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クールなものを作るのは簡単

 開眼したソングライティングにフォーカスして以降、エヴァ・シモンズを迎えた自身の“Take Over Control”(2010年)を皮切りに、ピットブルの“Give Me Everything”、そしてゲッタの“Titanium”など、ヴォーカル・トラックでヒットを連発していく。並行して自身のレーベル=ウォールを設立、〈Electric Daisy Carnival〉〈Ultra Music Festival〉〈Tomorrwland〉といった大型フェスのメイン・アクトという大役も務めながら、昨年にメジャー契約を獲得。クリス・ブラウンを迎えた“As Your Friend”を早々にヒットさせた。そうして辿り着いた初のアルバム『Forget The World』は、世界中のファンが待ち望んだものだ。

 「お決まりのアンダーグラウンドなEDMじゃなくて、全部のトラックが違っているけどそこに独特なシンクロニシティーが生まれるようにしたかったんだ」。

AFROJACK 『Forget The World』 Universal Netherlands/ユニバーサル(2014)

 バンギンなヴォーカル・トラックを中心にトラップやポップなハウスなど、彼の歴史を垣間見られる多彩なスタイルが持ち込まれたアルバムでは、多幸感や親しみやすさに満たされた、現行シーンの空気を象徴する王道のEDMが味わえる。とはいえ、耳を奪うポップでアンセミックな彼のヴォーカル・トラックは、かつてダーティー・ダッチを主戦場にしてきた人の仕事とは思えない部分もあるのだが……。

「クールなものを作るのは簡単なんだ。でもそれを、皆が理解できるものにする必要がある。TVみたいなものさ」。

 彼のそんな見解は、マシュー・コーマとのメランコリックな“Illuminate”や“Keep Our Love Alive”、スティング(!)をフィーチャーしたことで曲に深みが出た“Catch Tomorrow”、そして今年飛躍が期待されるシンガー・ソングライターのレイベルが歌うリード・シングル“Ten Feet Tall”(大名曲!)で如何なく表現されている。

 彼がこうしたコマーシャルな方向へ進んだことを否定的に捉える人もいるかもしれないが、底なしのポジティヴさに包まれた『Forget The World』、そして純粋に〈音〉を楽しむ気持ちでEDMの世界に踏み出せば、いままで感じたことのないピースフルな一体感を得られるだろう。

 「ラスヴェガスのフェスで32万人の観客が集まったけど、誰も死ななかったし、怪我もトラブルもなかった。32万人が集まってて、しかも皆お互いを知らないのに。普通他人同士でその状況になれば喧嘩が起こるはずだよ。でもダンス・ミュージックでは、皆がひとつの愛をシェアしてるんだ。他ではあまり見られないよね。それくらいコンパクトなカルチャーってこと。いっしょになってひとつのことにエキサイトする。その意味でEDMは〈狭い〉んだよ。本当にひとつのコミュニティーって感じなんだ」。

 

▼『Forget The World』に参加したアーティストの作品を一部紹介

左から、ネオン・トゥリーズのニュー・アルバム『Pop Psychology』(Mercury)、スティングの2013年作『The Last Ship』(Cherrytree/A&M)、ウィズ・カリファの2012年作『O.N.I.F.C.』(Rostrum/Atlantic)、サーティ・セカンズ・トゥ・マースの2013年作『Love, Lust, Faith & Dreams』(Virgin)、キーンの2012年作『Strangeland』(Island)、小室哲哉の2014年作『EDM TOKYO』(avex trax)
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