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いいものはいい、迎合する必要はない

――海外組はデータのやりとりで?

「そうですね。ナヴァーシャ(・デイヤ)はこちらのスタジオに来てくれてレコーディングしましたけど、他のアーティストはデータのやり取りが基本です。国内のfox capture planとかは、一緒にレコーディングしました」

――それぞれ、どんなエピソードがありますか。

「Mr.Jメデイロスと一緒にやれたのは、すごく刺激になりましたね。メデイロスが以前やっていたユニット、プロカッションズの『Up All Night』にすごくヤラれたんですよ。フェンダー・ローズとドラムと、2つの楽器しかないんですけど、そのうえでメデイロスがラップを乗せていて。それを聴いてカッコイイなと思っていた矢先に、プロデューサーに〈メデイロスとやるのはどう?〉って言われて、すごくタイムリーでしたね。彼はあまり日本人のアーティストとコラボレーションしたことはないと思うし、すごくいい人選だなと思いましたね」

Mr.Jメデイロスとの“Soap Opera”
 
プロカッションズの2004年作『Up All Night』収録曲“Welcome”
 

――先行でMVも公開された“Diploma”に参加してるのは、WONKのPxrxdigmとイラJ。

「この曲のリリックは、別れた彼女に未練タラタラで、そういう自分に卒業という内容なんですけど(笑)。曲は思い切りジャジー・ヒップホップ。でも僕とARATA(Pxrxdigm)くんは、ジャジーではなくジャズにしたかったんですね。コード進行もすごく複雑で、ある意味ハードコアなジャズとヒップホップの融合ですけど、いい意味でリスナーのことをあまり考えてないというか、あえて自分たちが理想を押し通しました。今の若い世代って、あんまりリスナーに迎合したものが好きじゃないと思うんですよ」

――ああ、そういう感じはしますね。

「若い世代のリスナーは、自分たちがいいと思うものを〈こういうのあるんだけど、どう?〉って発信したほうが反応してくれると思うんですね。それはARATAくんの存在も大きくて、彼も〈いいものはいい。迎合する必要はないでしょ〉という考え方なので、トラック作りにもそれが反映されてると思います」

WONKの2017年作『Castor』収録曲“Gather Round”
 

――fox capture planや、元SOIL&“PIMP”SESSIONSの元晴さんとかは、昔からよく知ってる仲ですよね。

「腐れ縁という感じもありますね(笑)。ソイルとquasimodeは、イヴェントでしょっちゅう顔を合わせてたし、foxの岸本くんはJABBERLOOPのメンバーでもあって、JEBBERLOOPとquasimodeもよく一緒になったし。旧知の仲なので、楽しくレコーディングさせていただきましたね。考えてることも近いし」

元晴との“Walk In The Coastline”
 

fox capture planとの“Quadrupolar”
 

――foxの中に入って平戸さんがピアノを弾く、岸本さんとの絡みがすごくスリリングでおもしろいですね。

「負けられねえぞ、みたいな感じはありましたね(笑)」

――レコーディングはスタジオにピアノを並べて?

「いや、もう僕の音は録ってあって、あとで岸本くんに思う存分弾いてもらった形です。でも岸本くんのレコーディングが終わった後、〈岸本くんがそう弾くなら俺はこう弾くわ〉って、スタジオに戻って録り直したりしたので(笑)。負けず嫌いなんでしょうね」

――健全なライバル心があるというか。

「岸本くんはすごくおもしろいキャラクターをしてますよね。いい意味で自分に自信があるんだなと思ったのは、彼のピアノ・ソロを録った後に、こちらが問いかける間もなく〈今のは良かったですよね〉って自分で言ってて(笑)。普通は〈どうですか?〉って言うと思うんだけど、岸本くんは率先してみずから〈今のテイクは良かった〉って。すごい自信家だなと思いますよ。ハービー・ハンコックでも言わないんじゃないかって(笑)」

fox cature planの2017年作『FRAGILE』収録曲“エイジアン・ダンサー”
 

――そういう、個人のキャラがより色濃く出る方が、われわれリスナーは楽しいです。バンドでいうとStill Caravanも平戸さんがその中に入って弾くというコラボのやり方ですか。

「そうですね。彼らに関しては、それまで一緒に演奏させてもらったことはなかったんですけど、存在は知っていて、すごく勢いのあるバンドだなと思っていました。彼らもジャズをキーワードにして作品を作ってるので、今後のイヴェントとかで一緒にやれるのをすごく楽しみにしていますね」

――あと、個人的にはADAM atさんとの“The Lust”がすごく良かったです。ポップ畑でも活躍する人だから、音に解放感があって、パッと開けるような明るさがあって。

「ADAM atもお会いしたことはなかったんですけど、音源を聴かせてもらって一緒にやりたいと思ったアーティストですね。彼をサポートしているJABBERLOOPの永田(雄樹)くんを通じて知り合うことができたんですけど、すごく精力的に活動していて、勢いがありますし、素晴らしいと思います。さっきのStill Caravanもそうですけど、僕よりは一世代か二世代下ですよね? ある意味僕もそういう年になったのかなと思いますけど、世代の違う人たちと一緒にやるとすごく刺激を受けるし、楽しいですね」

Still Caravanとの“Shades”
 

ADAM atとの“The Lust”
 

――アルバムは最初と最後、そして中盤に平戸さん単独の曲があって、それがいい感じのインタールードみたいになっている。アナログのA面からB面みたいな、心地よい流れを感じました。

「あ、本当ですか。それはきっと、今回はチームで作った作品だと言いましたけど、打ち込みを担当してくれた2人が凄腕だからですね。音質とかもいろいろ勉強しながらやってくれたので、その成果だと思います。僕はキーボードは弾きますけど、ドラムやベースの音色などは後ろからああしてくれこうしてくれと言ってるだけで、彼らを信頼して任せました」

――まさにチーム。

「本当に今回は、自分のこれまでのソロ作品以上に自分の持っていない発想に出会えて、いろいろ発見もありましたし、制作したばかりですけど、もう次の作品を作りたい気持ちですね。構想はすでにあるので、早く具現化したいです。(チームの)みんながちょっと休ませてくださいと言ったら無理ですけど(笑)。それぐらい僕の創作意欲をすごく刺激してくれた作品作りでしたね」

――改めてプロジェクト名の〈Prospect〉という言葉ですけど、辞書を引くと、予想、見込み、期待とかそういう意味なんですね。

「未来への展望という、ポジティヴな意味ですね。これからもジャズ以外のジャンルとの融合で新しいものを作りたいし、そこで純粋に楽しむことでいろんなものも見えてくると思うので。ジャズというキーワードはありますけど、新しいものにどんどんチャレンジしていきたいという制作チームなので、前途洋々だよということが〈Prospect〉という言葉に反映されてると思います」

――そしてタイトルが〈HERITAGE〉=遺産というのもおもしろいです。

「そこはプロデューサーがすごく考えてくれたと思うんですね。僕がソロでこれまでに出した2作品『Speak Own Words』と『Voyage』での、ジャズの先人たちをリスペクトしつつ、新しいものをクリエイトしていきたいという信念をすごく理解してくれていて。〈HERITAGE〉というのも、ジャズの偉人たちが残してきた遺産をリスペクトしつつ、ジャズ本流のカルチャーをこれからも大切にしていきたいという意思が反映されてるんです。だからこれから、僕自身がいちばん楽しみですね」

平戸祐介の2012年作『Speak Own Words』収録曲、birdをフィーチャーした“生まれたてのメロディ”
 

――ひとつ、大きな話をしていいですか。平戸さんはジャズの現在をどう見ていますか。本流はどこにあるのか、未来はどうなるのか。

「quasimodeがやってきたダンサブルなジャズ、クラブで踊れるジャズは、残念な言い方をすれば一旦終息したと思っているんですね。そこから今、新しいものをみんなが模索している時代だと思うんですよ。ただ僕は50~60年代のジャズが好きなので、これからのジャズをもっと良くしていこうと思った時にいちばん思うのは、素直に自分を表現していくことが必要なんじゃないかなと。何が良くて何が悪いかはこれからやっていかないとわかりませんけど、僕も40歳になって、自分がやってきたものに100%偽りなく音を出したいと思うんですよね。20代、30代はいろんなものを融合して、周りの先輩の目を気にしたりとか、そうやって作ってきたものが大きいと思うんですけど、40代になると〈もういいじゃん〉と。周りにどう思われようが、自分の道をドン!と行くという年代に差し掛かってきてると思うので、シーンがうんぬんとかはもちろんありますけど、まずは自分の信念を持って作品を作っていくこと。それによって、今回はCASIOのみなさんがバックアップしてくれたし、僕がブレると周りもブレちゃうと思うので、芯をしっかり持ちつつやっていきたいと思いますね」

――頼もしいです。

「quasimodeの時から言っているんですが、ジャズってある意味マニアックなジャンルではあると思うんですね。ポップスに比べると、聴いてる人のパイは少ない。それを大きくするためには、僕らが努力していかなきゃいけないし、その状況を〈しょうがない〉の一言で済ませてはいけない。アーティストが努力しないと、シーンも衰退していくだけだし、それを〈若い奴がCDを買わない〉とか〈デジタル時代だから〉とかそういう理由じゃなくて、自分たちがどうやったら受け入れてもらえるのかを模索していかないと。それがアーティストの考えるべきことだと思うんですね。だから今回も配信だけじゃなくてしっかりCDも作って、アナログも出そうかなという話をしていますし。もう一度、音楽を聴くカルチャーをきちんと提案できたらいいなと思っています」

――Yusuke Hirado Prospectの音楽を、初めて耳にする方へ。どんなリスニング・スタイルをお勧めしますか。

「デジタルでもCDでもアナログでも、いろんなロケーションで聴いてもらいたいですね。車の中でも、家で針を落としてもらってもいいですし、聴きたい時に聴いていただきたいなというのはありますけど、どちらかというと昼に聴いてほしい思いはありますね。ジャズ=夜というイメージがすごく強くあるので。もちろん夜もいいんですけど、昼の太陽がさんさんと降り注いでる時にも聴いてほしい。ジャズ=夜というのもスモーキーでかっこいいと思うんですけど、そういうイメージも変えたいんですよ。ジャズ=サンシャインもいいじゃないですか? そういう概念も少しずつ、崩せるところは崩していきたいなと思ってます」

 


Live Information

Yusuke Hirado Prospect
〈~Corona Extra presents~ Mellow Trip in zushi surfers powered by CASIO Sound Tradition〉
2017年8月16日(水)@神奈川zushi surfers
〈インストア・ライヴ〉
2017年8月24日(木)@タワーレコードららぽーと磐田店
2017年8月25日(金)@ヴィレッジバンガード名古屋中央店
2017年8月26日(土)@HMVグランフロント大阪店
2017年8月27日(日)@タワーレコード広島店
2017年9月2日(土)@タワーレコード横浜ビブレ店
2017年9月8日(金)@タワーレコード福岡天神店
2017年9月18日(月)@タワーレコード渋谷店
2017年9月23日(土)@タワーレコード仙台パルコ店
2017年9月24日(日)@タワーレコード札幌ピヴォ店

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