フィオナ・ゴードン/ドミニク・アベル/エマニュエル・リヴァ/ピエール・リシャール/フィリップ・マルツ/他
配給:サンリス(2016年 フランス、ベルギー 83分)
(C)Courage mon amour-Moteur s'il vous plait-CG Cinema
◎8月 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
www.senlis.co.jp/lost-in-paris/