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マックルモア『Gemini』 ライアン・ルイスとのコンビを解消し、12年ぶりのソロ・アルバムで描いたパーソナルな心象風景とは?

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  • 2017.09.26
マックルモア『Gemini』 ライアン・ルイスとのコンビを解消し、12年ぶりのソロ・アルバムで描いたパーソナルな心象風景とは?

新時代のヒップホップ・スタイルを牽引してきたマックルモア&ライアン・ルイスの片割れが、12年ぶりにソロ・アルバムをリリース! 改めての独り立ちはどんな衝撃を届けてくれる!?

独りになるということ

 「ライアンは俺の永遠のブラザーだよ。だって、来月のライアンの結婚式では介添人を務めるしね」。

 今年の6月、ニュー・アルバムに向けてマックルモアの新曲“Glorious”がサプライズ・リリースされた。それと共に公式にアナウンスされたのはデュオとしての活動休止。つまり、次に用意されているアルバムが〈マックルモア&ライアン・ルイス〉の作品ではないということであった。スカイラー・グレイを迎えて“Can't Hold Us”も連想させる雰囲気になった同曲をプロデュースしたのは、コンビ作品はもちろんマックルモアの前ソロ作『The Language Of My World』(2005年)の頃から参加していた盟友ジョシュア“ブドー”カープ。ある意味ライアンよりも付き合いの長い相棒と表現できる右腕的な存在だ。つまるところ、その前作を出した頃の環境に回帰して自身の作品に取り組みたいという意識がマックルモアの中に生まれてきたのは確かだろう。いずれにせよ、タッグ結成から10年ほどの長きに渡って行動を共にしてきたライアンの力を借りることなく、ソロ作の制作はかねてから着々と進められていたようだ。

 活動休止になってみてから思い当たるのは、昨年マックルモアが製作してMTVで放送された薬物依存と製薬会社にまつわるドキュメンタリー番組「Prescription For Change: Ending America's Opioid Crisis」用に作られた楽曲“Drug Dealer”がマックルモアのソロ名義によるトラックとなっていたこと。自身がオピオイド依存に苦しんだ経験の持ち主であり、コンビ名義でも『The Heist』(2012年)に収録された“Starting Over”や『This Unruly Mess I've Made』(2016年)収録の“Kevin”などでマックルモアは同じテーマに触れてきていた。が、企画用のトラックとはいえパーソナルな内容に踏み込んだ“Drug Dealer”がソロで発表されたことは、よりプライヴェートな事柄やパーソナルな内面の表現へ向かうべくソロ名義へ一歩踏み出すという選択肢がその頃から生まれていたのかもしれない、と捉えることもできる。そうでなくても、成功と引き替えに逃れられない苦しみを引き受けさせられたポップスターがフッと内省に傾くという例は古今東西いくらでもある例だし、それによって濃密な関係が限界を超えて行き詰まってしまうこともあるだろう。比較する者がほとんどいないほどの破格の成功を収めたデュオの一員だからして、彼らがそちら方向に振り切ってバランスを保とうとしたとしても何もおかしくはない。ゆえに、『Gemini』と題された12年ぶりのソロ・アルバムも、いままでになく内側に入り込んだシンガー・ソングライター的な内容になるのではないか……という想像も容易だった。しかしながら、ようやく届けられたアルバムをチェックしてみるとそれは半分アタリで半分ハズレのようにも思える。実際に『Gemini』を占める楽曲は良い意味でコンビ時代の作風をそのままアップデートしたもので、一体感をそそるカラフルなプロダクションの魅力にそこまで大きな差異を感じることは難しいだろう。

 

大きすぎた成功

 そもそもワシントン州シアトル出身のマックルモアことベン・ハガティがラッパーとしてのキャリアを本格的に歩みはじめたのは2000年のことだ。そこから先述のファースト・アルバム『The Language Of My World』やミックステープ扱いの『The Umplanned Mixtape』(2009年)を経たのち、同郷のプロデューサーであったライアンと知り合ってデュオを結成。2人組になってからは大手ヒップホップ・メディアで紹介される機会も増えていき、2012年に入るとXXLの名物企画〈Freshman Class Of 2012〉に選ばれ、The Sourceの〈Unsigned Hype〉コーナーで取り上げられるに至った。後にいくつものヒット・チューンを生み出すことになるデュオでのファースト・アルバム『The Heist』が自主レーベルからリリースされるのも同年10月のことである。それ以降の歩みはご存知の通りだろう。すでに高まっていた期待を受け、アルバムは全米チャートで初登場2位を記録してメインストリームでも一躍注目の存在となる。そして凄まじかったのは同作から飛び出したシングル群のヒット・スケールだ。結果的には“Can't Hold Us”が全米1位を5週に渡って記録したほか、“Thrift Shop”はそれ以上の6週No.1を獲得、他にも“Same Love”が全米11位、“White Walls”が15位、と休みなく大ヒットを連発(なお、“Thrift Shop”は翌年の全米年間シングル・チャートでは“Thrift Shop”が首位、“Can't Hold Us”も5位という成績を収めた)。そして2014年の第56回グラミー賞にて主要部門を含む計7部門にノミネートされ、最終的に最優秀新人、最優秀ラップ・アルバム、最優秀ラップ・ソング、最優秀ラップ・パフォーマンスの合計4部門を受賞。新人賞を逃したケンドリック・ラマーに詫びるという一件を記憶している人もいるかもしれない。

 2015年にはマーク・ロンソン“Uptown Funk”の人気にも呼応する形で“Downtown”がプラチナ・ヒット。これはメリー・メルとクール・モー・ディー、グランドマスター・カズという伝説のオールドスクーラーたちを招いて80年代初頭のラップ・スタイルを披露、ヒップホップ・カルチャーへの敬意を表したものだった。ただ、前作での大ブレイクぶりを思えば、コンビでのセカンド・アルバム『This Inruly Mess I've Made』(2016年)が商業的に不満足な結果だったのは否めず、そうした反応がリフレッシュのためのコンビ解消へと気持ちを切り替えさせた可能性もある。ともあれ、そうした状況をバックグラウンドに生まれたのが今回の『Gemini』なのだ。

 

変わらないポップネス

MACKLEMORE Gemini Macklemore/ワーナー(2017)

 〈双子座〉を意味するアルバム表題は、マックルモア自身と愛娘が共に双子座の生まれだからだろう。プロデュースには先述のジョシュア“ブドー”カープ、タイラー・ドップスという地元シアトルの仲間が起用され、アルバムのスペシャル・サンクス欄によると、制作を始めたのは昨年11月からだという。やはり昔のように友人たちと地下室に集まってレコーディングに打ち込み、結果を望んだり周囲の期待を意識することもなく、純粋に自分のやりたい音楽を詰め込んだ結果としての全16曲。プロデューサー陣と同じようにゲスト・ラッパーやシンガーたちも知名度を問わず、身近な仲間や交流のある顔ぶれが中心なのはこれまでの作品と同様だ。

 ただ、“Glorious”でのスカイラーと同じく、マックルモア自身がビッグになって交友を広げたからこその豪華なコラボも用意されている。“Glorious”に続く先行カット“Marmalade”は人懐っこいサザン・ビーツにリル・ヨッティを迎えたメロディアスで親しみやすい出来映え。さらにアルバムは新たな展開を見せていく。著名ラッパーとのコラボという意味ではミーゴスのオフセットをフィーチャーしたパーカッシヴなトラップ“Willy Wonka”があり、さらなる目玉の一つとして、苦杯を舐めつつカムバックしてきたケシャとの“Good Old Days”も収録されている。そんなケシャの新作にはライアン・ルイスもプロデュースで関与していて……ちょっと安心してしまった(失礼)。

 ちなみに日本盤ボーナス・トラックとしては、いずれも昨年ソロ名義でリリースしていた2曲、先述の“Drug Dealer”と“Wednesday Morning”が収録されている。後者は米大統領選の翌朝の心境をラップで綴ったもので、トランプ政権下において自分自身や娘の将来住む世界がどうなるのかという、問題意識と親心の入り交じった思いを率直に吐き出したような曲だ(昨年はYGの“FDT”リミックスでもラップしていた)。そうしたボートラからも顕著なように、ある種のメッセージ性が全体にまぶされてはいるものの、キャッチーで人懐っこい意匠によってどの曲もナチュラルなポップ・ナンバーとして楽しめられるのがこのチームのいいところだろう。

 このようにして薬物やアルコールに依存していた過去の状態を脱却したマックルモアは、改めて自分自身の思いを楽曲にすることで内面と向き合い、新たな門出としてポジティヴに独り立ちした現状を謳歌していくはずだ。まずはその確信に満ちた一歩一歩を注視していきたい。

マックルモア&ライアン・ルイスの作品。

 

『Gemini』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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