回りくどくなく、ストレートにいく
――では、このあたりで『Lighter』の収録曲についての話に移りましょうか。まず、“Get Lighter”。
小西「ファーストでは1曲目“Goodbye Girl”の衝撃があったから、新しいアルバムを作るにあたって、それに比類する強烈なイントロの曲はできないかと、ものすごく考えて作りました」
石若「ずっと悩んでたよね」
小西「曲のメモみたいなのを録音して、オダトモに送っては、ダメ出しをくらって」
小田「既読スルーしたり(笑)」
井上「小西くんが新曲を書いてくると結構風当たりが強いよね(笑)」
小西「僕の曲はベーシックをみんなに投げて、ボコボコやられながら出来上がるんですよ。みんなに頼ってるんです(笑)」
小田「この曲は構成もすごく変わったし、みんなでごちゃごちゃ手入れしたよね」
小西「本当は2分半くらいの短い曲だったんです。アルバムのオープナーとして、ドシャッと短くやって衝撃を与えて、次の曲にいくつもりだった。だけど銘ちゃんが〈ここのメロディーはもっと聴かせたほうがいい〉とか言いだして、だんだん伸びていった」
井上「いい曲だし、もっとしっかり曲にしようよって言ったんだよね」
小西「スタジオでプリプロをやっていた深夜の休憩中に、〈あ、わかったかも!〉って俺が思い付いて、ソロ・フォームの譜面をバーっと書いて〈ここ、ギターソロにする!〉って決めて、そこで正解がパキッと見えた感じはありました。クラクラの曲でこれが今まで一番時間がかかって、3か月くらいかけたかな」
――歌詞は小西さんと小田さんの共作ですね。
小西「共作といっても、僕はフックの部分を先に作って、それをオダトモに投げて残りを書いてもらったという形なんです」
――“パパパ!”は小田さんの作詞・作曲です。
小田「これは結構前の曲ですね」
小西「『Lighter』の中では一番古いかも。ファーストのリリパの時にやっているし」
小田「作った時は〈クラクラのカラーに合うのかな?〉って心配していた曲です。でも、みんなでとりあえず音を出したら、その瞬間からめっちゃ合ってて、〈これは絶対に良くなる〉という予感がしました。この曲は、駿の“Christmas Song”※を聴いて、さっきも話に出た〈気持ちよく聴こえるんだけど気持ち悪さが残る感じ〉をやりたくて作った曲なんです。曲を作っている時にちょうど東京スカイツリーが部屋から見えたから、あの歌詞になりました」
※『Songbook』収録
――続いて3曲目の“Non-Brake”。
小田「これはレコーディングでちょっと悩んだよね」
小西「ライヴのオープナーとしてずっとやっていた曲なので、アルバムでもさくっと聴ける感じにできるんじゃないかと思っていたんですけどね。ここ(小西と井上)にドラマがあって(笑)。銘ちゃんに〈正直、今これをアルバムに入れる必要はないんじゃない?〉と言われて、しばらく悩んだんです。結局、紆余曲折あって、音的にもみんなが納得のいくものになったので収録することになったんですけど」
井上「スピード感のある曲で〈繋ぎ〉にすると小西くんが言っていて、繋ぎなんか入れないですべて全力投球でいったほうがいいんじゃない?ってその時は思ったんです。でも、結果的には入れて良かったと思っています」
小西「この曲については銘ちゃんといろいろ話したね。長文のメールのやりとりもしたし」
――続いて“すきなひと”。いい曲ですよね。ぐっとくるラヴソングで。何といってもあの男声コーラス、すごくいいじゃないですか。
小西「いいですよね。なんかSMAPみたいで。やるべきかどうか悩みましたけどね。コーラスのピッチがものすごく悪い(笑)」
小田「そこがいいんじゃない!」
小西「確かに、良かったんだけどね。でもミックスしてる時は、自分では〈マジか…〉ってなるわけよ。ハモりもないしさ(笑)」
井上「みんなでこのコーラスを録っている時に、小田さんがコントロール・ルームから〈上手く歌おうとしないで〉って指示出してたよね(笑)」
小西「曲としては、僕のカラーがだいぶ出てますね。やっぱり青春大好き、汗臭いの大好きなので」
――歌詞はこれも小西・小田の共作ですよね。
小田「“Get Lighter”と同じパターンで、小西のサビだけ出来てて、そのイメージで私が平歌の部分を書きました」
小西「サウンド面では、個人的には、銘ちゃんと越智の存在がすごく効いてる曲だと思います。銘ちゃんが出してくれたイントロとかギターのフレーズのアイデアがぴったりだった。あとは越智のベースのビートだよね」
井上「この曲、角田くんのいた頃からやってたけど、俺としては出来上がるまでにすごく時間がかかったイメージもあったんだよね。ライヴで一年くらいやってたけど、最初の10か月くらいは正解がわからない感じでやっていた。レコーディングの2、3か月くらい前になってからかな、ようやくこの曲の良さがわかったのは」
――それって越智くんが加入したタイミングですよね?
石若「俺的にはそうですね。この曲での越智のベースを聴いて、ブラック・ミュージックの好きな部分が(越智とは)一緒だと思った」
越智「ライヴをやる前に音源を送ってもらって、〈俺はこの曲はこうやりたい〉って思ったんですよ」
小西「越智はそういうところをすっと出してくるよね」
越智「わがままなんだよ」
石若「というか、真面目なんだと思うよ」
小西「うん、真面目でわがままだよね。〈俺はこの曲こうだと思う〉というのをものすごくストレートに出してくる。そういうところが“すきなひと”のビートに関しては、かっちり合ったんだろうね。あと、越智はベースもいいんですけど、カラスは真っ白で観てた時から歌が上手かったから、クラクラでも歌わせたかったんですよ。それもあって、この曲は男コーラスになった」
――次は“エメラルド”。井上さんの作曲です。
井上「さっき言っていた、バンドのなかでの〈ぶつかり合い〉の話だけど、俺はこの曲でそれを感じていた。小西くんと小田さんはこの曲を聴いて〈宇宙〉みたいなイメージを思い浮かべたらしいんだけど、作曲した自分としてはそれがあまりわからなくて」
小田「レコーディングでも結構悩んだよね。お互いのイメージが違って」
井上「小田さんが入れてきたフレーズを、〈これはないほうがいいんじゃないか〉とか言って取ってもらったりしたね」
小田「“すきなひと”もそうだけど、同じ曲でもみんな違うことを考えていて、そこを共有して擦り合わせて、完成するまでいろいろあるよね」
井上「でも、自分のソロ・アルバムだったら全部自分の好きなようにするわけだから、そうならないのがバンドをやるおもしろさだなとは感じる」
小田「そうなんだよね」
小西「そこをおもしろさだと言えるメンバーの大人な感じは、〈遅れてきた青春〉で良かったのかなって(笑)。普通の青春だったらすごい喧嘩してる」
井上「あと、この曲には、ちょっとドラマがあるんですよ。角田くんが辞める頃に2人で呑んでたんですけど、その時にこれからのクラクラについての話になって。〈小田さんがキーボードを弾かないで、一人でマイク持ってセンターで歌うくらいの曲があってもいいよね〉と言っていたんです。それで、そういう曲を作ろうと思ったんですよ」
小田「そうだったんだ! でも、私も常々そうしようかなと思っているんだよね。結局キーボードを入れたくなっちゃうんですけど」
井上「そのアイデアは次のアルバムに出てくるんじゃないかな。それに、この曲はまだライヴでも一回しかやってないし、これから一番進化していくと思う」
小西「伸びしろのある曲だよね。でも、ライヴを観に来てくれる友達とかからも〈クラクラの一番おもしろいところは、もう二度と同じものを聴けないこと〉とはよく言われますね。〈どんなに回数を重ねてやってる曲でも、その日の演奏はその日しか聴けない。アレンジはぐんぐん変わるし、みんなの演奏もぐんぐん変わる。だからプレシャスな感じがある〉って」
――そして最後は小田さん作詞・作曲で“傀儡”。タイトルはちょっと恐い感じですけど、これも素晴らしいラヴソングです。
小田「〈好き〉って連呼してるから、これが“すきなひと”だと勘違いしてる人もいると思う」
小西「もう、本当にいい曲だと思う。俺がすげえ酔っ払って夜にオダトモに電話して、俺、オダトモが〈好き〉って言ってる曲を聴きたい!と言ったことから出来た曲だよね。ファーストでは、ちょっと回りくどいというか、別の形で〈好き〉と言っている曲が多かったから、もうストレートに〈好き〉って言いまくろうよって言ったんです」
小田「そう言われて自分でも確かに書きたいと思ったので、とにかく〈好き〉を言いまくりましたね。結果的に50回」
――50回!
小田「曲を書くにあたって、小西の恋愛事情とかを聞いて(笑)。そこに自分の気持ちと重なるところとか、ちょっと一筋縄ではいかない感じとかも交えつつ、〈一体全体どこから来たの?〉ってフレーズが思い浮かんだからそれと組み合わせたいなと思って、小西くんと2人で構成を考えて曲にしていきました」
小西「〈一体全体どこから来たの?〉っていうあまりにいいフレーズが最初は一回だけだったから、それを繰り返すようにした。そこが出来たら他も見えてきましたね」
小田「〈好き〉の回数もどんどん増えていったよね」
――クラクラはこういうストレートな曲をやれるんだって、外からも驚きを感じてもらえると思うんですよ。
小田「この曲は、女性のお客さんに〈共感しました〉みたいなことを言われることが結構多くて。そんな曲が一曲くらい欲しいと思ってたから、出来た時はうれしかった」
――押すところはもうとことんストレートに押すんだという。
小田「自分をさらけ出す度合いはすごく高まってきたと感じてます」
小西「僕らは出自もあってテクニシャンに見られがちだけど、みんなわりともっとシンプルな動機で生きているんですよ。そういう意味では、駿がこの曲でiPhoneドラムをやるとチョイスしたことにも僕は結構感動したけどね」
石若「え? そう?」
小西「iPhone内蔵のGarageBandにサンプルで入ってる音をそのまま使ってるだけだからね。俺も、安い音や薄っぺらい音のする鍵盤をおもしろく使うのが好きだから、駿のアイデアには感激した」
石若「たぶん、トモミンが〈この曲は電子ドラムがいいんじゃない?〉って言ったからなんだよね」
小田「それで、その場でできることをその時にやった」
石若「そしたら、すげえしっくりきた(笑)」
小西「そこで駿は〈これでいいや〉じゃなくて、ちゃんと〈これがいいや〉なんだよね」
石若「パッドでやると、時差があるような気がするんだよね。iPhoneにタッチしてる時のほうが直接的な感じがある」
小田「iPhoneは小さいから演奏してる時の駿の動きがすごくかわいいんだよね。ゲームしてる少年みたい(笑)」
石若「でも最近ね、マーク・ジュリアナ方式っていうのをゲットしたんですよ。膝に乗っけて左手でiPhoneを叩くじゃん? その時に右手が空中を叩いてるようにすると、ちゃんとドラムを叩いてるように見えるらしいと(笑)」
――しかし、6曲だけの話なんですけど、どれも曲の成り立ちにそれぞれのレイヤーがあって、すごく濃厚ですね。
小西「たぶん、僕らは濃厚じゃないものは作れないんじゃないかな」
――デビュー作からEPが2枚続いたわけですけど、今後フルサイズのアルバムを作りたいという気持ちもありますか?
小田「ぎゅっとおもちゃ箱みたいに音が詰め込まれてるし、EPっていうサイズ感がしっくりきてるんですよね」
小西「その時の自分たちをちゃんとパッケージしていくスピード感としては、僕らにはEPはすごく合ってるのかもしれないですね」
――5人のバンド観や音楽観がそれぞれ伺えて、興味深い取材でした。何か言い残したことはないですか?
井上「俺、一個あるんです。“傀儡”で〈好き〉を50回言ってるという話でしたけど、実は言ってるのは小田さんだけじゃないんですよ」
小田「え? どういうこと(笑)?」
井上「俺も、〈好き〉の後にシュルーンってギターで〈好き〉を16回入れてるので」
一同「ハハハハハ(爆笑)」
――あれは〈好き〉の表現だったのか(笑)。
小西「“傀儡”の〈好き〉は計66回でした(笑)」
Live Information
2017年8月12日(土)
〈CRCK/LCKS 2nd EP『Lighter』リリース記念ライブ〉
会場:東京・新宿MARZ
共演:CRCK/LCKS TAMTAM
2017年9月26日(火)
〈CRCK/LCKS 『Lighter』リリースライブツアー〉
会場:名古屋TOKUZO
共演:中村佳穂(荒木正比呂(syn)西田修大(g)深谷雄一(ds)]
2017年9月27日(水)
会場:神戸VARIT
共演:アカシアオルケスタ、aomidoro
2017年9月28日(木)
会場:大阪・心斎橋Music Club JANUS
出演:CRCK/LCKS 他
2017年9月29日(金)
会場:京都UrBANGUILD
共演:空間現代