ダンス・ミュージックよりはミニマル・ミュージックに近い

――では、曲作りのプロセスを教えてください。いつも、どんなところからモチーフが生まれるのですか?

「結構、DAWソフトで遊んでいるうちに曲の断片が思いつくことが多いですね。ドラムから作るんですけど、まず大まかなビートを決めて、そこにループのエフェクトなどを重ねていくうちに曲になっていくみたいな。割と遊びながら曲を作っている感じですね」

――〈ギターや鍵盤を弾きながら、まずコードとメロディーを先に決める〉というスタンダードな作り方とはだいぶ違いますね。

「そうですね。メロディーやコードから作るというのはやったことがないです」

――元々は、フォーク・ギターから音楽を始めたのに。

「ああ(笑)、確かにそうですね」

――そういう作り方なのも、Acidclankの中にクラブ・ミュージック的な要素を感じさせるのかもしれないですね。それと、ベース・ラインも非常に特徴があるなと思いました。『Inner』に収録されている“Fade Out”や、今作の表題曲“Lionel”のサビの部分は、コードの構成音から敢えて外れたラインを弾いているように感じたのですが。

「なるほど。僕は音楽理論に詳しいわけではないので(笑)、そこも遊びながら思いついたというか。結構感覚でやっているんですよね。そういうのもきっと、宅録やからできることなのかなと」

――確かに、コード進行から作っていないぶん、コード理論にも囚われにくいのかもしれないですね。純粋に音の響きだけを追求しているというか。

「そうですね。コード進行は意識していないです。後から自分の曲を聴いてて、〈あれ、ここのコード進行ってどうやったっけ?〉って思うこともよくあります(笑)」

――同じフレーズをループさせる場合、例えばDJやトラックメイカーが、フィルターやディレイで変化をつけるじゃないですか。そういう、何か飽きさせない工夫はしていますか?

「そういう変化をつけるダンス・ミュージック的なサウンドというよりかは、どちらかというともっとストイックな、ノイ!のようなミニマル・ミュージックをめざしているのかもしれないです。ひたすら繰り返して気持ちよくさせるというか。そのためには、ベースやドラムのグルーヴなど、1ループをどこまで気持ちよくさせられるかをリハの時に追求する必要がありますが」

――2016年5月からは4人編成のバンドになったわけですが、曲の作り方や音楽性などで変わった部分はありますか?

「基本的に曲作りは今まで通り宅録だし、そのテンションでアレンジまで考えているので、そのへんはあまり変わってないですね。まずは僕の作ったデモをメンバーにそのままコピーしてもらって、実際に合わせてみて違和感のあるところを直していく、という感じでやっています。ファースト・シングル“Rocks” も、そういうプロセスで作りました」

2017年のシングル“Rocks”

 

偶発的に出来るもののおもしろさ

――では、このたびリリースされたセカンド・シングルとなる『Loinel』は、どんなコンセプトがありましたか?

「前作(“Rocks”)はUKロックというより、どちらかというとUSインディーっぽくしたかったんですよ。例えばビーチ・フォッシルズみたいな、ちょっとぼやけた音像に敢えてしていたんですが、今回は割とパキパキしたサウンドというか。例えば表題曲の“Lionel”は、生ドラムに打ち込みの音も足しているんです。そういう、エレクトロっぽいアプローチを試しているのは、さっき言ったD.A.N.あたりの影響はあると思いますね」

――2曲目の“White Submarine”は、オアシスっぽいですよね。サビなんて“Some Might Say”(95年作『(What's The Story)Morning Glory?』収録)に限りなく似ているというか……(笑)。

「はい、かなり似せたところはありますね(笑)。オマージュというか、宅録の段階ですでにオアシスだった。結構、ライヴでやるとウケるので、自分では気に入っています。表題曲とはかなり方向性の違う曲だと思うんですけど、シングルのB面という感じで、Acidclankの別の顔も見せたいなと思いました」

D.A.N.の2017年のミニ作『TEMPEST』収録曲“Shadows”
 

――“Sugar High”は疾走感があって、今作の中で一番ポップな雰囲気ですよね。

「そうですね。今まであまり作ったことのないタイプの曲を入れたくて」

――こう言った曲も、やはり〈Live〉を立ち上げて遊びながら徐々に出来上がっていくのですか?

「はい。偶発的にできる要素が強いかなと。いい曲が出来るのって偶然だと思っています。たまたま重ねたフレーズが良かったりとか」

――もしかしたら、最初に完成形をイメージしてから作っていくよりも、そういうチャンス・オペレーション的な作り方のほうが、自分の曲に飽きないのかもしれないですね。

「僕もそう思います。〈遊びながら作っている〉って言いましたけど、作っている最中もずっと楽しいので(笑)。自分の手グセに頼らないぶん、似たような曲が出来にくいというメリットもあると思います」

――〈偶然性に重きをおく〉というと、〈オリジナリティーがない〉と思われがちですが、そこで起きた偶然を選び取っていく時に、その人なりのセンスが出るし、それがオリジナリティーになると僕は思うのですが、そういう意味でのMoriさんらしさ、Acidclankらしさってどこにあると思いますか?

「うーん……結構、自分は天邪鬼なところがあるので、〈絶対こっちやろうな〉っていうフレーズを敢えて違う方向へ持っていくとか、そういう不意打ち的なことは、曲の中に入れたくて。そこが自分らしさなのかなと思いますね」

――なるほど。では、Acidclankの今後の展望は?

「今までUKロックっぽいサウンドをやってきたので、どこかでガラッとスタイルやサウンドを変えたいなっていう気持ちが漠然とあるんですよ。それがどんな音なのかはまだ考え中ですが、今までと違うことはしたいとは常に思っています」

“Lionel”を演奏する2017年のライヴ映像
 

――さっき言っていたみたいに〈バキバキのエレクトロ〉とかね(笑)。となると、スタイルを変えてでも残るMoriさんらしさ、Acidclankらしさとは何か?がますますキーになっていくでしょうね。

「確かにそうですね。今、大阪の大学院に通っていて、来年の4月から就職するので、音楽と仕事の兼ね合いみたいなこともちゃんと向き合いながら、できる限り続けていきたいです」

――最後に、Acidclankをどんな人に聴いてほしいか教えてもらえますか?

「できるだけ多くの人に聴いてもらいたいですが、音楽フリークみたいな人には是非聴いてもらいたいですね。Acidclankの曲は、どれも何かしら他のアーティストや楽曲からのオマージュで出来ているので、そこに気づいてもらえたらありがたいです。同じようなルーツを持った人と出会うのはすごく嬉しいので」

 


Live Imformation
〈2nd SG "Lionel" Release Party 『NO SCENE』〉

2017年9月30日(土)心斎橋 PANGEA
共演:NAHAVAND、Long Tall Sally、VANILLA.6、neonsign
★詳細、ほかライヴ情報はこちら