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何歳になっても人間は成長できる

 この『As You Were』には、さまざまなミュージシャンやプロデューサーが関わっている。まずオアシス時代からのリンクという面で、マーク“スパイク”ステントの名前を挙げておきたい(ほとんどの曲のミックスを彼が担当)。それからプロデューサーとしてグレッグ・カースティン、ダン・グレッチ・マルジェラ、アンドリュー・ワイアットの名がクレジットされている。グレッグ・カースティンはフー・ファイターズやベックの新作にも参加する、近年の大型リリースのサウンド面を担ってきたプロデューサーだ。個人的には〈バード・アンド・ザ・ビーの……〉という枕詞を必ずつけたくなるくらい、女性シンガーとのタッグにより、洗練された生音感と心にスッと入り込むメロディーが融合した佳曲を数多く生み出し続けている人でもある。

 また、ダン・グレッチ・マルジェラはもともとエンジニアやミキサーとして名を成し、ナイジェル・ゴドリッチの下で働いていた時にはレディオヘッドの『Amnesiac』『In Rainbows』にも携わっていて、その後はヴァクシーンズやハーツ、トム・オデールをプロデュース。そして、アンドリュー・ワイアットはA.M.の元メンバーであり(このバンドからはマイケル・タイも“Chinatown”など複数の曲の共作者として名前が記載されている)、現在はソロ活動と並行して、マイク・スノウやブルーノ・マーズらの楽曲への関与でも知られている。

 ほかにも、カサビアンを脱退後にビーディ・アイに大きくコミットしたジェイ・メラーや、ベイビーシャンブルズのベーシストであり、ソロ・ユニットのヘルシンキでも好評を得ているドリュー・マコーネルがゲスト・プレイヤーとして関与。また、スノウ・パトロールやレインディア・セクション、タイアード・ポニーでの活動に加え、ジェイク・バグ“Two Fingers”などのソングライターであるイアイン・アーチャーも、リアムの曲作りをサポートしている。

 オアシス~ビーディ・アイ時代から継続して曲を書いてきただけあって、『As You Were』は初のソロ作にもかかわらず、良い意味でソングライティングがこなれている印象を受けた。その理由には、もちろん錚々たる裏方陣の助力も大きく関係しているのだろうが、リアム本人が年齢を重ね、さらに深みが出たということもありそうだ。それにしても、いまだに彼が椅子にじっと座って歌詞を考えている姿はなかなかイメージしづらい。しかし、“I've All I Need”で描かれる、ひとつの状況に別れを告げるなかで(死を歌っているのか、オアシスや過去の自分との別れを歌っているのか、どちらにも解釈できそう)、それを祝福しながら周囲にも光を届けている様子などは、とても静かな魂から言葉が紡がれているように聴こえる。それこそ、じっと座って作業している様子が浮かぶほど……。何歳になっても人間は成長できる。言い換えれば、何かを志した人間には必ず成長が訪れることをリアムは体現した。オアシスのデビューから23年。ここから始まるリアムの成長も、ずっと見続けていこうじゃないか。

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