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何千人、何万人の前でやってきた強さを持っているギタリストに感動する

西田「今回は曲のテーマもわかりやすい気がしますね」

井上「ありがとう。意図を汲み取ってもらいまくってる(笑)」

西田「例えば“Heliotrope”の〈ヘリオトロープ〉という花は5~6、9~10月に咲くらしいですけど、それぐらいの時期っていちばん感傷的になりやすいじゃないですか。やれ雨が降ったり、やれ秋になったり。そういう時期とかに、何かつらいことがあった帰り道の情景が浮かんだりして。一曲ごとにテーマを設けているんだろうなというのがちゃんと音楽と結び付いていると思っていて。しかもそれをインストでやっている」

井上「曲が出来て、タイトルはもう適当でいいやって気持ちももちろんわかるんですけど、シンガー・ソングライターの人のライヴとかを観たりすると、世間に伝えたいメッセージが溢れてていいなって思うんですよね」

西田「銘くんはタイトルも大事にしているよね」

井上「そうだね。だから、このアルバムでも自分の中でのエピソードがある曲もあれば、メッセージが特にないものもあるけど、ないとしても曲のイメージとタイトルが結び付く必要はあると思っていて。そういうほうがみんなも聴きやすいと思いますし」

西田「歌詞がないぶん自分が勝手に解釈できるというか。それができるのは大事だと思います。後半の曲で言うと“Soldier"R"”でまたスリリングな感じが戻ってくる緊張感もすごく好きで、その後のラスト“Fu-linkazan”、最高ですよね。風林火山というとやっぱり武田信玄をイメージしちゃうけど、ドドーンとしたクライマックス感があって、これは軍としての標榜なんだろうなと」

井上「まさしくそうです。バンドでやるっしょ!みたいな」

西田「バンドでっていうスタンスで終わるところも、テーマが明確でいいですよね」

井上「今はいろんなスタイリッシュな音楽があるから、“Fu-linkazan”みたいな曲はちょっとカッコ悪いくらいの感じかもしれないけど、あえてこういうのを入れたいと思ったんですよね」

――ちなみに西田さんは自身も出演した〈TOKYO LAB 2017〉で、井上さんのSTEREO CHAMPを観てどうでしたか? CDを聴いた印象と比べて。

※西田は守家巧率いるTakumi Moriya Les Six、井上はSTEREO CHAMPの他に石若駿のClean Up Trioでも出演

西田「アルバムもそれぞれの演奏の良さや息遣いが聴こえるけど、ライヴでは余計そうでしたね。メンバー同士のバチバチ感も強くて。個人の演奏もよりフォーカスして聴こえた気がしました」

井上「田中"TAK"拓也さんも〈聴いた感じよりもっとロックなイメージだった〉と言ってくれてましたね。最近はアルバムや楽曲を作る時にどういうハコでライヴをやるかも念頭に置いているんですが、STEREO CHAMPだと〈TOKYO LAB〉の時の渋谷QUATTROがこれまででいちばんやりやすかったですね」

西田「その観点で言えば確かにスケール感が合ってたのかもしれない」

井上「ジャズをやっていると、ある日は2000人の前でやって、その次の日はジャズ・バーで10人の前でやるなんてことがザラにあるんです。昔ツアーを回っていて、200人の前でやった次の日に5人の前で演奏して、柄の悪いおじさんにリクエストで“夜桜お七”って書いた紙を渡されて。できませんって言ったら〈“夜桜お七”知らないで音楽家名乗ってんじゃねえよ〉と怒鳴られたりしましたね(笑)。そういうのが毎日あると、自分の精神的スタンスとしては1万人でも1、2人でももちろん関係ないと思ってやるんだけど、少ない規模で2か月もやったら自分の場合は演奏がこじんまりとしてくる気がするんです。だからそのためにはクラクラもそうだしSTEREO CHAMPみたいなバンドを作って、もっと広く聴いてもらえる環境を自分で作っていく。そうすることによって、もっとデカいところでやりたいという気持ちも生まれるのかなと」

――なるほどね。

井上「ジャズ系のギタリストで言うとジョン・スコフィールドやパット・メセニーとか、ジャズをやるという信念を持ちながら何千人、何万人とかの前でやってきた強さを持っている人にやはり感動してしまうんです。自分はジャズをやっているけど、自分のギターで人の心をぶち抜けるような。そういうギタリストになりたいですね(笑)」

――確かに、環境が作っていくものもありますもんね。

西田「そうですよね。でも銘くんがそういうもっとデカいところにもいってぶち抜けるギタリストになるぞ、という気持ちになっているのがヤバイと思うんですよ。マジで自分もがんばらないとって気持ちになる。この間のQUATTROでも、俺もベストを尽くしたんだけど、その日の帰り道に〈負けた~!〉って(笑)」

一同「ハハハ(笑)」

西田「つまりロックをやっていようがジャズをやっていようが、銘くんも自分もすごくなろうと思っているなら戦わなきゃいけなくなってきているんですね。そしてその時、俺がロックをやってきていることは誇りとして支えや力にはなっても、言い訳には一切出来なくなるというか。総合格闘技のナンバーワンを決める時に、ボクサーが足を打たれて俺はボクサーだからボクシングでは負けねえって言ってもしょうがないみたいな(笑)。銘くんとセッション・バーとかに行って〈俺はロック・ミュージシャンなのでできません〉とはなりたくねえって思うんです」

――そういうふうに今は両方が求められるようになってきた感じがありますよね。西田さんがジャズ・フィールドにとか、いきなりそういう場所に出される可能性があるというのが、おもしろい時代って感じがします。

西田「本当にボーダーレスになってきている気がしますね」

――でも〈サマソニ〉にクラクラとかが出演することは、ロック・バンドにもいい影響があると思うし。〈フジロック〉にもサンダーキャットやカマシ・ワシントンとかが出て来たら、バンドと並べられるわけですよね。クラクラなんかは〈よくわからないけど明らかにすげえこと〉をやっているわけで、反響は大きいんじゃないかな。

※8月20日(日)の〈SUMMER SONIC 2017〉GARDEN STAGEに出演予定

西田「これからは、〈これは自分に関係ないもの〉っていうのがなくなってくる気がしますよね。ネルス・クラインやジェフ・パーカー、ビル・フリゼールとか、今年はたくさんのギタリストが来日しているけど、ギター単体でいちばんヤラれたのはジュリアン・ラージなんです。彼はアカデミックにもできる一方で、ロックやポップス、アメリカーナ、フリー・アヴァンギャルドとかを〈やってみました〉ではなくきちんと採り入れていて。だから、いままで観たことのない良さ、観たことない価値観を感じさせてくれたんだと思うんですが、今、日本でその可能性をいちばん持っている人が銘くんだと思うんです」

井上「えー! それは恐れ多いですが、がんばります」

西田「まず技術的にも銘くんくらい弾けなきゃいけないし、背負わなきゃいけない。そのうえで、ジャンルを超えて本気で取り組まないと得られない結果だと思うんです。本当にハイブリッドなものというか。まあとにかく、銘くんとはこれからもバチバチやりたいって感じですね(笑)」

井上「やりましょう(笑)」

 


Live Information

■井上銘

〈井上銘 "STEREO CHAMP" CD発売記念ツアー〉
MAY INOUE STEREO CHAMP : 井上銘(gt )類家心平(tp )渡辺ショータ(key)山本連(b )福森康(ds )

8月4日(金)@東京・六本木VARIT.
9月3日(日)@東京・六本木VARIT.
(〈INDEEA presents. SIRIPAILIN VOL.3〉共演:INDEEA)
11月20日(月)@名古屋・TOKUZO
11月21日(火)@大阪・Mr.Kelly's
11月23日(木)@高知・キャラバンサライ
11月24日(金)@京都・Bonds Rosary (井上銘ギター・ソロ公演)
12月5日(火)@神奈川・Motion Blue YOKOHAMA
12月14日(木)@熊本・Restaurant Bar CIB
12月15日(金)@鹿児島・LiveHEAVEN

■CRCK/LCKS

8月12日(土)@新宿MARZ
〈SUMMER SONIC 2017〉
8月20日(日)@千葉・ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ

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■西田修大

〈小西遼 生誕感謝祭〉
7月28日(金)@六本木VARIT.
〈樋口宇野章二丸トリオ/MEGALEV/猫バズーカカルテット〉
8月3日(木)@東京・神田THE SHOJIMARU
〈Shun Ishiwaka Songbook Trio〉
8月4日(金)@神奈川・飯島商店音楽室

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