©Yusuke Yamatani
 

スロウダイヴの新作は冷凍保存された音が解凍されたかのようだった

――まさに〈All Things Must Pass〉ですね。では、その『Pygmalion』から22年ぶりにリリースされたスロウダイヴの新作、その名も『Slowdive』についてお訊きします。まず、このタイミングでセルフ・タイトルのアルバムにしたのはなぜ?

ニール「これが自分たちにとっての新章の始まりだと思ったからだよ。僕らの最初のEPもセルフ・タイトルだったからさ。そこから一周巡って、ふたたび新たなスタートを切ったという意味で、セルフ・タイトルにしてみたんだ」

スロウダイヴの2017年作『Slowdive』“Sugar For The Pill”
 

――アルバムの内容について、小林さんはどう思いました?

小林「スロウダイヴのファンや、スロウダイヴを取り巻くシーンにシンパシーを感じるファンは、僕らの世代にも物凄くたくさんいるんですけど、これまで活動休止していたレジェンド級のバンドが久しぶりの新譜を出すとなると、物凄く期待値が上がるんですよね。で、例えば2013年にはマイブラが、今年はライドとスロウダイヴが新作を出して、その3バンドのなかではスロウダイヴが最も〈ファンの期待にジャストに応えたアルバム〉を出してくれたと思うんです」

――〈俺たちが聴きたかったスロウダイヴがそこにいる!〉っていう感じがしましたよね(笑)。

小林「そう。〈それってなぜなんだろう?〉と考えたときに、僕がスロウダイヴに対して持っていた特殊な感情とつながっているように思ったんです」

ニール「へえ、それは興味深いな(笑)」

小林「どういうことかというと、普通のバンドは一度活動が止まったら、そこでリセットされるというか。そこで、〈昔の自分たちと再会したい〉とか、〈昔の自分たちを思い出そう〉と思っていろいろと試行錯誤するんじゃないかと。でもスロウダイヴは活動再開したとき、まるで冷凍保存されていた音が解凍されたかのように、時間のインターヴァルを一切感じさせずに音が流れ出したと感じたんです。だから、そこには僕が好きなスロウダイヴがすべて詰まっているし、〈これがスロウダイヴです〉っていうアルバムになったんじゃないかと。それを周囲の音楽仲間に話したら、みんな同じように感じたって言うんです。ライドやマイブラの新譜の場合は賛否両論あって、〈俺のマイブラは、俺のライドはこんなサウンドじゃない〉という意見も多かったのに(笑)。その違いっておもしろいなと」

ニール「ありがとう。確かに、今作は自分たちにとっても非常に聴き馴染みのある(familiar)サウンドになったと思ってる」

スロウダイヴの2017年作『Slowdive』“Star Roving”
 

ニック「でもそれは、僕らが意識してやろうと思ったことではないんだ。再結成して以降、5人揃ってライヴをやる機会がすごく多くてさ。そこである程度バンドとしてのウォーミングアップができて、いいヴァイブレーションのままスタジオに入ることができたのが、〈スロウダイヴらしいサウンド〉を獲得できた理由の一つだと思う。もちろんそこで、『Pygmalion』のときのようなエクスペリメントなアプローチをすることも可能だったのだけど、それよりは懐かしさを感じるような、耳馴染みの良いサウンドに向かうことにしたんだよね」

 

クリスチャン・セイヴィルがライヴ中に何をしているのか、メンバーの誰もわかってないんだ

小林「せっかくの機会なので、サウンドについてもお訊きしたいです。例えばコクトー・ツインズって、独自のサウンドシステムを持っているじゃないですか。なので、決まったエフェクトボードをギターに通してツマミを設定すれば、彼ららしいサウンドを鳴らすことは可能だと思うんです」

――Eventide H-3000(ハーモナイザー)や、Eventide SP2016(リヴァーブ)は有名ですよね。

小林「ええ。で、スロウダイヴもコクトー・ツインズと同じように、聴いた瞬間に〈スロウダイヴの音だ〉とわかる。世の中にはスロウダイヴに影響を受けたサウンドを鳴らすバンドがたくさんいるけど、やっぱり本家は違うなと。しかもそれが90年代からずっと続いていますよね。それはどうやって作っているのかな、と」

ニール「確かに、〈スロウダイヴらしいサウンド〉っていうのはあると思う。でも、それを説明することってすごく難しいんだ。例えばニックのベースを聴けば〈ああ、あのバンドから影響を受けたフレーズだな〉っていうのが僕にはわかる。それは他のメンバーも同じなんだけど、バンド全体で音を合わせた時に、一人一人の影響元が混じり合うことによって、〈スロウダイヴらしさ〉が生まれている気がするんだよね。誰か1人が欠けても成り立たない、その絶妙な配合というのが他のバンドにはないスロウダイヴのオリジナリティーであり、強味というか。だからこそ、みんなで久しぶりに集まったときにもすぐに〈スロウダイヴの音〉になったんじゃないかな」

ニック「あとさ、クリスチャン・セイヴィル(ギター)って実は大事な存在だよね。彼がライヴ中、何をしているのかは誰もよくわかってないんだ(笑)」

ニール「そう、まったく不明だよね」

スロウダイヴの93年作『Souvlaki』収録曲“When The Sun Hits”のライヴ映像。ステージ上手のギタリストがクリスチャン・セイヴィル
 

ニック「〈今夜のライヴでは一体どんなことをやるんだろう?〉というのが、僕らにとって楽しみの一つでもあったりして(笑)。別に彼はメイン・ヴォーカリストでもないし、メインのギター・フレーズを弾いているわけでもないんだけど、実はスロウダイヴにはなくてはならない音を奏でているんだ」

ニール「そうだね。だから、2013年に再結成の話が持ち上がったとき、いまいる5人のうちの誰か1人でも欠けていたら、おそらくやらなかったかもしれない。今回、オリジナル・メンバー5人でやるということが、非常に重要だったんだ」

小林「それって、まさに僕が訊きたかった話だったので腑に落ちました。やっぱり、再結成したバンドが、過去の自分たちの〈フリ〉をするというか、〈マネ〉をし始めたら、それはあまり美しくないんじゃないかと思っていて。僕がスロウダイヴの新作を聴いたとき、非常にナチュラルに〈これがスロウダイヴだよな〉って感じたのは、本人達も〈この5人がスロウダイヴなんだよね〉って思って鳴らしているからじゃないかと」

ニール「うん、その通りだよ」

――ちなみに、アルバム制作でもっとも印象に残っている曲は?

ニール「1曲目に入っている“Slomo”かな。とにかく、思いつくありとあらゆることを試してみて、どれが正しい方向性なのかをジャッジするまでに時間がかかったからさ」

ニック「ライヴでこの曲をプレイすると、毎回ちょっとずつ違う方向へ向かうんだよ。その度に、延々と試行錯誤していたレコーディングのことを思い出すから、ちょっとトラウマになってる(笑)」

 

サウンドやアトモスフィア、空間のなかから抽象的な感情を喚起できれば

小林「僕は英語があまり聞き取れないんですが、聞き取れないまま海外の音楽を聴いて、そのメロディーやサウンド、演奏にものすごく感動したり影響を受けたりしているんです。おそらく、そういう日本人は僕だけではないと思っていて。で、歌詞を聞き取っているわけでもないのに、僕はスロウダイヴの音楽から〈儚さ〉や〈神聖さ〉〈青春のきらめき〉みたいなものをイメージするのが不思議だなと。実際はどんなことを歌っているのだろう、僕のそういうイメージってどこまで正しいのかなって気になっていました」

ニール「わお、それってすごく嬉しい感想だよ。ていうか、自分たちでも何を歌っているのかわからないから、歌詞なんて聞き取れなくても大丈夫(笑)」

一同「(笑)」

ニック「僕らの歌詞は、英語圏の人たちでも明確には聞き取れない。でも、すごく政治的なステイトメントを標榜しているわけでもない。非常にパーソナルなことを歌った曲がほとんどなので、サウンドやアトモスフィア、空間の中から何か抽象的な感情を喚起してもらえたのなら、僕らとしたらとても嬉しいことだよ」

ニール「いずれにしても、言葉よりもサウンドのほうが、僕らの音楽では大切だからね。だからこそ、言葉の壁を超えて、より多くの人たちが僕らの音楽との繋がりを感じてくれているのかなって思う」

スロウダイヴの91年作『Just For A Day』収録曲“Golden Hair”のライヴ映像
 

――〈抽象的な感情をサウンドで伝える〉ということこそ、音楽にしかできない表現だと思うし、マイブラやライド、スロウダイヴはそこにコミットしているから僕らは惹かれるのだなとあらためて強く思いました。

ニール「うん、音楽はそうであるべきだと僕も思う。言葉にできないものを表現するのが音楽だからね」

――さて、今作が〈スロウダイヴ新章の始まり〉とおっしゃいました。次の展開は考えていますか?

ニール「今はツアーの準備が忙しくて、まだ新作の制作には入っていないけど、ちょっとした新しいアイデアはいくつか思いついているので、いずれまたレコーディングに入るつもりだよ。2、3か月後にはスタジオに入れたらいいな」

小林「楽しみにしています。今日は貴重な時間をありがとうございました」

ニールニック「こちらこそ、ありがとう!」

 


■THE NOVEMBERS
初のベスト・アルバム『Before Today』が9月13日(水)にリリース
既発曲に加えて、過去の楽曲を今のTHE NOVEMBERSがレコーディングした新録音源も収録した2枚組

THE NOVEMBERS Before Today MAGNIPH/HOSTESS(2017)

〈TOUR – Before Today –〉
2017年10月6日(金)北海道・札幌DUCE
2017年10月19日(木)香川・高松DIME
2017年10月21日(土)広島CAVE-BE
2017年10月22日(日)福岡graf
2017年10月27日(金) 大阪・梅田Shangri-la
2017年10月29日(日)愛知・ 池下CLUB UPSET
2017年11月2日(木・祝前)宮城・仙台enn 2nd
2017年 11月3日(金・祝) 新潟GOLDEN PIGS BLACK
2017年 11月8日(水) 東京・赤坂BLITZ