時代を作った革命的なトリオが最後にやり残していたこと――奇を衒わずに飾らないTLCらしさを貫きながら、過去のレガシーと現代のリヴァイヴァル・サウンドをポジティヴに繋いだラスト・アルバム『TLC』

私たち以外は入れない

 オリジナル・アルバムとしては約15年ぶりとなる新作『TLC』。リアリティ・ショウやライヴなどがあったにせよ、普通ならばとっくに忘れ去られてしまっているだろう長期のインターヴァルに加え、愛くるしい眼と力強いラップでファンを魅了したレフト・アイの不在、しかも逆風が吹きすさぶレコード業界の状況。いかにビッグな彼女たちであっても、いや、むしろレジェンド的な存在だからこそ、簡単にリリースできる状況ではなかったはずだ。そんなTLCをサポートしたのはほかならぬファンたちである。TLCが2015年に開始した新作制作のためのクラウドファンディングは、わずか3日で目標額を達成するという大成功を収めた。さすがにこれには当事者であるチリも驚いたという。

 「本当に驚いて、言葉にならなかったわ。〈もっとあなたたちの音楽を聴きたい〉って言ってくれる人たちはいたけれど、実際にKickstarterでこんなにも支援してもらえたんだもの。私たちにとって、何よりも特別なありがたい出来事だったわ」。

TLC 『TLC』 852 Musiq/ワーナー(2017)

 クラウドファンディングという現代的な手法で資金調達したのは、何も経済面だけが理由ではない。彼女たちは、みずからが資金を握ることでクリエイティヴ・コントロールをみずから掌握することにこだわった。

 「最初のレコーディングをした時に良かったのは、LA・リードとベイビーフェイスが私たちのやりたいように作らせてくれたってことなの。それは彼らがアーティストでもあるから、理解があったからだと思うんだけど。いまは彼らと組んでいないから、(レコード会社には)TLCの音楽のタイプや、何が有効なやり方かを理解しない人たちもいると思うのね。私たちは自分たちのやり方を崩したくなかった。Kickstarterを使うことで自分たちのやり方を維持することができたのよ」。

 プロデューサー陣の核には、チリが「とても優秀」と紹介するカーノイ(T・ボズの弟)と共に、ロン・フェアが据えられた。ロンは、クリスティーナ・アギレラやキーシャ・コールを手掛けてきたレコード会社のエグゼクティヴで、同時にエンジニア/アレンジャー/ミュージシャンでもある。

 「彼を起用した理由は、音楽のことや私たちのことを理解しているから。TLCの音楽を作るうえで歌詞の内容がとても大事で、それがメインだということをわかってくれてたわ」。

 ところで、新作の制作面でもっとも気になったのはレフト・アイの穴をどうするのかという点だった。一時は、伝記TV映画「CrazySexyCool: The TLC Story」でレフト・アイ役を演じ、またステージ共演も経験したラッパーのリル・ママが新作にも参加するのでは?という憶測も流れていたが、結局のところ、レフト・アイの代役は立てられなかった。

 「ええ、それを望んだことは一度もないわ。このグループには私たち以外は誰も入れないの。TLCは実際の私たちよりも大きな存在なのよ。もし、代わりを入れることが可能だったのなら何年も前に起こっていたはずよ」。