フジテレビ系“月9”の金字塔『東京ラブストーリー』の脚本で社会現象を巻き起こし、『カルテット』など近作も話題に事欠かない坂元裕二。と書いたもののTVドラマに疎い私は、前評判も知らずにこれを手に取り、たちまちノックアウトされてしまいました。本書の成り立ちはどちらも男女二人によるメールや手紙を介した何気ないやりとり。けれどそこは〈台詞の魔術師〉の著者、絶妙な言葉選びによって恋愛模様のグラデーションがさりげなく、巧みに描かれています。書簡体小説というメディア特有の近さも相まって、二者間のミニマルな応酬の裡に広がる物語の奥行きたるや。するすると体に染み込んでゆく素敵な読書体験。