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リリースから45周年、キャロル・キングの『Tapestry』再現ライヴと共にこの名盤が時代を超えて愛される理由を探ろう

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  • 2017.10.02
リリースから45周年、キャロル・キングの『Tapestry』再現ライヴと共にこの名盤が時代を超えて愛される理由を探ろう

キャロル・キングの『Tapestry』が時代を超えて愛される理由

 時代を映す鏡となったロック/ポップス名盤のなかでも、キャロル・キングのセカンド・アルバム『Tapestry』(71年)はかなりのサイズ感を持った鏡だと言えよう。60年代の幕が閉じると同時に、あれだけ華やかに飾られていた共同幻想のスローガンも降ろされ、アメリカの社会全体に疲弊した空気が漂うなか、小さな幸せを希求するシンガー・ソングライター・ブームが勃興。その盛り上がりの象徴的な作品こそ『Tapestry』である。個をじっと見つめ、個にそっと語りかけるような楽曲群が、ヴェトナム戦争の泥沼化に胸を痛めて空虚感を抱くリスナーたちに、優しく寄り添ったのだ。

CAROLE KING Tapestry Ode/Columbia/A&M(1971)

 この『Tapestry』が時間を経てもなお信奉者を増やしている理由は、不安や喧騒から逃れたいと願う人にとって言わばスタンダードな治療薬であり続けているから。主役の普段着感覚なヴォーカルとピアノを演出するプロダクションも見逃せない。プロデューサーであるルー・アドラーの指揮のもと、〈飾り気などここでは必要ない〉とばかりに、キャロルのパーソナリティーを邪魔することなくシンプルなバッキングに徹するプレイヤーたち。自分のすべき仕事を各々十分に理解したダニー・コーチマー(ギター)やラス・カンケル(ドラムス)らの演奏が、親密な会話を交わしているかの如き雰囲気を発生させ、ソフトかつメロウな味わい深いサウンドを紡ぎ出していく。この独特の音色に憧れを抱くミュージシャンはいまでも後を絶たない。なかにはラテン・ロックのフィーリングを注入した“It's Too Late”のように、(シンガー・ソングライター・ブームとは別の)当時の流行を感じさせるアレンジもあるものの、大半は高い普遍性を獲得することに成功している。

 もちろんキャロルのソングライターとしての優れた能力が示された作品集である点も、高い支持を受け続ける理由なことは言うまでもない。歌手として出発する前は、いくつものポップソングをチャートに送り込むヒットメイカーだった彼女。当然、その才能に揺るぎはなく、『Tapestry』にも強力なまでにキャッチーなメロディーが横溢している。あとパフォーマーとしての彼女はどうか。正直なところ、素人っぽさを醸す部分も見られたりするが、それが良い具合に歌い手の等身大感を伝える結果に繋がっているから何ら問題はなし。むしろウブな歌唱がチャーミングに思えたりもするのだ。

 

CAROLE KING Tapestry: Live At Hyde Park Legacy/ソニー(2017)

 そんな名作がこのたび時代を超えて甦った。『Tapestry: Live In Hyde Park』という作品によって、現在のキャロル・キング自身が『Tapestry』の時代へと向かう旅に出るのだ。これは2016年7月3日、ロンドンの中心部にあるハイド・パークで行われた、『Tapestry』のリリース45周年を記念してのアルバム再現ライヴをパッケージ化したもの。約65000人のオーディエンスそれぞれが自身の半生と照らしながら、色彩豊かな〈つづれおり〉に耳を傾けたのだろうな……なんて感慨に耽っていたのも束の間、オープニングの“I Feel The Earth Move”から飛び出してくるキャロルの溌剌とした歌声にグイッと引き込まれてしまった。ハスキーなヴォーカルがばっちりキマっているし、ノリも最高じゃないか。〈やっぱりこの人は自身のルーツであるリズム&ブルースを愛し続けているんだな〉ってことは、2010年に日本武道館で観たジェイムズ・テイラーとのジョイント・ライヴの際に強く印象付けられたものだが、その記憶が鮮やかに思い出されるパフォーマンスだ。

 キャロルのイギリス公演が実現したのは89年以来のこと。さらに同国での大規模なコンサートとなると44年ぶりらしい。しかし、“So Far Away”や“Home Again”など優しいピアノ・バラードを聴いていると、肩肘張った感じはまったくせず、足元で猫がじゃれているかのようなリヴィング・ルーム的ムードに浸れ、それも彼女のライヴならではだと思う。もちろん、“You've Got A Friend”ではお約束の大合唱もあり。その場にいる人が思い思いの歌い方で、友情や愛の大切さを叫んでいる。人間同士の繋がりなんてどんな時代でも変わりはしない。私はいつもそばにいるから──そう観客ひとりひとりに語りかけていく彼女の歌には、お約束だとわかってながらも涙腺が緩む。“Where You Lead”や“Will You Love Me Tomorrow?”では娘ルイーズ・ゴフィンとの掛け合いも楽しめるし、終盤には通好みのシングル曲“Jazzman”をはじめ、マリーナ・ショウ“Go Away, Little Boy”やシフォンズ“One Fine Day”といったジェリー・ゴフィンとの共作曲によるヒット・メドレーなど、『Tapestry』以外のナンバーまで登場。その流れでいちばん心に残ったのは、リトル・エヴァに提供した“Locomotion”だ。少女さならがに茶目っ気を振り撒くキャロルの愛らしさと言ったら! 彼女はいつまでも変わらず魅力的なナチュラル・ウーマンだという事実を、しっかり確認できる素敵なライヴ・アルバムなのである。

『Tapestry』に参加したアーティストの作品。

 

キャロル・キングの作品。

 

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