Photo by Ellika Henrikson
 

スウェーデンを拠点に、全世界のポップ・フリークたちを虜にするシンガー・ソングライター、イェンス・レークマンの来日公演が決定。10月17日(火)に東京・渋谷7th Floorでライヴを行う。Pitchforkで10点満点中9点を獲得し、英メディアのGuardianも5つ星を与えるなど絶賛を浴びた2007年作『Night Falls Over Kortedala』でその名を広め、以降も2011年の『I Know What Love Isn’t』、今年リリースした最新作『Life Will See You Now』と、洒脱なアレンジと優男&ダンディーな歌声を持ち味に、ディスコ/ガラージやカリプソ、サンバなどを採り入れた色鮮やかなポップネスを開花。4年ぶりとなる日本でのライヴも、7th Floorならではの柔和な空気に溶け合う、最高にハッピーでスウィートな夜を作り上げてくれるはずだ。全国各地からファンが集うであろう同公演を前に、音楽ライターの清水祐也がイェンス・レークマンのキャリアを振り返った。 *Mikiki編集部

 


 〈最近のクラブでは、「もしも踊らないなら、お前をボコボコにするぞ」って言ってるような音楽ばっかりかかってるからね。僕は「踊らなくてもいいけど、我慢できるかい?」っていう音楽をかけたいんだ〉

 以前そんなふうに話してくれたのは、DJをする機会も多いというスウェーデンのシンガー・ソングライター、イェンス・レークマン。今年の2月にリリースされた5年ぶりのニュー・アルバム『Life Will See You Now』も好評な彼が、来日公演を行うことになった。

 1981年、スウェーデンのイエテボリで生まれたイェンスは、2003年にEP『Maple Leaves』でデビュー。今年亡くなったカントリー歌手のグレン・キャンベルが歌ったジミー・ウェッブ作の〈恋はフェニックス〉と、ママス&パパスがカヴァーしたロックンロール・クラシックの〈踊ろよベイビー〉をサンプリングした表題曲もさることながら、ビート・ハプニングのキャルヴィン・ジョンソンの歌声をサンプリングして疑似デュエットをしてしまった“Pocketful Of Money”、レフト・バンクとベル&セバスチャンをサンプリングした“Black Cab”、さらにはテレヴィジョン・パーソナリティーズの“Someone To Share My Life With”のカヴァーを含むこのEPで、イェンスは〈サンプリング世代のシンガー・ソングライター〉として、颯爽とシーンに登場したのである。

 翌年には米インディー・レーベルのシークレットリー・カナディアンと契約し、ファースト・アルバムの『When I Said I Wanted To Be Your Dog』と、初期の3枚のEPをまとめた『Oh You're So Silent Jens』をリリース。なかでも3枚目のEPに収録されていた“A Sweet Summers Night on Hammer Hill”は、マーサ&ヴァンデラスの“Heatwave”とシャングリラスの“Remember (Walking In the Sand)”をサンプリングしたノーザン・ソウル風のキラー・チューンで、現在でもライヴのハイライトのひとつになっている。

“A Sweet Summers Night On Hammer Hill”のライヴ映像
 

 こうした作品は日本のインディー・ポップ・リスナーの間でも話題となり、2006年には熱心なファンの尽力によって初来日が実現。iPodでオケを流しながらギターを弾き語るというスタイルや、曲によっては共演した日本のバンド、4 bonjour’s partiesのホーン・セクションを招き入れたりしたアットホームな雰囲気もさることながら、のちにラフ・トレードからリリースされることになるアーサー・ラッセルのカヴァー曲“A Little Lost”を披露していたことも印象的だった。

 そして2007年には、これまでのサンプリングに加えて生バンドやストリングス、ホーン・セクションの比重が増え、エル・ペロ・デル・マーやフリーダ・ヒーヴォネンといった地元スウェーデンの女性ミュージシャンたちの歌声も花を添えたチェンバー・ポップの傑作『Night Falls Over Kortedala』をリリース。そのストーリーテラーぶりにはますます磨きがかかっており、レズビアンの友人に頼まれて彼女の自宅に赴き、両親の前でボーイフレンドのふりをするという実話をもとにした“A Postcard To Nina”などは、彼の代表曲と言っていいだろう。

エル・ペロ・デル・マーやフリーダ・ヒーヴォネンらがバック・ヴォーカルで参加した“If I Could Cry(It Would Feel Like This)”
 

 しかしそんなイェンスを、突然の悲劇が襲う。2009年の南米ツアー中に豚インフルエンザに感染し、時を同じくして、恋人にも別れを告げられてしまったのだ。失意のどん底に落ち、一時は〈もう二度と曲を書かない〉とまで言い放ったイェンスだったが、そんな彼を救ったのが、元エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーン。というのも、2010年にリリースされた彼女のアルバム『Love And Its Opposite』の冒頭を飾る“Oh, The Divorces!”には、〈あなたはまだ若いんだし、恋愛はその始まりと同じぐらい、簡単に終わるのよ〉という、イェンスに宛てたメッセージが込められていたのだ。

トレイシー・ソーンの2010年作『Love And Its Opposite』収録曲“Oh, The Divorces!”のパフォーマンス映像
 

 これを聴いたイェンスは奮起し、自分の失恋と、オバマ大統領の当選に沸くニューヨークの人々を重ね合わせた新曲“The End Of The World Is Bigger Than Love”を発表。〈失恋したからって世界が終わるわけじゃない〉という、開き直りとも取れるこの曲を含む失恋ソング集『I Know What Love Isn't』を2012年にリリースすると、翌年にはバンド編成による、二度目の来日を果たすことになったのである。

 ちなみに当時イェンスは野球観戦にハマっていたらしく、フィラデルフィア・フィリーズの野球帽を被っていたことと、フィリー・ソウルを代表するグループ、スタイリスティックスの〈愛がすべて〉をサンプリングした“Sipping On The Sweet Nectar”の演奏中にテンションが上がったのか両手を広げ、〈アラレちゃん走り〉でステージを駆け回っていたことを覚えている。

2007年作『Night Falls Over Kortedala』収録曲“Sipping On The Sweet Nectar
 

 2015年には他人から募集したエピソードを曲にする〈Ghostwriting〉や、毎週1曲ずつ、一年間新曲を発表する〈Postcard〉といったプロジェクトに取り組んでいたイェンス。そんなプロジェクトからの再録曲“How We Met, The Long Version”や、恩人のトレイシー・ソーンとデュエットした“Hotwire The Ferris Wheel”を含むのが、今年リリースした最新作の『Life Will See You Now』だ。

 宇宙のビッグバンから、〈僕が君にベース・ギターを借りるまで〉を綴った壮大なラヴソングになっている前者や、夜の遊園地に忍び込んで観覧車を動かすというロマンティックな後者に至って、イェンス流のソングライティングもここに極まれりといった感があるが、そんな本作には、彼が〈世界の終わり〉を意味するフランスの岬フィニステールで行われた結婚式に、ウェディング・シンガーとして呼ばれたときのエピソードを歌った“Wedding In Finistère”という曲が収録されている。イェンスのファンなら、彼のファースト・アルバム『When I Said I Wanted To Be Your Dog』に収録されていた“If You Ever Need A Stranger(To Sing At Your Wedding)“という曲を思い出すことだろう。

“Wedding In Finistère”のライヴ映像
 

僕は君が名前を挙げるどんな曲でも知っている/バカラックでもデヴィッドでも
君の心に触れたどんな馬鹿げたラヴソングも/チャートを駆け上がったパワーバラードも

〝If You Ever Need A Stranger (To Sing At Your Wedding)“

 その歌詞通り、最近のライヴではラヴィン・スプーンフルの名曲〈魔法を信じるかい?〉のカヴァーも定番になっているというイェンス。聞くところによれば、日本滞在中に他にもライヴができる場所を探しているそうなので、結婚式の予定がある人は、思い切って誘ってみてはどうだろう? そして彼の音楽を聴いたら、きっと踊り出さずにはいられないはずだ。

2017年のライヴ映像
 

Live Schedule
〈DUM-DUM LLP PRESENTS JENS LEKMAN TOKYO SHOW〉
2017年10月17日(火)東京・渋谷7th FLOOR
※オープニング・アクト出演予定
開場/開演 19:00/19:30
前売り/当日 ¥3,500 ¥4,000(いずれもドリンク代別)
★詳細はこちら