写真提供:COTTON CLUB 撮影:山路ゆか

このメンバーだからこそのベッカネス! 今いちばん見逃せないアーティスト

 エレキ・ギターを抱えた姿が何とも凛々しく、ただ見惚れてしまう。でも同時にこの美しい花が堂々と映るのはバック3人の高度な技術力もあってのことで、ひとつのジャンルに押し込められるのは嫌という彼女の願望を叶えるべく変幻自在の技で縦横無尽の音世界を淡々と生み出していく。これは去る7月に行われたベッカ・スティーヴンス・バンドの来日公演の話。ベッカ・バンドの素晴らしさを説明すると? って当のベッカ・スティーヴンスに訊ねると「考えたこともなかったけど、そうねぇ、ベッカネス(ベッカっぽさ)かな」といたずらっ子っぽい返答が。それはもう納得するしかない。

BECCA STEVENS Regina Ground Up/コアポート(2017)

 各方面で名作と称されている最新アルバム『レジーナ』。UKのプロデューサー、トロイ・ミラーやブルックリンのスタジオの共同オーナーであるスナーキー・パピーのマイケル・リーグがサポートした本作はもはやジャズの枠で語ることを躊躇われるスケールの大きな作品であり、このシンガー・ソングライターの広がり続ける無限の可能性を示す作品でもある。

 「ソング・ライティングのテーマだった〈女王〉が与えるイメージ。アルバム全体的に女性性が表れる結果となったわけだけど、そこから生まれた力強さが音にも影響を与えたんじゃないかと思う。エリザベス1世に始まり、フレディ・マーキュリーにまで繋げながら、自分の内にある〈女王〉的なイメージを表へ引っ張り出すようにやったつもり。それが自分に眠っているものをより深くまで掘り下げる作業につながった」

 従来より深く掘り下げられたものとしてコーラスワークも挙げられる。質感やニュアンスを変化させつつ緻密に構築された声の響きは豊かな広がりを見せ、何やら使用するキャンバスが大きくなった印象すら与える。ジェイコブ・コリアーやデヴィッド・クロスビーといったユニークな声の持ち主とのコラボも大変刺激になった模様で魅力的な対話が随所に登場する。

 「ライヴで再現できるものを念頭にずっと曲を書いてきたけど、新作はベッカ・スティーヴンス・プロジェクト的な性質のものだったし、より自由に書けた。あとテーマから女性の歌声がもっとあっていいのでは? というインスピレーションが湧いて、普段より高音域を重ねる挑戦へと進んだところもある。今回学んだことは、自分がすべてじゃないってことかな。同時に、外に題材を求めなくても自分のなかから引き出せるものでこれほどの作品が作れるんだって自信も得られたわ」

 ではもう次なるプランはもう見えているの? と訊いたところ、「近いうちに教えることができると思うから、待っててね」とまたしてもいたずらっ子っぽいスマイルが。ただじっと待つしかない。