環太平洋ジャズ&ブルースの3ピースバンド! 歌姫は温故知新のマルチリンガル

 台湾で生まれ8歳から日本で暮らし、コロンビア大学院在学中にジャズへの情熱を深めたヴォーカルのEri Liao。変幻自在に演奏する広島県出身のギタリスト・ファルコン。ビートルズ好きでジャズ修行の鹿児島県出身のベーシスト小牧良平。三者三様の音楽体験がそれぞれに融合したアルバムが出来上がった。

ERI LIAO TRIO 紅い木のうた エッキョーレコーズ(2017)

 冒頭の《金髪のジェニー》は、フォスターの名曲が中国語のオリエンタルな響きで大変化。二曲目の《Close to You》は歌いだしからシビれる。カーペンターズ版をひょいと飛び越える無垢さとおおらかさ。

 表題曲《紅い木のうた》は、オリジナルのコンテンポラリー原住民ロックバラッド。原住民風スキャットは、台湾語で〈虚詞〉と呼ばれるそうだ。「オーハイヤン!!」はお囃子のようでもあり、Eriいわく「ご先祖さまがどこかから出てきて飲めや騒げやお祝いしてくれているような気持ちになります」。

 Eriの父は日本人、母は台湾原住民タイヤル族出身。歌姫は、ライヴで竹製の口琴をさりげなく演奏したり、アミ族風コール&レスポンスで盛り上げる。その姿は堂に入っている。昭和歌謡の名曲《星の流れに》は、日本統治時代に生きた台湾人の祖母がよく歌っていたという。直伝口伝の歌には万感迫るものがある。

 《路邊的野花不要採》は、テレサ・テンのカヴァー曲。異国の地で、彼女を天使のように愛する人々に出会い、その時々癒された逸話には泣かされる。茶筒をパーカッションにライヴで歌うEriもチャーミングで心が和む。

 《美しき稲穂》は、プユマ族の音楽家・陸森實が1958年に書いた曲で、台湾でも多くの歌手がカヴァーしている。プユマ語で歌われる歌詞はせつない。「なんと美しく稲穂が実っているんだろう。やっとやっと稲刈りだ。手紙を書こう。金門島の戦地の兄に手紙を書こう」

 重い背景の曲の後、Eri作詞・ファルコン作曲《Before Night Falls》が流れる。祈りの如く。

 さまざまな言霊と音魂をのせて漕ぎ出したEri Liao Torio。大海原に向かう船出を祝いたい。

 


LIVE INFORMATION

○10/26(木)19:30開演
会場:大塚  All in Fun
eriliao.jimdo.com