(C)Bernard Martinez, La Dolce Volta

ルーマニア楽派の名手が、並外れの愛情を込めた新譜を発表!!

 日本での知名度が何故これほどまで不当に低いのだろう? 今年6月の恵比寿・日仏会館での演奏もそうだったが、彼女のピアノには、アルゲリッチのような大胆さとハスキルを想わせるリリシズムが奇跡のように同居しているというのに……。

 その彼女とは、ルーマニア系フランス人のダナ・チョカルリエ。リパッティ、ハスキル、ルプーらを輩出したルーマニア楽派の流れを汲む彼女は、現在、協奏曲、ソロ、室内楽と多岐に渡り国際的に活躍中だ。この度、その真価を示した録音『ロベルト・シューマン ピアノ独奏曲全集』が、初の国内盤としてリリースされる!

DANA CIOCARLIE シューマン:ピアノ独奏曲全集 la dolce volta(2017)

 「私は14歳の頃から彼の内的な作風に惹かれ、1996年のシューマン国際コンクールでは第2位に入ることができました。また、パリ国立音楽院を受験した際の試験官の一人から、“君は真のシューマン弾きで、ナットを彷彿とさせる”と褒められたこともあり、長年、特別な相棒であり続けてきたんです。今回の録音は、2012年3月~16年10月の約4年半に行ったリサイタル・シリーズをCD化したもの(会場はパリのベアグ館内の在仏ルーマニア大使館で、ピアノはヤマハCFX)。かつて、フォーレのレクイエムが初演前に試演された約300席の神秘的な空間とクリアな音響、そして、たおやかな響きのCFXという理想的な環境で録音に臨めました」

 録音開始時に弾いたことのあるシューマンの独奏曲は全体の65%だったチョカルリエ。半年ごとに全13回の公演を行った軌跡を、「毎回オリンピックに出るような気分でしたが、次第にエネルギーの配分方法が備わり、その都度積み上げたすべてを、本番で一気に放出できるようになりました」と振り返る。

 その演奏は、彼女が初めて弾いたシューマン作品だという《子どものためのアルバム》、パリ国立音楽院の入試曲目《フモレスケ》、そして先日の公演でも鮮烈な印象を残した《謝肉祭》など、名演は枚挙に暇がない。だが、この全13枚組の白眉を挙げるならやはり、本人も「すべての要素がこの上なく調和したと瞬間」と語る《ダヴィッド同盟舞曲集》だろう。

 「実はこの作品は2度録音していて、1度目はパリ同時多発テロ直後の15年11月でした。大変重苦しい雰囲気の中で、あの快活で幻想的な作品を弾くことは難しく、半年後に再録音したんです。この時は打って変わって、淀みがひとつもなく、最も自然な状態に身を委ねられて。私はグールドを心から敬愛していますが、自分は彼のようにスタジオに篭る録音がつくづく向かないと自覚しましたね(笑)」