永遠にステイ・フライなウィリー・ハッチのグルーヴ

 本文にもあるように、ウィリー・ハッチの名前と功績を永遠のものにしたのはサントラ『The Mack』、とりわけ“Brother's Gonna Work It Out”ということになる。何とも言えない路上感や孤独感を淡々と紡ぎ出す演奏のムードは、ドクター・ドレー“Rat-Tat-Tat-Tat”(92年)やR・ケリー“Back To The Hood Of Things”(93年)で活用されて誰もが耳にしたことのあるフレーズとなった。ドネル・ジョーンズやジャヒーム、ロイドらストリート性で押すシンガーがこぞって用いたのも興味深いし、近年ではロー・ジェイムズ“Permission”以外にも、チャンス・ザ・ラッパーやエイサップ・ロッキー&スケプタが使っている。

 他曲も含め、ハッチらしいインスト部分のグッド・ヴァイブがサンプリング欲をそそるのはもっともだが、なかでもハッチ使いの例がもっとも多いプロデューサーとなると、恐らくスリー6マフィアのDJポール&ジューシーJになるはずだ。“Tell Me Why Has Our Love Turned Cold”はマフィアの大ヒット曲“Stay Fly”(2005年)になり、“Theme Of The Mack”は“Poppin' My Collar”(2005年)に、“I Choose You”はUGKの名曲“Int'l Players Anthem(I Choose You)”に……といった具合に、彼らは定番だけじゃなく多様なハッチ曲を俎上に乗せてきたNo.1リサイクラーである。

 他にもリエディット的なカシアス“Foxxxy”(96年)や、“I Can Sho' Give You Love”使いのスムースな久保田利伸“Living For Today”などリサイクル例はさまざま。なお特に関係はないが、先述のドレーの舎弟でもあったコールド187um(アバヴ・ザ・ロウ)がハッチの甥であることもここで付け加えておきたい。 *出嶌孝次