ショーン・ニコラス・サヴェージとモリー・ニルソン、そしてベター・パーソンの3組が10月30日(月)に東京・新代田FEVERにて一夜限りの来日公演をおこなう。熱心なインディー・ミュージックのファン――Bandcampのフィードを毎日チェックし、新奇な音楽を求めて海外のブログをさまよっているようなリスナーには朗報と言えるだろう。たとえそうでなくとも、強烈な個性を持った彼/彼女らのことをひとたび知ってしまえば、この日のライヴに足を運ばざるをえないはず! 今回は、その予習となるべく彼ら3人の音楽家について紹介していこう。

 

ショーン・ニコラス・サヴェージ

まずはショーン・ニコラス・サヴェージ。モントリオール出身のシンガー・ソングライターで、monchiconいわく〈カナダの変なお兄さん〉。FADER誌が形容するに〈血気盛んな哲学者、シーン全体の大黒柱、カナダの音楽コミュニティーを狂わす風変わりな旗振り役〉。つまり、かなり変わったミュージシャンだが周囲からは厚い信頼を寄せられている、ということだろうか。傑作と名高いソランジュの『A Seat At The Table』(2016年)への客演も話題となったが、まずはインディー・ファンをざわつかせ、カナダ国外に彼の名を知らしめた2011年の代表作『Flamingo』から“You Changed Me”のミュージック・ヴィデオを観てみよう。

ショーン・ニコラス・サヴェージの2011年作『Flamingo』収録曲“You Changed Me”
 

「ストップ・メイキング・センス」時代のデヴィッド・バーンのようなオーヴァーサイズのジャケットと華奢なスタイル、70年代のアメリカ映画めいた楽曲タイトルのモダンなフォント……なによりこの眼力。フォトジェニックな容姿は彼の魅力のひとつで、ヴォーグ・オム誌でのモデル経験もあり、ドリス・ヴァン・ノッテンのショート・フィルム(2017年)に出演するなど、ファッションの世界における注目度も非常に高い。そのあたりはデヴェデンドラ・バンハートのようなアイコン感である。

ショーン・ニコラス・サヴェージ出演したドリス・ヴァン・ノッテンのショート・フィルム「Baton」
 

ユラユラと揺れるギターのサウンドや間延びした遅いテンポ、あるいはリヴァーブのかかった音像には、同じくカナダ出身のマック・デマルコを連想した方も多いはず。それも当然で、彼とマックは旧知の仲。4ADからデビューする前のグライムスやノスタルジックなポップ・バンドのトップスも含めて、カナダの新興インディー・レーベル〈アービュータス〉を拠点に繋がっている。

そんなサヴェージのファンである、筆者の友人に言わせれば、彼の音楽とは〈不機嫌で意地の悪いネオアコ〉で、〈初期チェリー・レッドのコンピが持つもっとも不可解な部分を継承している〉とのこと。ちなみにサヴェージは1年に1~2作のアルバムを発表し続けている多作家で、確認できる限りで11作もの音源をリリースしている。しかもその大半がBandcampにて投げ銭での販売。さすが、〈変なお兄さん〉である。

近作では、ローファイでダークなネオアコをさらに洗練させ、バンドのアンサンブルを重視しつつも80年代風のシンセ・ポップと今様のR&Bの間隙を縫うような音楽へと変化しつつあり、音楽的な振れ幅がぐっと広がっている。この日のライヴもサヴェージらしいウィアードでソウルフルなステージに期待だ。

ショーン・ニコラス・サヴェージの2015年作『Other Death』収録曲“Romeo”
2015年のライヴ映像

 

モリー・ニルソン

続くモリー・ニルソンはスウェーデン/ストックホルム出身で、現在はベルリンを拠点に活動している女性アーティスト。

アリエル・ピンクとの旧交で知られるローファイ・アーティスト、ジョン・マウスの2011年作品『We Must Become The Pitiless Censors Of Ourselves』に作曲者として参加したことで国際的な評価を得ていった彼女だが、2008年のデビュー以来、自主レーベルのダーク・スカイズ・アソシエイションから既に7作ものアルバムを発表している。作品のアートワークはどれもモノクロームの幾何学模様で統一され、特徴的なブロンドのボブ・ヘアーと共に彼女独自の美学を感じさせる。アナログの精力的なリリースを続け、〈DIYクイーン〉とも評される彼女の姿勢に共感する者は多く、インディー愛好家からのリスペクトを一身に受ける存在だ。ちなみに、ショーン・ニコラス・サヴェージとは2016年にヨーロッパ・ツアーをおこなっている。

モリー・ニルソンの2017年作『Imaginations』収録曲“Memory Foam”のライヴ映像
 

モリー・ニルソンの音楽は『愛のかたち(Hounds of Love)』(85年)の頃のケイト・ブッシュを想起させるような80年代風シンセ・ポップであるとともに、チルウェイヴやドリーム・ポップのユーフォリアの感覚も併せ持っている。どことなく厭世的なアルト・ヴォイスや佇まいからは60~70年代のニコを想起させずにはいられない。ここでは2015年の作品、『Zenith』から人気の楽曲“1995”を。

モリー・ニルソンの2015年作『Zenith』収録曲“1995”

 

ベター・パーソン

そして、3人目のベター・パーソンはポーランド出身、現在はベルリンをベースに活動するアダム・ビズコウスキのソロ・プロジェクト。

2016年に開催されたSXSWのショウケースに出演して注目を集めるなど、新進気鋭のミュージシャンである。前述したトップスとのツアー経験もあり、ショーン・ニコラス・サヴェージのライヴ・バンドにもギタリスト兼キーボーディストとして参加している。当日はサヴェージと共演する姿も、ひょっとしたら観られるかもしれない。

ショーン・ニコラス・サヴェージとベター・パーソンの2016年のライヴ映像、楽曲はクリス・アイザック“Can't Do A Thing(To Stop Me)”のカヴァー
 

ベター・パーソンの音楽はブルーアイド・ソウルを再解釈した内省的な歌唱とリンドラムなどの古き良きドラム・マシーンへの愛を感じるビート、そしてKORGのヴィンテージ・シンセで奏でるポップな旋律で構成されている。その懐かしくも新しいサウンドは、暗く冷たいベルリンの夜を思わせるようだ。ソロとしては活動期間が浅いベター・パーソンの作品はまだ2016年のEP『It's Only You』のみ。そこから彼の音楽の魅力をぎゅっと凝縮したリード楽曲を聴いてみよう。                       

ベター・パーソンの2016年作『It's Only You』収録曲“Sentiment”
 

インディー・ミュージックがおもしろいのはアメリカやイギリスだけじゃない。カナダとベルリンにおけるシーンの海を越えた、だが緩やかな音楽的連続性を感じられるこのイヴェントは、その証明となるはずだ。ポスト・チルウェイヴ時代におけるDIYのシンセ・ポップやブルーアイド・ソウルという共振性を感じながら三者三様の強烈な個性に驚く――フレッシュな音楽を追い求めるリスナーには最高の夜になること間違いなしだ。

 


Live Information
ショーン・ニコラス・サヴェージ × モリー・ニルソン × ベター・パーソン

2017年10月30日(月)東京・新代田FEVER
開場/開演 19:00/19:30
Early Bird/前売り/当日 ¥4,000/¥4,500/¥5,000
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