INTERVIEW

Awich『8』 沖縄で生まれ、アトランタで育まれた美しき才能が、YENTOWN加入を経て臨んだ新たな挑戦とは

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  • 2017.08.08
Awich『8』 沖縄で生まれ、アトランタで育まれた美しき才能が、YENTOWN加入を経て臨んだ新たな挑戦とは

 「私、何でもできるんです。昔はそれが、自分がなくなるみたいで嫌で、無闇にいろいろ拒否していた。でも、人生って短いって気付いて、できることを何でもやればいいって思えるようになりました。だからやりたいと思ったら何でもやる。ただ、何をやってもAwichっていうインパクトは強く残したい。〈薬〉みたいになりたいです。それを体内に摂取すると著しい威力を発揮します、みたいな。いい意味でも悪い意味でも。エロさも、賢さも、逞しさも、弱さも、気持ち悪さも、おもしろさも、〈いろんな味があるよ、好きな毒を選んで〉って感じ」。

Awich 8 YENTOWN/bpm tokyo(2017)

 雰囲気のある歌唱とタフなラップ、英語~ウチナーグチ~日本語を駆使した多様な表現の織り成すアルバム『8』から伝わってくるのは、自信に溢れた発言を裏付ける独自性と多様性を併せ持った品格だ。kZmを迎えた“Crime”やMONYPETZJNKMNとのコラボで注目を集め、YENTOWN加入も話題となったAwich。とはいえ、実は多岐に渡る活動と長いキャリアを通じて彼女を別の角度から知っているという人も多いことだろう。

 沖縄生まれの彼女はティーンの頃にラップを始め、自身の作品リリースや客演を繰り広げる一方、ビジネスを学ぶべく渡米し、現地男性との結婚~出産を経験。学位を取得して家族での帰国を決めた矢先に夫が銃殺されるという悲劇も越え、帰郷後はCIPHER CITYを設立して、番組やイヴェント、映像制作を通じて沖縄のカルチャーに貢献してきた才女だ。そうやって地元で活動していた彼女が改めてアーティスト活動への専念を選んだ理由は「Chaki Zuluとの出会い」だという。

 「私とChakiさんを結び付けてくれた曲が“Crime”でした。去年の8月に東京で縁あってkZmと出会い、彼に“Crime”を聴かせたら速攻でChakiさんに聴かせてくれて、すぐkZmの客演を録ることになりました。直後にMVも撮って、早い人たちはそのMVにもすぐ反応してくれてた。なのでアルバムはけっこう“Crime”みたいなモイストな感じを軸に作られてます。湿っぽい音に湿っぽい内容。そんな感じが多いです」。

 官能味を注ぎ込んだ“Crime”や同系統の“PIN”は昨今のアトモスフェリックな作法にも通じるモダンな感触となっているが、Chaki Zuluの采配で完成した『8』の音世界は当然その範疇に留まるものではない。YOUNG JUJUを招いたトロピカル・ダンスホールな先行カット“Remember”をはじめ、タブゾンビのトランペットを従えて自在に言葉を泳がせる“Detox”や、アーシーなグルーヴに乗せたブルージーな歌唱で浮気男を蹴っ飛ばす“Move Way”、鼻っ柱の強いフロウでANARCHYをもてなす“WHORU?”、シンプルな歌心の寄り添うエレポップ“Rainbow”など、どの曲でも違った表情を見せつつ、Awichの存在感は一貫して濃厚だ。

 「“Detox”みたいなスポークン・ワードもアメリカでずっとやってたから得意だし、“WHORU?”みたいなアグレッシヴなラップも客演ではよくやってて、大好きです。“Move Way”みたいな雰囲気もいつかやってみたいと思ってたら、遊びでChakiさんとお友達のKazさんがギターを弾いててそれが発展してだんだん曲らしくなってきたとこで、〈録ってみる?〉って言われて、最初の〈I'm sorry what your name~〉のフレーズが出てきました。やったことない感じの曲で吐くほど緊張したけど、歌い終わった瞬間みんなが〈そうくるかー、やっベー!〉ってなって一気に曲に仕上げていきました。“Rainbow”は日本語の表現を最大限に試した曲で、Chakiさんに〈もっといける、もっといける〉とプッシュしてもらって書けました。ずっと子供の頃から詩を書いてきたのですが、その頃のピュアな日本語の表現だったりを思い出させてくれたプロセスでした」。

 一方で、沖縄音楽のレジェンドたる古謝美佐子に直談判してコラボが実現したという“UMUI”、スペインのletgo.によるトラックを聴いたら「〈キジムナーがチョンチョン〉って歌う沖縄の童謡に聴こえてしょうがなかった」ことで沖縄の兄貴分Rittoを迎えた“Chong”のように、郷土の風情を明快に湛えた楽曲もカラフルな彩り。さらには「9歳で反抗期なんですが、音楽に関しては私の能力を信用してくれているみたいで、ブースでは私のディレクションを聞いてがんばってました」という愛娘Yomi Jahがラップする“Jah Love”、夫の遺灰を海に流した時のことを歌った“Ashes”などは Awichの芯にあるもっともパーソナルな側面が垣間見られる曲だろう。

 「聴いてる人のその時間を100倍濃くしたい。楽しさなら倍増させたいし、悲しみならどっぷり浸からせたいし、恋したいならキュンキュンさせたいし、前に進みたいなら傷を癒したいし……そういうもんでしょ、音楽って」。

 多くの出会いと化学反応を起こし、魅力的なポテンシャルを引き出された『8』。トレンドと重なりながら、彼女ならではの美意識に包まれた楽曲を通じて、Awichの届ける深い何かを感じ取ってほしい。

 


Awich
86年生まれ、沖縄は那覇出身のラッパー/シンガー。14歳の頃にコンピ参加してAwich名義での活動を開始。Takuji a.k.a. Geetek“Jeally”などの客演を経て、2006年にファーストEP『Inner Research』をリリース。並行してアトランタに留学し、2007年に『Asian Wish Child』を発表する。翌年に結婚~出産した後、起業学とマーケティングの学士号を取得するも、帰国を前にして夫が銃殺される。帰郷して起業し、映像や番組の制作を手掛ける。今年に入って久々のソロ曲“Crime”を配信し、YENTOWNに加入。MONYPETZJNKMN“WHOUARE”やkZm“Midnight Suicide”への客演でも注目を集めるなか、ニュー・アルバム『8』(YENTOWN/bpm tokyo)を8月8日にリリースする。