映画と音楽が対バン! あら恋の企画イヴェントをレポート

(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

〈シネマティック・ダブ〉を標榜する7人組、あらかじめ決められた恋人たちへ。彼らが企画する映画との対バン・イヴェント〈Mixing Vol.2〉が9月6日に開催された。先攻で上映されたのは、バンドの中心人物・池永正二が音楽を担当した熊切和嘉の監督作品「武曲 MUKOKU」。幼少時より父から剣道のスパルタ教育を受け、実力を身に付けたもののある出来事のためにドロップアウトした男、矢田部研吾(綾野剛)と、バンドでラップを担当する今どきの高校生ながら、洪水で死にかけた際のフラッシュバックに苛まれる羽田融(村上虹郎)。ふとしたことで剣道を始め、才能を開花させていく羽田と矢田部を軸として転がる物語には常に死の気配が漂っており、静寂を際立たせるピアノをメインとするアンビエントがその緊張感を煽り、一時の緩和を生む。そうした細やかな音響や、逆に台風の夜の決闘シーンにおける轟音など、爆音上映だからこそ肌で感じることのできる音が、映画の持つ殺伐とした空気を伝えていた。

photo by タイコウクニヨシ

 そして後攻はあら恋のライヴ。この日はステージの後方と客席の左右、三面の壁にVJを投影した演出を交えてのパフォーマンスで、徐々に夜が明けていくビル街の光景やグラフィカルな映像などが、叙情的なダブ・ロック、人力ミニマル・テクノといった楽曲の持ち味を増幅させていく。一方で、映像なしのナンバーでは逆に照明を抑え気味だが、それでも観客の中にある深い記憶にリーチするのがこのバンドの凄いところ。バックライトに照らされてエモーショナルな動きを見せるメンバーの影が懐かしい何かの像と結び付くような気がして、ちょっと泣きそうになる。ゲストであるeastern youthの吉野寿の登場前なのにこんな状態で大丈夫だろうか……と思っていたが、まったく大丈夫ではなかった。彼が歌う“Fly”は「武曲 MUKOKU」のエンディング曲でもあるが、激情によって雑念を浄化するかのような凄まじい歌唱で、あっという間に場の空気をさらっていく。自分の中から込み上げるエモさにいい意味でヘトヘトになり、最後に映画のパッケージ化も告知されたところでイヴェントは終了。映画×音楽の企画はありそうでそれほどないので、次回も期待して待ちたい。  *土田

左から、12月6日にリリースされるBD/DVD「武曲」(TCエンタテインメント)、あらかじめ決められた恋人たちへのベスト盤『あらかじめ決められた恋人たちへ -20th BEST-』(KI-NO Sound)

 

★あらかじめ決められた恋人たちへ 活動20周年記念イヴェント〈Dubbing10〉決定!
日時/場所:11月23日(木・祝)恵比寿LIQUIDROOM
詳細はオフィシャルサイト〈arakajime.main.jp/〉でご確認を!