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キャロル・キング『つづれおり: ライヴ・イン・ハイド・パーク』 名盤の全曲再現ライヴ! ピアノとキャロルと名曲と。

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  • 2017.10.30
キャロル・キング『つづれおり: ライヴ・イン・ハイド・パーク』 名盤の全曲再現ライヴ! ピアノとキャロルと名曲と。

ピアノとキャロルと名曲と。

 キャロル・キングの71年の『つづれおり』は全世界で2500万枚以上を売り上げた記録的なロングセラーで、シンガー・ソングライター・ブームの火付け役となり、後続の女性アーティストに大きな影響を与え続ける歴史に残るアルバムだが、その名盤は彼女の人生の大きな変化から生まれた作品でもあった。

 今年、日本版も上演された『ビューティフル: キャロル・キング・ミュージカル』で描かれたように、60年代の彼女は裏方にいて、夫の作詞家ジェリー・ゴフィンと100曲以上のヒットを手がけた売れっ子ソングライターだった。つまり、ニューヨークでの彼女は非凡な才能で若くして成功した現代的な働く女性だったのだが、その一方で、保守的なユダヤ人社会に育ち、17歳で結婚し、若くして娘2人を育てる主婦でもある日々に息苦しさも感じていた。そんな彼女は68年にゴフィンと離婚。表舞台への転向を模索してロスアンジェルズに移住。『つづれおり』のセーターとジーンズに裸足で出窓に座る自然体のカヴァー写真からも窺えるように、自由な気風のカリフォルニアでライフスタイルを大きく変えたのである。

CAROLE KING Tapestry Ode/Columbia/A&M(1971)

 『つづれおり』にはそんな人生の旅路が反映していた。ゴフィン&キングのヒットの自演もあるが、大半は歌詞も手がけた書き下ろし。美声と言うわけでもない歌声で生々しい感情をぶつける私的な内容は、職業作家という前歴を知る者には衝撃的ですらあった。そして、その歌はフェミニズムと性革命で女性がそれまでにない自由と権利を獲得した時代と響き合ってもいた。幕開けの《アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ》と締め括りのアリーサ・フランクリンに書いた《ナチュラル・ウーマン》のどちらもが女性のオーガズムの隠喩とも解釈できる曲であるのは偶然ではない。

 

CAROLE KING Tapestry: Live At Hyde Park Legacy/ソニー(2017)

 『つづれおり: ライヴ・イン・ハイド・パーク』は、昨年7月に『つづれおり』全曲を披露したロンドンでの特別なコンサートを収めたCD&DVD。アルバムに参加したギタリスト、ダニー・“クーチ”・コーチマーを含むバンドとアルバムを再演するが、6万5千人が集まった野外の大イヴェントにもかかわらず、大仰な編曲や演出を排したことが成功の要因だ。『つづれおり』はあくまで本人の弾くピアノを中心にして、小編成のコンボとの「少ない音で多くを語る」制作方針が効果を上げていた。このコンサートでもその哲学は守られ、舞台上には5人のバンドと2人の歌手がずっといるけれども、全員が全曲で音を出すわけではない。これほどの大会場だから、音に厚みを加えたくなる誘惑もあったと思うが、あくまでキャロルと名曲という主役をそのまま届けることに徹したのがいい。

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