アコースティック・レゲエ・シリーズ〈イナ・ディ・ヤード〉深化を遂げた新装再開盤!

 フランスのレーベルが企画し、00年代にヒットしたアコースティック・レゲエ・シリーズ〈イナ・ディ・ヤード〉。ジャマイカ/キングストンは、レゲエ・ギターの第一人者アール “チナ” スミス邸の庭(ヤード)に集うアーティストが繰り広げるアコースティック・セッションをフィールド・レコーディングするという趣向だった。これは録音場所を変えたその新装再開盤で、音質的にも内容的にもさらなる深化と洗練を遂げている。

VARIOUS ARTISTS Inna De Yard:The Soul Of Jamaica Chapter Two/プランクトン(2017)

 今回はキングストン北方の緑溢れる山々を臨む家のテラスと、そこからつながる解放的な屋内で録音された(国内盤初回特典DVD-Rのドキュメント映像とクリップ集も参照のこと)。ジャケットの2人、キダス・アイとセドリック・マイトン(コンゴス)を筆頭に、ケン・ブース、ロイド・パークス、ヴァイスロイズ、ウィンストン・マカナフ、デラジャーほか新旧名シンガーたちと、今年惜しくも他界した名トロンボーン奏者ナンボ・ロビンソンをはじめボー=ピー、ロビー・リンらヴェテラン勢から若手まで名演奏家たちが集結した。

 その結果は、おそらく過去のどのレゲエ作品とも違うし、特別な音楽体験とさえ言っていいかもしれない。アコースティック楽器のみのアンサンブルは、自然界の霊気と響き合い、共振し、澄み切ったサウンドスケイプが、手を伸ばせば触れられそうな鮮やかさで立ち現れる。そこに音の粒が精霊のように舞い、歌のひと節ひと節が言霊となって降り注いでいるような出来映えだ。歌われるのがシンガー各自が選りすぐった名曲揃いである上に、各曲の美点が隅々まで活性化され、キラキラ輝いて見える。レゲエだからもちろん胸が痛くなるようなゲットーの日常と闘争を歌った曲も多いが、曲のリアリティーが不要な装飾で殺がれることなく生のまま伝わってくる、そのピュアさ、透明感がこの上なく心地よく感動的だ。欠点が見当たらない。名作は数多いが、これは次元が違う。