ドゥニ・ヴィルヌーヴ メッセージ ソニー・ピクチャーズ(2017)

SF映画の代表作の続編「ブレードランナー 2049」の監督に抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーヴによる本作は、女性言語学者と宇宙人の対話を通して現代的なメッセージ――暴力や排斥の意志がすぐ隣にあるなかで〈対話〉を選ぶことの必要性を私たちに伝えてくれる。宇宙人と対話を重ねるなかで未来が見えるようになる主人公の設定などはその〈必要性〉の象徴と言えるだろうし、ドナルド・トランプを筆頭とした排斥的姿勢が広まる現在に対し、切実な歯止めとしても機能するように感じる。そんな映画の壮大な雰囲気作りへ多大に貢献している、ヨハン・ヨハンソンが担った音楽も素晴らしい。静謐で荘厳なサウンドは、未知なる存在の不気味さ、あるいはそうした不気味さに触れた人類の恐れといったさまざまな場面の表象になっているのも興味深い。 *近藤

ヨハン・ヨハンソンが手掛けたサントラ『Arrival』(DG Deutsche Grammophon/ユニバーサル)

 

バリー・ジェンキンス ムーンライト カルチュア・パブリッシャーズ(2017)

アカデミー授賞式の珍事はともかく、〈作品賞〉を受け取ったのは絢爛なメロドラマ「ラ・ラ・ランド」ではなく、静謐でささやかな物語たる本作。それは〈ブラック・ライヴズ・マター〉の波を受けて? それとも大統領へ向けた意思表明として? 否、少年の成長過程で育まれたロマンティシズムを、どこまでも大切に、守り抜くかのようなタッチで描いたからだろう。容姿は変わっても、歳を重ねても、決して消えないイノセンスがある。その当たり前の〈弱さ〉を、世界は祝福したかったのではないか。ピアノとチェロのみの簡素な演奏をベースに主人公たちの想いをなぞっていく、ニコラス・ブリテルによるスコアも素晴らしく、メイン・テーマをチョップド&スクリュードさせて動揺と苦痛を表すなど、その手法面においても目を見張るものがある。 *田中

ニコラス・ブリテルが手掛けたサントラ『Moonlight』(Invada/ランブリン)

 

ニコラス・ウィンディング・レフン ネオン・デーモン ギャガ(2017)

〈暴力の美〉を映し出すことでは当代随一の監督ニコラス・ウィンディング・レフンが、虚栄と背信の渦巻くファッション業界を舞台に、エル・ファニング扮するモデル志望の少女と彼女を取り巻く人々の顛末を描いた、LA地獄巡り。レッチリの初期ドラマーという経歴も今は昔、同監督とは「ドライヴ」以降の蜜月が続く、クリフ・マルティネスが今作でも音楽を担当し、ちょっとゴブリン味もする不穏なシンセとヒプノティックな打ち込みのビートが、得体の知れない怖さを醸し出す。ポップ勢からの提供曲もハマっており、なかでもシーアの“Waving Goodbye”で歌われる、変わってしまった自分への悔恨は、主人公の末路から届いた叫びのよう。ネオン・カラーに彩られた装飾の裂け目から、ドス黒い情念と真紅の血液がドロリと流れ出す。 *田中

クリフ・マルティネスが手掛けたサントラ『The Neon Demon』(Milan/ワーナー)

 

ガース・ジェニングス SING/シング NBCユニバーサル(2017)

「ミニオンズ」「ペット」のスタッフが結集して制作された、ミュージカル色も備えるフルCG長編アニメ。動物だけが暮らす世界を舞台に、ゾウのミーナやゴリラのジョニーら悩める面々が、コアラのバスター・ムーンが再生させようとする地元劇場のオーディションに挑んでいく。ドタバタと共に活写される音楽と歌のパワー。観どころはライヴ・シーンだ。ジョニーによるエルトン・ジョン“I'm Still Standing”(日本語吹替版ではスキマスイッチの大橋卓弥が熱唱!)、クライマックスでミーナが歌うスティーヴィー・ワンダー“Don't You Worry 'Bout A Thing”などの名曲カヴァーにワクワクが止まらない! バスター役のマシュー・マコノヒー(こちらの吹替版は内村光良)も名演だし、マイノリティーの人間(≒動物)ドラマが泣けます。 *田山

サントラ『Sing』(Back Lot/ユニバーサル)

 

デイミアン・チャゼル ラ・ラ・ランド ギャガ(2017)

「セッション」のデイミアン・チャゼル監督による、アカデミー賞6部門受賞のミュージカル・ロマンス。夢を抱いてLAへやって来た女優志望のミア(エマ・ストーン)と自分の店を持ちたい売れないジャズ・ピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)の恋の行方を、完全オリジナルの音楽、ダンス、ストーリーでビター・スウィートに描く。ピアノはゴズリングが実際に弾いていて、なかでも〈歌曲賞〉に輝いた2人のデュエット曲“City Of Stars”が切なすぎる名曲! セブが資金作りのために入ったバンドの曲とはいえ、キース役のジョン・レジェンドが歌う“Start A Fire”や、豪華なジャズ~オーケストラ・サウンドに酔えるオープニング・ナンバー“Another Day Of Sun”もいい。ジャズへの想いを含め、夢追い人は偏愛的でナンボ! この熱量に溺れてほしい。 *田山

サントラ『La La Land』(Interscope/ユニバーサル)

 

F・ゲイリー・グレイ ワイルド・スピード ICE BREAK NBCユニバーサル(2017)

カー・アクション映画の大ヒット・シリーズ〈ワイルド・スピード〉。公開時期のストリート感を反映させたサントラ(今回はヤング・サグ、2チェインズ、ウィズ・カリファ、PnBロックがマイクを回す“Gang Up”を幕開けに、スターから注目新人まで揃ったラップ・アクトのコラボ曲が目白押し!)も毎度注目の〈ワイスピ〉だが、本作はその第8弾にしてシリーズ最終章となる3部作の1作目だ。今回のラスボスは、「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」のフュリオサ大隊長や10月に公開を控える「アトミック・ブロンド」の女スパイ他、強くてコワイ美人ならこの人!なシャーリーズ・セロン演じるサイバー・テロリスト。その元で仲間を裏切ることになる主人公ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)の奪還劇が大筋で、ICEがBREAKしまくるクライマックスをはじめ、過剰にダイナミックな戦闘シーンの連続に爽快感を覚えること請け合いだ。敵から味方へジョブ・チェンジしたうえ、なぜか陽気さもプラスされたデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)の存在など人間関係にも熱い動きがありつつ、まずはポップコーン片手の気軽さでエンジョイしてほしい超娯楽作! *土田

2017年のサントラ『Fast & Furious 8: The Album』(Atlantic/ワーナー)

 

ダニー・ボイル T2 トレインスポッティング ソニー・ピクチャーズ(2017)

90年代のポップ・カルチャーを象徴する青春映画の金字塔が、その20年後の未来を描く続編として帰ってきた! 前作では仲間を出し抜いて大金を持ち逃げしたレントンがスコットランドに戻るところから話は始まり、シック・ボーイ、スパッド、ベグビーと再会。やはり超過激なトラブル続きの展開へ。時が経っても、相変わらずどうしようもない4人。それにもかかわらず、心底のめり込めるオシャレな映画に仕上がったのは、音楽の力が大きい。プロディジーがリミックスしたお馴染みのイギー・ポップ“Last For Life”、アンダーワールド“Born Slippy”の新ヴァージョン“Slow Slippy”は、現代の若者が前作と原曲へ辿り着くために機能すればOK。トイレ(今作でも何かと重要)でレントン&ベグビーが鉢合わせするシーンのランDMC VS. ジェイソン・ネヴィンス“It's Like That”とか、そこからの逃走劇を彩るフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド“Relax”とか、憎しみと友情と懐かしさの交錯が最高です! ヤング・ファーザーズやファット・ホワイト・ファミリーら尖った若手の参加もいい。終始息を呑みっぱなしでスリリング! 中毒者はドラッグだけに限らない? *田山

2017年のサントラ『T2 Trainspotting』(Polydor/ユニバーサル)