COLUMN

セロニアス・モンク生誕100年 ジョン・ビーズリーによるモンケストラや伝記の決定版も! モンク・イヤーはこれから!!

Exotic Grammar Vol.53-2

  • Share on Tumblr
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2017.10.30
Photo by K.Abe

 

 セロニアス・モンクより四つ年上であるジョン・ケージの曲名には素敵なものが多い。油断すると曲の印象が曲名のインパクト以上でも以下でもないなどということがあったりする。《Valentine out of season》、《Imaginary Landscape》、《Cheap Imitation》などなど、曲の長さがそのまま曲名になった《4分33秒》……、あれ、こんなもんか。さて、今年は100年に一度のモンク・イヤー、ということもあってジャズ・ファンなら、何かとモンクの音楽を聴いたり、読んだりすることが多かったのではないだろうか? これがハービー・ニコルス、あるいはアンドリュー・ヒルだとどうだったんだろうか。さてモンク。今年、私もやっと、ケージ並みにモンクの曲名がいいことに気がついた。《Epistorophy》、《In Walked Bud》、《Rhythm-A-Ning》、《Ugly Beauty》、ちょっとロマンチックな《Crepuscule with Nelly》などなどと、ケージに比べれば枚挙にいとまがないほど出てくる。しかし、気になるのがその意味だ。例えば《In Walked Bud》は一体なんだ? 歌詞から切り取られタイトルになったようだが、これだけだと意味するところはよくわからない。だけどこれでいいのだ、いや、これがいいのだ。抜群の訴求力なのだから(因みに、モンクに影響を受けたという詩人のアミリ・バラカは、この曲を歌いながら公民権運動最中の黒人の悲惨な現状をラディカルに謳い上げている)。モンクがジャズピアニストとして今の時代に活躍していれば、カニエ・ウエスト並みのブランディング・センスで、大儲けしていたかもしれない。実はそれが、ときの人、ロバート・グラスパーということなのかもしれないのだが。

 さて、そのグラスパーが2006年に3曲入りの E-シングル(配信のみ)としてリリースしたアルバムに収録されているモンクの《Monk's Dream》を聴いたことがない、というジャズ・ファンはどのくらいいるのか。もしくは『Black Radio』以降のグラスパー・ファンではどのくらいの人が聴いているだろう。しかしごく最近まで聴いてなかったのは、ジャズ・ファンでちょっとしたグラスパー・ファンの私くらいなのかもしれない。誤解を恐れず、そして今更なのかもしれないのだが、これはすごい演奏なのである。ピアノソロにして、J・ディラ――クリス・デイヴ・マナーのドラムソロがピアノでコラージュされて、本当にすごいのである。ジョン・ケージがピアノの鍵盤上で打楽器のアンサブルを再現したプリペアード・ピアノのようだ。もちろんドラムソロがピアノでコラージュされたからすごいと評価しているだけではないが、クロスリズム、マルチ・グルーヴをうまく使ったモンクの解釈として、すごいなあと思うのだ。まさにモンク・イヤーだからこそ掘れた音源だった。

 そもそもモンクの音楽を、グラスパーのようにリズムから再解釈を施し、グルーヴという観点から新たな魅力を付け加えたのは、ジェリー・ゴンザレスとフォート・アパッチで、彼らと晩年のケニー・ カークランドだったんじゃないだろうか。フォートアパッチは、ジェリーとアンディ兄弟が80年代に結成したラテン・ジャズ・セクステット、伝説のティンバレス奏者が客演したり、ジャコ・パストリアスもセッションへの参加を熱望していたという噂のバンドだ。そもそも《Bemsha Swing》のようにラテン的なヴェクトルを示唆する楽曲がモンクオリジナルになかったわけではないし、ビバップの隆盛期には、パーカーとマチート楽団があったし、キューバップはすでに当時鳴っていた(そういえば、クリス・デイヴがベースのフォリーとサックス・トリオでモンクの曲を演奏している動画がある。それはMANTECAのベースラインに超高速の《Criss Cross》をオーヴァーライドするというコンセプチュアルな演奏だった!)。それでも手法としてビバップとルンバを結びつけラテン・ジャズの可能性を広げ、モンクのグルーヴにスイングではなく、クラーヴェを移入したのはジェリーとアンディーの兄弟だ。ジェリーは「公園で何度もクラーヴェとビバップのシンクロを試してセッションしていた。ある時、突然、何もかもが繋がった」といい、その瞬間を啓示的な体験として恍惚とした表情で語ってくれたことがある。

 1982年にリリースされた、『Ya Yo Me Cre』(american clave)、『The River is Deep』(Enya)は、その狼煙とも言える二枚だ。前者はスタジオ、後者はライヴ。前者はスタティックでスタイリッシュ、後者はライヴならではのハチャメチャで、デスカルガならではのラテン・ジャズが楽しめる。前者をプロデュースしたキップ・ハンラハンによればこの時、ジェリーたちは、彼らの音楽がどんな風に受け止められるのか不安だったという。後者のベルリン・ジャズ・フェスティヴァルでは、ライヴを終えて帰路に立ったジェリーたちは、めちゃくちゃな演奏だったんではないかと自己嫌悪で陰惨な気分だったという。その後、ライヴの音源を聴いたジェリーは、自分たちが新しいジャズを演奏していたことに驚くとともに自信を深めたというのだが。そしてモンクだけの曲集『Rumba Para Monk』(98年)をリリース、もともとフォートアパッチと親交のあったケニー・カークランドは、最初で最期となったリーダー・アルバム『Kenny Kirkland』で彼らと共演し、《Criss Cross》をレコーディング、素晴らしいクラーヴェによるモンク解釈をジャズ史に残した。

 そして2000年代に、あのモンク・バイ・グラスパーが登場する。丸の内コットンクラブにトリオで来演したグラスパーが、モンクを演奏するのを聴いたことがある。当時は菊地成孔のアフロ・ポリリズムにすっかり洗脳されていたので、ちょいとおかしなことが起こるとすべてアフロ・ポリグリッドで理解しようとしていたこともあるのだろう、妙な印象を彼らのモンクの演奏に抱いていた。しかし彼らが妙なのではなく、私がとても変だったのか、もともと曲に仕込まれたバップ固有のタイム・モジュレーションが強調されただけだったのか、もはや未明である。一昨年発売の大西順子の『Tea Time』を聴いた時、彼らと同じグルーヴが聴こえた気がした。だけどクリス・デイヴ世代の、ヒップホップ・ネイティヴなジャズドラマーであるテリオン・ガリーに仕込まれた菊地アフロ・ポリのせいなのだ、おそらく。

 そのテリオンがドラマーを務める、ジョン・ビーズリーによる、モンクの、モンクのためのオーケストラ〈MONK'estra(モンケストラ)〉が、世界中で話題だ。2013年に結成、今年のモンク・イヤーに向けてアルバムを2枚リリース、ワールド・ツアーも行いグラミーにもノミネート、今やジャズ界における彼らの好感度は着実に上昇中である。11月にはブルーノート東京に来演が決定した。マイルス・デイヴィス・スクール出身の、オラシオ・エルナンデスの洗礼を受けたジョンによる、このオーケストラの魅力は何と言ってもマルチ・グルーヴだ。マリア・シュナイダーの響き、サウンド・カラー、テクスチャー重視のオーケストレーションと比較して、モンケストラは脚力重視、グルーヴ重視のビッグ・バンドである。ジェリー・ゴンザレス、グラスパーのグルーヴを呑み込んで新たなグルーヴへのパラダイム・シフトを準備する、モンク・オーケストラと期待して間違いない。Vol.1では、ルンバ・クラーヴェによる《Epistrophy》、スワングするヒップホップ・マナーの《Round Midnight》を披露、Vol.2ではいきなりコンプの効いたロック・ビートが鳴り、《Criss Cross》をテリオンの盟友でもあるコンゲーロ、ペドロ・マルティネスを迎えてルンバする。とはいえ、ダイアン・リーヴスをゲストヴォーカリストに迎えた《Dear Ruby》などのバラードでは、うっとりするような美しいオーケストレーションも楽しめる。来日が楽しみだ。

 しかし今だに結局、モンクって? という人、モンクの伝記の決定版ともいうべき本『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』が発売されました。この伝記、資料の当たり方が徹底、充実していて面白く、ジャズをキーワードに読むNY史とも言える。私はYouTubeで見つけたモンク・カルテットのドラマー、フランキー・ダンロップが語るモンクのリズム観が引用されているのをみて驚いたと同時に、動画ではよく聞き取れなかったので、スッキリ! 改めてモンクがケージ同様、音のない空間、〈間〉に耳を澄ましてグルーヴを作ったとわかり感動しました。いや、モンク・イヤーはこれからですね。

 


Thelonious Monk(セロニアス・モンク)
1917年10月米国ノースキャロライナ州ロッキーマウント生まれ、82年2月17日死去。ユニークこのうえない個性をしめしたピアニスト/作曲家。ビ・バップ・ムーヴメントの一翼を担い、同時にあまりにも独創的な演奏を聴かせたモンクは孤高の存在となり、“バップの高僧”と呼ばれた。《ラウンド・ミッドナイト》をはじめ数々のジャズ・スタンダードを生んだ名作曲家でもある。今年2017年は生誕100年となる。

 


寄稿者プロフィール
高見一樹(Kazuki Takami)

1963年12月25日生まれ。音楽プロデューサー、音楽ライター。毎日勉強、たまに作曲。近作をSoundCloudにそろそろアップ予定。2017年、毎朝、2.5kmを猛烈に爆走中。この疲労と亀の飼育、ベランダガーデニング、家事洗濯で午前中は全く使いものにならない。近況?! ピアノの練習を始めた。

 


LIVE INFORMATION

ジョン・ビーズリー・モンケストラ セロニアス・モンク生誕100年記念公演
○11/1(水)2(木)
[1st]17:30開場/18:30開演
[2nd]20:20開場/21:00開演
会場:ブルーノート東京
出演:ジョン・ビーズリー(cond,arr,p,key) ボブ・シェパード(as,ss,fl)グレゴリー・ターディー(ts,cl)ラシャウン・ロス(tp)フランシスコ・トーレス(tb)ベンジャミン・シェパード(b)テリオン・ガリー(ds)
www.bluenote.co.jp/

宮里陽太 meets JOHN BEASLEY
○10/31(火)19:30開演 モーションブルー横浜
出演:宮里陽太(sax)ジョン・ビーズリー(p)ベンジャミン・シェパード(b)テリオン・ガリー(ds)
www.motionblue.co.jp/

関連アーティスト