(C) Takehiko Tokiwa

ショーロは、いつも楽しいパーティのフィーリングと、サウダーヂにあふれている。

 現代NYジャズ・シーンで、実力、人気ともにナンバー・ワンのクラリネット奏者、アナット・コーエンは、バークリー音楽大学時代に、ブラジル音楽に魅了され、その虜となった。コーエンの出身地、イスラエルは、世界各地からの様々な移民で国家が成り立つ文化の交流点であり「ヘブライ音楽の中に、アラブやアフリカの音楽の要素を見出し、そしてジプシー音楽の要素を通じて、南米音楽のリズムや旋律に魅了されていた」とかつてインタヴューの中で語っている。渡米直後のコーエンにとっては、ジャズよりも、ブラジル音楽の親和性が高かったのである。これまでも、アントニオ・カルロス・ジョビン(p,g,vo)の晩年のワールド・ツアー・バンドのメンバーだった、ドゥドゥカ・ダ・フォンセカ(ds)のグループに参加、自らの7枚のリーダー作の中でも、たびたびブラジリアン・ソングを取り上げ、ブラジルのプレイヤーたちと共演してきたコーエンだが、今回ブラジルで、2枚のアルバムを現地のプレイヤーと録音した。マルセロ・ゴンサルヴェス(g)とのデュオで、モアシール・サントスの作品に挑んだ『Outra Coisa』と、ショーロ・ユニットTrio Brasileiroと共演した本作『Rosa Dos Ventos』である。

ANAT COHEN,TRIO BRASILEIRO ROSA DOS VENTOS ANZIC RECORDS(2017)

 本作は、昨年リリースした(録音は2013年)『Alegria da Casa』の続編であり、前作同様、10弦バンドリンの名手ドゥドゥ・マイアと、ダグラス・ロラ(g)とアレクサンドラ・ロラ(per)の兄弟が参加し、ブラジリアのマイアのホーム・スタジオに、一週間滞在して録音された。「ショーロは、正確さが必要だけど、音楽にパーソナリティと、一人々々の解釈を盛り込めて、クラシックとジャズの完璧なミックス、だから大好き。ショーロは、全員に重要な役割がありながら、オープンで自由奔放に演奏できる。グルーヴに乗って美しいメロディが生まれ、いつも楽しいパーティのフィーリングや、サウダーヂにあふれている」とコーエンは語る。