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恥をかくことを怖がっていると、嘘をついた作品しか作れない

――今回の対談にあたって編集部からこういうお題がきてるんですよ。〈音楽家として、ヴォーカリストとして2017年に何を歌うのか?〉と。

Nao「なかなか難しいお題ですね(笑)。……ずっとやってることではあるけれど、私は自分の中のよりリアルな感情を突き詰めるということですね。あとは〈芸術は素晴らしい〉ということと、〈一人の女性として何ができるのか?〉ということを追求したい。自分のために一生懸命やったことは人のためになると思ってるので、突き詰めて音楽をやったり自分と向き合うことも、回り回って他の人のためにもなるんじゃないかと思ってるんですよ」

吉田「誰かのために歌うことは私はできなくて。〈誰かのために歌います〉と言った段階でエゴになるんじゃないかと思ってしまうんですよね。もちろん人のためになることはしたいと思ってるから歌うわけですけど、あまりそこは表に出したくない。結局、歌う内容って〈自分の人生をどういうふうに生きていくか〉ということで決まってくるんじゃないかと思ってて」

Nao「うんうん」

吉田「今回のアルバムでは私が3曲の歌詞を書いてて、あとは全曲角田さんが書いてるんですね。私が書く歌詞ってすごくリアルなんだけど、彼は想像の世界を書くんですよ。以前言ってたのは、歌詞を書くときには脳内に映像が流れるんですって。〈その映像を書き留めるだけだ〉って格好良いことを言ってたけど(笑)」

Nao「そんなことあるの(笑)」

吉田「あはは、ないよねえ(笑)。前作は歌詞もものすごく物語性が強くて、私も海外のどこかの町の少女をイメージして歌ってたんだけど、今作からは東京に住んでいる等身大の自分たちの曲になったと思ってて」

Nao「なるほどね」

吉田「さっきNaoちゃんが言ったように、芸術は素晴らしいし、自分たちが作るものも芸術でありたいと思っていて。しかも、ジャズでもあればポップスでもあるというスタンスは変えずに、芸術の歴史のひとつでありたい」

ものんくるの2017年作『世界はここにしかないって上手に言って』収録曲“ここにしかないって言って”
 

――〈芸術〉っていう言葉がどちらからも出てきましたけど、芸術を追い求めるにしても、自分のなかの〈リアル〉に深く向き合うところからしか始まらないという点も非常に近い感じがしますね。

Nao「うん、確かに」

吉田「そうですね。Naoちゃんの話、普段の自分の話を聞いているみたい(笑)」

Nao「私もそう思ってた! 〈私の言いたいことを沙良ちゃんが言ってくれてる〉って(笑)」

吉田「あはは(笑)」

Nao「あとはものんくるのアルバムを聴いてて自分の作品と似てると思ったことが他にもあって……私、〈光〉だけを書いてる楽曲ってあんまり聴かないんだけど、今作の歌詞や沙良ちゃんの声には影のなかに一筋の光が射し込んでいるような感じがしたんだよね。それが自分の作品にも通じるんじゃないかって」

吉田「それって大事だよね。イヤでも影の部分が見えてくる時代だから、そこは嘘をつけない」

Nao「影を見ない人たち、見なきゃいけないものを見ない人たちに対する反抗心みたいなものは自分のなかにもあって、そういう感覚は今回の私のアルバムにも反映されてると思う。だから攻撃的な部分もあると思うし、いま、そういう作品を作らないとダメだと思ってるんですよ」

吉田「『RESCUE』はそういう強さがあるよね」

Nao「そうかも。何年後かに自分で歌詞を読み返したら〈若いなぁ。なんか恥ずかしいなぁ〉と思うこともあるかもしれないけど、そういう思いを残しておくことこそアーティストだし、一人の人間として今を生きてきた記録だとも思うし。私が死んでからも作品は生き続けてくれるしね。あとは沙良ちゃんも嘘をつけない子だと思ってて」

吉田「うん、つけない子(笑)」

Nao「だからこそ、今回対談したかったんですよ。沙良ちゃんだったら社交辞令じゃない話ができるんじゃないかと思ってて。今回のものんくるのジャケットにも沙良ちゃんの〈嘘をつけない感じ〉は出てると思う」

吉田「これ、眠いだけだけどね(笑)」

Nao「あはは(笑)。私の好きな女性はこういう感じです!」

吉田「ありがとう! すごく嬉しいですね。私ももうひとつ話したいことがあって……」

――ぜひ話してください。僕のことは気にしなくていいので(笑)。

吉田「Naoちゃんも作品を重ねるごとに迷いがなくなってる感じがする。それこそ、歌い方も隠さないじゃん?」

Nao「おっ、そこに気付いてくれたのは本当に嬉しい……」

吉田「失敗も恐れないというか、恥をかくことを恐れない。それは私も普段から大事にしてることで。生きていると、恥をかくことってたくさんあるじゃないですか。そこを怖がっていると、嘘をついた作品しか作れないんですよね。覚悟のある人だと思うんですよ、Naoちゃんって」

Nao「まだまだっす(笑)。でも、今回のものんくるのアルバムはね、参加してるミュージシャンもめっちゃヤバイんですよ。ヤバイんだけど、ものんくるの世界ありきなのがいいんだよね。“花火”も好きだし、“時止まる街”のいちばん最後の歌の部分なんて本当にヤバい。爆発してるんだけど、その爆発をちゃんとコントロールしてるんだよね。いろんな奇跡が重なり合わないとこういう曲は出来ないと思う。あと、“最終列車 君を乗せて”がまた良くて……カラオケに入れてほしい(笑)!」

吉田「その曲が一番苦戦した。一回録り終わって完パケした後どうしても納得がいかなくて、ヴォーカルだけもう一度録り直したんだよね」

Nao「そうなんだ!」

吉田「単純に声が疲れていたときにレコーディングしたから納得がいかなくて。録り直して良かったと思う。ちゃんと奇跡を収めたいじゃん? でも、どこまでワガママ言っていいのか迷うところでもあって」

Nao「わかる! 私も今回のレコーディングで録り切れない曲があって、リリースをやめようと思ったこともあって」

吉田「えっ、そこまで!?」

Nao「“Can't go back”の歌詞が全然出来なくて。ようやく出来てレコーディングしたんだけど、どうもつまらない歌になってしまって……澤近さんにも〈Nao、今回はリリースをやめようか?〉と言われて。でも、やっぱり出したい。出すんだったら、いい歌をもう一度きっちり録ろうということになったんですね。澤近さんも歌の可能性を突き詰める人なので、喧嘩もよくするんだけど……沙良ちゃんと角田さんもするでしょ?」

吉田「うん、するする(笑)」

Nao「澤近さんとも長い付き合いになってきたし、お互いがやりたいことも性格も理解してるので、大事なパートナーではありますね。恋人でもなければ友人でもないけど(笑)」

吉田「本当の意味での音楽的パートナーということだよね」

Nao「そうなのかもね」

――ところで、2人で一緒に何かを作ったことは?

Nao吉田「ないですね」

――ここまで共通点が多いとなると、何らかの形でのコラボレーションを聴いてみたくなりますね。

Nao「そうですね。何ができるかな?」

吉田「バンド同士のコラボとかできると楽しそうだよね」

Nao「そうだね! 澤近もワクワクしそう(笑)」

吉田「私も角田に伝えておきます(笑)!」

 


Live Information

■Nao Kawamura
〈SUMMER SONIC 2017〉SPACE ODD STAGE
2017年8月20日(日)
〈”RESCUE”Release party〉
2017年8月26日(土)@東京・青山月見ル君想フ

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■ものんくる
〈世界はここでしか聞けないってTOUR〉
2017年8月21日(月)@京都RAG
2017年8月22日(火)@神戸VARIT.
2017年8月23日(水)@愛知・名古屋TOKUZO
2017年8月25日(金)@東京・代官山UNIT

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