フレッド・ハーシュにとってピアノは、弾くものではない、鳴らすものである。繰り返し聴くうちに彼がピアノと一体化してくる。かつてビパップの時代、テイタムやピーターソンさえピアノを鳴らしていた。いつの頃からだろう、ピアノを“弾き始めた”のは。同じピアノを違うミュージジャンが弾いて音の違いに驚いたことがあった。日本でも有数のピアニストと中堅のピアニストで音の差は歴然過ぎた。鳴っているってこの事かと、突きつけられた。ハーシュはソロピアノで容赦なくピアノから幸せを引き出していく。“ピアノの肉声”が聞こえて来そうだ。こんなにも快活で心に突き刺さる《Whisper Not》に初めて会った。