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Photo by Tom Sheehan

渡辺裕也

1. Kid A(2000)
2. Amnesiac(2001)
3. In Rainbows(2007)
4. Hail To The Thief(2003)
5. The Bends(1995)
6. A Moon Shaped Pool(2016)
7. OK Computer(1997)
8. The King Of Limbs(2011)
9. Pablo Honey(1993)

『Hail To The Thief』=シャッフルしたときに真価を発揮するアルバム

2017年のいまこそ再評価したい作品は、主に3作。まずは、『Hail To The Thief』。iPod以降のリスニング環境を踏まえたランダムな構成もあってか、リリース当時はこの作品に対して〈散漫なアルバム〉という意見も少なくなかったが、ストリーミング・サーヴィスが普及し、アーティストの評価軸が〈アルバム〉に限定されなくなったいま、あらためて聴くとどれもシングル向きのポップ・ポテンシャルを持った曲ばかり。レディオヘッドのディスコグラフィー中、プレイリストでシャッフルしたときにもっとも真価を発揮する作品はこれかもしれない。

2作目は『The King Of Limbs』。本作の複雑にエディットされたリズムを生でも再現すべく、レディオヘッドはこの頃からポーティスヘッドのクライヴ・ディーマーを加えたツイン・ドラム編成でツアーを回るようになったが、結果としてその試みは重低音が幅を利かせるEDM以降のライヴ・サーキットでも迫力負けしない、パワフルなバンド・サウンドの構築にもつながった(いま思えば『Hail To The Thief』収録の“There There”における、タムタム2台を加えたリズム・セクションもその伏線だった)。つまり、レディオヘッドがいまだ世界最高峰のライヴ・アクトに君臨しているのは、ひとえにこのアルバムを通過したからなのではないかと。

2011年作『The King Of Limbs』収録曲“Bloom”のスタジオ・ライヴ映像

そして3作目は、最新作『A Moon Shaped Pool』。エレクトロニカやモダン・ジャズなどを参照し、ロック・ミュージックの〈ビート〉を何度も更新してきたことは、間違いなくレディオヘッド最大の功績。それゆえ、どことなくビートの存在感が希薄な本作には、若干の肩透かしを食らったファンもきっと少なくなかったと思う。しかし、彼らがここで注力したのはむしろアンビエンス。いわばそれはこのバンドが長年背負ってきた〈ビートの革新〉という役割からの解放を意味しており、それが同年リリースのフランク・オーシャン『Blonde』とも共振していたことは、もっと強調されていい。

2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Decks Dark”

順位についても簡単に説明させてもらうと、それ以降のポップ・ミュージック全体に与えた影響力という尺度でいくと、やはり上位2作はダントツ。単純に作品としてのクォリティーで考えると、最下位も即決。あとはどれも拮抗しており、そのディスコグラフィーの鉄壁ぶりに、あらためて感嘆した。

 

峯大貴

1. In Rainbows(2007)
2. Hail To The Thief(2003)
3. OK Computer(1997)
4. The Bends(1995)
5. The King Of Limbs(2011)
6. A Moon Shaped Pool(2016)
7. Kid A(2000)
8. Pablo Honey(1993)
9. Amnesiac(2001)

型を破ることで拡げた、ギター・ロックの可能性

〈型があるから型破り。型が無ければ、それは形無し〉と言ったのは十八代目中村勘三郎かはたまた落語家の立川談志か。本稿のお題をいただきキャリアに沿って全アルバムを聴いていくと、レディオヘッドとの距離感甚だしいこんな言葉がふと浮かんできた。順位としては単純に好きな順。その理由を探っていくと、まず筆者のレディオヘッド初体験は、音楽に興味を持ちだした2007年、高校1年の時分。属していた軽音楽部のOBにバンドの練習になるからと完コピを薦められた“Just”を収録した『The Bends』。そして、同時期に突如リリースされたのが『In Rainbows』だった。レディオヘッドのキャリアにおいてどちらも珍しくメロディーや楽器のフレーズ/歌詞のほうに軸足が置かれた、ポップネスが発揮されているギター・ロック・アルバムが入口となったので、おのずと順位付けの軸となってしまう。

95年作『The Bends』収録曲“Just”

そんななかでは『Kid A』、『Amnesiac』といったギター・ロックの構造を分解し、エレクトロニック・テクノロジーでもって再構築した作品も、ジェイムス・ブレイクやアルト・ジェイだっている現在から見るとギター・ロックからの逃避というよりは、型を破ることでギター・ロックの可能性が拡がった瞬間であると捉えたほうがしっくりくる。 それは立川談志における「金玉医者」や「やかん」のような現代での落語の可能性と折り合いを探り、話の前提や筋、常識と非常識も捨てて〈わけのわからない魅力〉こそが落語とした、落語イリュージョンの哲学と通じる気もしますがそれは余談。また『Kid A』、『Amnesiac』でエレクトロニクスが担った役割を、続く『Hail To The Thief』から『In Rainbows』ではギター/ドラムス/ベースをはじめとする生演奏で代替していくという単なる回帰ではない新たな型破りの結果、アプローチとしてはふたたびギター・ロックに行きついてしまったのだ。その決着点である“Bodysnatchers”には宿命を背負ったバンドの色気を特に感じる。なので、デビュー以来の90年代ギター・ロックの可能性をまだ信じつつも、初めてギター・ロックの型を突き破ることとなった『OK Computer』を抑えて、『In Rainbows』を1位とした。

2007年作『In Rainbows』収録曲“Bodysnatchers“のスタジオ・ライヴ映像

そういう意味では最新作『A Moon Shaped Pool』もアンビエントやクラシックなどを抱擁し、これまでとはもっとも遠い場所まで突き抜けた作品であった がゆえに、次作以降はまたギター・ロックを目めざすことも予想できる。帰り道には型を破り、新たなギター・ロックになっているに違いない。その作品が私のなかの『In Rainbows』を凌駕することに期待している。

 

八木皓平

1. OK Computer(1997)
2. In Rainbows(2007)
3. A Moon Shaped Pool(2016)
4. Amnesiac(2001)
5. Kid A(2000)
6. Hail To The Thief(2003)
7. The King Of Limbs(2011)
8. The Bends(1995)
9. Pablo Honey(1993)

『OK Computer』に宿る、その時代でしか生み出せない再現不可能な魔法

問題は最初の4枚だ。ここの順番には非常に苦悩させられた。逆に言えば、残りの5枚はそこまで悩まなかった。悩まなかったというか、このあたりはあまり真面目に順位付けをしても仕方がないかなと思えたし、好きな曲はあっても、アルバムとしてしっかり聴き返すことはほとんどない作品ばかりだ。その5枚の中で『Kid A』の順位がいちばん高いのは、この作品が〈ロック・バンド〉が2000年代以降にどういう方向性をめざすべきかの一つの指針となっていたし、それははっきりと機能していたから。というわけで、下位5枚についてはこれで終わり。

で、最初の4枚。これは自分の中では順位が2パターンあった。1つ目はここで提示している順位で、2つ目は『A Moon Shaped Pool』→『Amnesiac』→『OK Computer』→『In Rainbows』の順番。後者のほうが、視点はクリア。それは2017年を、ポスト・クラシカル~インディー・クラシックというクラシック~現代音楽をアップデートしようとするムーヴメントの浸透と現代ジャズの隆盛の時代と捉えつつ、あらためてレディオヘッドのキャリアを考えるというものだ。で、そこに自分の好きな作品を添えよう、という順位。『A Moon Shaped Pool』がトップに来るのはもちろんクラシック~現代音楽の要素が作品に注ぎ込まれているからだし、『Amnesiac』が二位なのは、ジャズやクラシック~現代音楽がエレクトロニック・ミュージック以降の音響感を踏まえて野心的に取り入れられていたからだ。

2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Burn The Witch”

でもやっぱりぼくは、ベストは『OK Computer』だと思った。ここにはDJシャドウやポーティスヘッドといった、当時刺激的だったエレクトロニック・ミュージックを踏まえて作られたバンド・サウンドが詰まっている。ハード・ディスクを用いたポスト・プロダクションが一般化する少し前のことだ。つまりここには、この時代でしか生み出せない再現不可能な魔法が存在するのだ。“Let Down”における、幾重にも重なるアルペジオの倍音が生みだす至福の音響は彼らが当時最高のロック・バンドだったことを示している。2位が『In Rainbows』なのは、端的に言って本作がロック・ミニマリズムの最高峰だと思うからだ。“Nude”のベースラインや“Weird Fishes/Arpeggi”の反復的なドラムとアルペジオの組み合わせを聴くとそれがよくわかる。

97年作『OK Computer』収録曲“Let Down”

2006年作『In Rainbows』収録曲“Weird Fishes/Arpeggi”

ミニマリズムの超克という意味では『In Rainbows』と『A Moon Shaped Pool』の順位は逆でも良かったんだけど、うーん、ちょっと『A Moon Shaped Pool』の方向性が今後どういふうふうに転んでいくかがわかんないからなー、次の作品がリリースされてはじめてわかってくる部分もあるだろうしなーとか、またいろいろ考えこんでしまったので、ここで無理やり終わらせる。