“孫”か“マツケンサンバ”か“スシ食いねェ!”

かせき「それでどんな曲にしようって打ち合わせした時に話してたのは、〈エキゾチックに〉ということだったよね。エキゾチックで夏な感じの曲って意外とあまりないかなと。自分でも作りたくても作れないし、なつやすみバンドはsirafuくんがスティールパンも叩けるから」

MC.sirafu「あとは〈名曲(迷曲)にしよう〉とも言ってましたよね」

かせき「えっ、僕が?」

MC.sirafu「はい」

かせき「フフフ(笑)。図々しい。恥ずかしい(笑)」

MC.sirafu「〈例えば“マツケンサンバ”みたいなの〉って言ってましたね」

かせき「あ、そうそう。〈迷曲〉ね」

中川「かせきさん、“孫”とも言ってましたよ」

――ベクトルがよくわからない(笑)。

MC.sirafu「でもなつやすみバンドのベクトルはそっちなんですよ。“孫”と“マツケンサンバ”は僕らも大好きで、それをかせきさんが言いだした時にもう大丈夫だ!と思った(笑)」

一同「ハハハ(笑)」

かせき「“孫”か“マツケンサンバ”か、あと“スシ食いねェ!”。そういうのを作りたい。そういえば吉幾三さんの“俺ら東京さ行ぐだ”も冗談で作った曲で。千昌夫さんと吉幾三さんが呑んでて、酔っぱらって吉さんが歌ったのを聴いて千さんが〈それすぐ出せ〉って言ったらしいんですよ。めちゃくちゃ売れるぞって。それで出したら大ヒットした」

中川「へえ~いい話ですね。なんでそんな話知ってるんですか?」

かせき「吉幾三が好きだから(笑)。彼の姿勢が好きなんです。ある時TVでインタヴューされてるのを見たら、〈ホントはステージで歌うのは好きじゃない〉って言ってて。家にスタジオがあって、そこでちくちく曲を作ってレコーディングするのが好きなんだって。もうそれブライアン・ウィルソンじゃん。それを聞いてから、発言含めチェックするようになったね。〈ワークマン〉とかCMソングもよく作ってるけど、全部いい曲だから」

MC.sirafu「ラッパーとして影響受けてたりします?」

かせき「あ、そうかも(笑)。彼の姿勢とか、ラッパーとして尊敬してるのかも。一見ギャグっぽく見えるけどビートも効いてますよね。東北のほうの人だからなのか」

――でも確かに、あれだけマッシュアップされてる人も珍しいですよね。

かせき「たぶん100年後には偉人になってますよ。“Quiet School”の話に戻ると、自分のラップのパートは大体16小節くらいだろうと、家で寝転がりながら思ってたんですよ。それとサビをちょっと歌うくらいだろうなって。それで曲が届いて聴いてみたら」

MC.sirafu「〈ラップ多くないすか?〉って(笑)」

かせき「ちょ、ちょっと待って、って(笑)。紙に書き出して、ここのパートとここのパートとって数えていったら、もう何小節ラップするの?って(笑)。24、36小節くらい?」

――最初はそんなつもりじゃなかったと(笑)。中川さんは自分の歌うところでアイデアを出したりしたんですか?

中川「あんまり出してないですね。今回はsirafuさんがトラックを作ってくれて、ラップも結構直前までなかったんです。どうなるのかがホントにわからないくらいでレコーディングしたので、おもしろかったですね(笑)」

MC.sirafu「なつやすみバンドも一応仕事の分担があるんですよ」

中川「sirafuさんが作るときは私は間奏やCメロを担当することが多いです」

MC.sirafu「直近の仕事がNHKのもので、中川はそういうのが得意で。なので今回みたいにちょっと前のめりな、挑戦的な要素を僕が足す役を担うときもあります」

中川「そんな中でも一部のコード感とかはやってって言われて、調整したりはしますね」

★ザ・なつやすみバンドの2016年作『PHANTASIA』リリース時のインタヴュー

『PHANTASIA』収録曲“Odyssey”
 

――ちなみにsirafuくんは最近サンプラーを買ったとのことで。“Quiet School”でもサンプリングを採り入れていますが。

MC.sirafu「はい。この歳でついにMPCを買ったんですよ」

かせき「へ~。僕、99~2000年あたりに、訴えられたら大変なことになるからサンプリングしないでくれって(スタッフに)言われて、何も作れなくなっちゃったことがあって。それで誰の曲だったらサンプリングしていいの?って訊いたら同じ事務所のキリンジしかいないと。キリンジだけをサンプリングして作るアルバムって頭おかしくない? それキリンジでしょ、もう(笑)」

一同「ハハハ(笑)」

かせき「それで作れない間、仕方ないからずっと絵を描いてたんですよ。どうしたらいいかねえ~って」

MC.sirafu「それで絵を描けるのがいいですよね」

かせき「もう必死。何がお金になるかなって(笑)。そしたらそのうちにバック・バンドをやりたいってハグトーンズのメンバーが言ってきて、これでやっとサンプリングしないで曲が作れるなと」

MC.sirafu「そのあたり、“Quiet School”ではわりとうまくやってますね(笑)。多くは語りませんが(笑)」

――サンプリングってすごくおもしろい文化だと思うんですけど、そういう著作権の問題が厳しいので、採り入れるのはなかなか気軽にはできないですよね

かせき「そうですよね。僕がサンプリングをやめろと言われた当時、ツボイくん(illicit tsuboi)が〈今はもうヒップホップは金持ちにしかできない〉って言ってましたね。サンプリングする使用料を払えるお金持ちの、売れっ子のアーティストしかできない手法だと。じゃあできないじゃん!って」

――DJで曲を繋ぐ時のあの違和感というか、ああいうおもしろさって生演奏だけじゃできないですし。

かせき「ハグトーンズにも元ネタのこの曲にこの曲をくっつけてって頼んだりするんですけど、綺麗に繋ごうとすると〈綺麗に繋がないで〉って注文しますね。雑にぼこーんって変わっちゃっていいからと」

――『ONIGIRI UNIVERSITY』もサンプリング自体はしてないけど、そういうムードのあるアルバムだと思いました。

かせき「ああ、サンプリングかのような。確かに一曲にある元ネタの数はハンパないですね。何曲もぶちこんであって、それをバンドで全部演奏していますし」

中川「かせきさんの曲を聴くとアニメや映画を観ているような気分になるんですが、モチーフになったりするような好きなアニメってありますか?」

かせき「ほえ~、そんなイメージ持ってくれてるんですね~。アニメも映画も大好きだけど、詞や曲のモチーフにはなってないかもしれないですね、そういえば。実は現実の想い出そのままだったり、ちょっと変えたり、膨らませたりして書いてますね。物覚えは凄く悪いんだけど、ザラッとした瞬間とかフワッとした瞬間とかはずっと覚えてたりして。単純に好きなアニメだったら『超時空要塞マクロス』です」

『ONIGIRI UNIVERSITY』トレイラー