Vijay Iyer Sextet(C)Lynne Harty / ECM Records

沈黙の次に、シンプルなグルーヴ

 ECMへ移籍してからヴィジェイ・アイヤーは、今回の『Far from Over』を含めて4枚のアルバムを制作している。1枚目は、ストリングスとピアノ、エレクトロニクスによるアンサンブルの 『Mutations』、前作の 『Break Stuff』はアイヤーのレギュラー・トリオ、そして今回は三管編成のセクステットである。ヴィジェイ・ミュージックのパースペクティヴが、ハイペースで広がりつつある。

 彼は、これまでのアルバムで作品ごとに様々なリズムを採用してきた。クラーヴェ・ベースのものやヒップホップなどの様々なリズムを編み合わせて複合リズムやポリリズム、数えるのが面倒なほどの拍子を使って、彼固有のハイブリッドでマルチグルーヴのリズムを組み上げる。リズムと並走するハーモニーはプログレッションと言うよりはリハーモナイズを許さないコンポジションの厳格なプロットのようだ。そんな彼の世界観を最も赤裸々に表現してきたのがピアノ・トリオだった。アクト時代から数えて三枚のトリオのアルバムをリリースしている。拍が増減する《Human Nature》が収録された『Accelrando』と『Historicity』、そして『Break Stuff』。ブラッド・メルドーといったピアニストに比べれば寡黙なピアニストだが、アイヤーの強かなジャズを発生してきたのはトリオだった。

VIJAY IYER SEXTET FAR FROM OVER ECM(2017)

 しかし、今回突如として三管編成のセクステットを発表。弦楽四重奏のように音楽の骨を聴かせるトリオではリズムに特化したヴィジェイのアイデアを汲み尽くすのにマーカス・ギルモアのようなドラマーが不可欠だったが、この六人編成となったアンサンブルではタイショーン・ソーリーをドラマーに選んでいる。そして相変わらず様々なリズムを使っているのだが、経験豊かなタイショーンはそれぞれの楽曲のアイデアを可聴化し、ヴィジェイ・アイヤー・セクステットの音楽鍋を複雑な味わいに仕上げた。と同時にヒップホップ・テイストの曲に聞こえるようなシンプルな反復運動のレイヤーによる音楽こそがヴィジェイ・ミュージックの味噌だと、ホットにグルーヴィーにこのセクステットを突き上げる。