COLUMN

愛知県芸術劇場 ミニセレ2017 Mini Theater Selection ――エンゲキが越境する、愛知が更新する。

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  • 2017.10.10
左から、鳴海康平(演出)、山内庸平、南波圭、中林 舞、茂手木桜子、福留麻里(振付)、額田大志(作家)

 

Mini Theater Selection エンゲキが越境する、愛知が更新する。

愛知県芸術劇場小ホールでスタートする「ミニセレ」は、実験と発見をキーワードにしたライヴプログラム。演劇、ダンス、オペラなど幅広いパフォーマンスから選りすぐったアートのセレクトショップだと思ってほしい。その第一弾『それからの街』は、人力ミニマルミュージック楽団〈東京塩麹〉主宰・額田大志が戯曲を執筆。音楽を孕んだ独特のリズムが新しい体験へと誘う。

 

 ミニマルミュージックの旗手として紹介される一方で、ジャズの若手注目株と称されることも多く、さらに、ポップミュージックと呼びたい曲もさらりと演奏する。変幻自在というよりも、余白の多い存在感で活動するバンド、東京塩麹。その主宰者の額田大志が演劇作家でもあることを、どれくらいの音楽ファンが知っているだろう?

 まだ25歳で活動歴も浅いため、演劇界でも一般的な認知度は高くないが、その作品は新しい角度から演劇を問い直すものとして、注目されている。それが一気に加速したのが、昨年末、愛知県芸術劇場が開催しているAAF戯曲賞で大賞を受賞したことだ。

 AAF戯曲賞について説明すると、すでに16年の歴史がありつつ、第15回から大幅なリニューアルを行って全国から関心を寄せられるようになった。というのは、審査員である4名の演出家全員が応募作すべて(第16回は91本)を読み、最終ノミネート作品は公開審査までして(時間は無制限)、大賞に選んだ戯曲を審査員の中のひとりが演出して上演するところまでが、この賞の流れだから。審査員が時間と言葉を惜しまず対象作品を分析し、劇場が責任を持ってプロデュースし、その間ずっと公平性と透明性が保たれている賞は、演劇に限らず音楽や映画や文学でも少ないはずだ。

 そしてもうひとつこの戯曲賞の特徴に、多くの人が無意識に「こういうものが演劇」と信じているものを無条件に肯定するのではなく、言葉や構造を解体し、表現の可能性を探ることも重要視している点がある。

 額田の受賞作『それからの街』もまさにそうで、戯曲は1ページが2段に区切られ、上段はA、下段はBのせりふと分けて書かれている。通常の戯曲が、AとBの会話がA→B→Aという順番で書かれているのに対して、AとBの同時進行でほとんどのシーンが進むのだ。後半はそれがさらに複雑化し、4人の同時進行の会話になる。また、まったく同じせりふがわずかな時差でAとBによって繰り返され、まるで輪唱のようなシーンもある。額田自身はそうしたつくり方を「楽譜に音符を落とし込んでいく感覚」と説明しているが、戯曲を読むと、確かにそれは理解できる。

 こうしたつくり方は当然、観客にすべてのせりふを届けるつもりで書かれてはいない。その代わり、耳に残す箇所はきちんと計算されていたり、知っている単語が別の意味に聞こえるように書かれていて――音楽用語で言えば、紛れもなく“譜割り”されていて――、観客はそこから新たな発見をすることになる。たとえば「え・・・・」という音が繰り返され、最初はそれがAの「あの・・・・」に対するBの機械的な反応だったのが、「え」に「き」が接続して「えき・・・・」となる時、ふたりの発語は「駅をめぐる会話」になって聞こえてくる。同様に「あの・・・・」が「あ、あの・・・・」になって繰り返されると、そこにはコミュニケーションが苦手な人間がふたりいる状況、もしくは、まだコミュニケーションがスムーズに取れない距離感にいるふたりの関係性など、少しずつ見えてくるものが増えてくる。決してリズミカルではないが、確実にリズムがあり、その運動が、物語の始まりとはまったく違う場所へ観客を運んでいく。

 ちなみに普段、額田はヌトミックという演劇ユニット名で活動しており、これはおそらく苗字の最初の一文字とリトミックをくっつけた造語で、そこからも彼が演劇のベースに音楽を持ち込んでいることが想像できる。

 そんな額田の『それからの街』が10月21~23日にかけて、愛知県芸術劇場で上演される。これまでに2度、劇作家自身によって演出されたが、今回は、三重を拠点に国際的に活動する第七劇場の主宰・鳴海康平が演出を手がける。言葉に対する感覚と共に、空間の構成に敏感な鳴海が、額田の言葉をどう置いていくのか興味は募る。もしかしたら音楽リスナーのほうが親和性が高い舞台が生まれるのではないだろうか。

 


LIVE INFORMATION

ミニセレ2017
会場:愛知県芸術劇場小ホール



○第16回AAF戯曲賞受賞記念公演『それからの街』
10月21日(土) 19:30、22日(日) 14:00/18:00、23日(月) 19:00
作:額田大志
演出:鳴海康平(第七劇場)
振付:福留麻里
ドラマトゥルク:長島確
出演:中林舞、南波圭(なんばしすたーず/青年団)、茂手木桜子、山内庸平

○プロジェクト大山『大山曼陀羅 -オオヤマンダラ-』
11月10日(金) 19:30開演(19:00開場)、11日(土) 14:00開演(13:30開場)
構成・演出・振付:古家優里
出演:三輪亜希子 松岡綾葉 長谷川風立子 菅彩夏 古家優里 他

○三輪眞弘+前田真二郎 モノローグ・オペラ『新しい時代』
12月8日(金)19:00、9日(土)14:00
作曲・脚本・音楽監督:三輪眞弘
演出・映像:前田真二郎

○『DOPE』
2018年1月26日(金)、27日(土)、28日(日)
加藤訓子(パーカッション)×平山素子(ダンス)

○サウンドパフォーマンス・プラットフォーム2018 -知覚の解放体験-
2018年2月10日(土) 17:00、2月12日(月・休) 15:00
ゲストアーティスト:荒木優光、米子匡司、堀尾寛太、サンガツ

○チェルフィッチュ『三月の5日間』
2018年2月16日(金)、17日(土)

○愛知県芸術劇場・SPAC(静岡県舞台芸術センター)共同企画『寿歌(ほぎうた)』
2018年3.24(土)、25(日)、26(月)
北村 想+宮城 聰

 

www.aac.pref.aichi.jp

 

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