INTERVIEW

レーベル特集の最終回は、VIDEOTAPEMUSICの新作をフィーチャー! 〈街〉に蓄積された過去の痕跡をサンプリングしてみたら……

【特集:KAKUBARHYTHM15周年(第3回)】

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  • 2017.10.25

KAKUBARHYTHM15周年(第3回)
[ 特集 ]レーベル設立15周年を記念した3号連続企画の最終回! 久々となる新顔も仲間入りし、ますます規模を拡張する彼らの現在は? まずはこの男の新作から!

 


 

VIDEOTAPEMUSIC
〈街〉に蓄積された過去の痕跡を拾い集め、編集した不思議な電波がNOW ON AIR!

街に蓄積された過去のサンプリング

 ビデオからサンプリングした音声をもとに、音楽を生み出していく。そんな不思議なアプローチで、独自の世界を作り出してきたVIDEOTAPEMUSIC。彼の2年ぶりとなる新作のタイトルは『ON THE AIR』。ラジオやTVの放送中に使われる言葉だが、そのまま訳せば〈空気の上〉。つまり、電波が空気の上を漂っているということだ。思えば、音楽も空気を震わせることで人の耳に届くわけで、〈空気の上〉には目に見えないいろんな何かが飛び交っている。VIDEOTAPEMUSICは、今回のアルバム・タイトルについてこんなふうに語ってくれた。

VIDEOTAPEMUSIC ON THE AIR KAKUBARHYTHM(2017)

 「ビデオテープからサンプリングするというのは、磁気テープに記録された過去の痕跡を拾い集めるということなんですけど、そういうことを、〈街〉を題材にしてやれないかと思ったんです。街に蓄積された過去の痕跡を掘り起こせないかと。街の壁や植物ひとつにも、そこに自分の見たことがない過去や文化が染み付いているかもしれない。そういったものが街の空気中に電波や亡霊みたいに漂っている気がして、それをサンプリングできないかと思ってこういうタイトルにしました」。

 Blu-rayなどデジタルな画像の美しさに比べると、ビデオテープの画像に浮かぶノイズは不思議な魅力を持っている。まるで異世界が顔を覗かせる時空の裂け目のようだ。そして、そういったノイズに惹かれてきたVIDEOTAPEMUSICの目で眺めると、街はノイズに満ちている。それは風景のなかに潜む怪しい気配や空気のようなもの。彼は街を歩きながらノイズを収集した。

 「自分にとって、〈景色を見る〉というのは映画を観たり、本を読んだりするのと同じくらい子供の頃から知的好奇心をそそられることだったんです。とにかく近所の景色を全部見ずにはいられない。それがエスカレートして人の家の裏側の塀とか、庭に捨てられた粗大ゴミとかにも興味を持ってしまって(笑)。今回のアルバムに“ポンティアナ”っていう曲があるんですけど、それは埼玉の松原団地の近くにあった熱帯魚屋の名前なんです。チェーン店だらけの郊外のフラットな風景のなかに、見たことがない横文字があるから〈どういう意味なんだろう〉と気になって調べてみたら、〈ポンティアナック〉っていうインドネシアの地名があったんですよ。その名前は妖怪から来ていて、その妖怪を題材にしたホラー映画のジャンルがあるらしい。そんなふうに看板ひとつから、自分の知らない文化や景色が広がっていくんです」。

 VIDEOTAPEMUSICは興味を持った土地でフィールド・レコーディングしたり、その土地にまつわる文献や映像に触れながら、音のヒントを集めていく。そうやって作り出された音楽は、音で描いた風景画のようだ。ビートはレゲエをはじめとしたラテンのリズムが多いが、それは淡々とループされて自己主張しない。その上を、VIDEOTAPEMUSICが奏でるピアニカや生楽器、サンプリングされた音源などさまざまな音がメロディーに揺れながら浮かんでは消えていく。不思議な看板がきっかけになって生まれた“ポンティアナ”は、リズムボックスが刻むビートに乗って、ヴォコーダー越しの声がエキゾチックなメロディーを歌う。だからといって、それはポンティアナ地方のメロディーということではなく、「そのままをコピーしても意味がない」とVIDEOTAPEMUSICは言う。

 「調べて勉強したことを、一回全部忘れて作るようにしているんです。僕は大学で油絵学科を専攻していたんですけど、油絵は下地が重要なときもあって、下地があるからこそテクスチャーに深みが生まれるんです。今回はフィールド・レコーディングを多用してて、いろんな場所で録った音が入ってるんですけど、それって言わないとどこで録った音かわからない。でも、自分がその土地で感じたムードが伝われば良いと思うんです。ただ、〈ムードだけ〉といってもうわべだけ引っ張ってくるのはそこに住んでいる人たちに失礼なので、とことんその土地のことを調べるようにはします。それが下地となることで、もし上から別の音を感覚で重ねたとしても、土地のムードが滲み出てくるような表現にできないかなとは思っています」。

 

廃墟にそびえる電波塔から

 無意識のフィルターを通じて浮かび上がってくる〈イメージ〉で描かれた音の風景。それは妄想のサウンドスケープとも言えるかもしれない。そんななか、NOPPALのラップがフィーチャーされた“Her Favorite Moments”は、そもそも出会った景色のなかにリズムがあった。

 「福生の横田基地で毎年お祭りがあるんですけど、そこで10代の女の子たちがラジカセでドレイクとかリアーナをかけて騒いでいたんです。これまで、そういう音楽がアメリカでトレンドだってことを情報としては知ってても、あくまで遠い国の流行として消費する程度だったんですけど、その風景を見たとき、曲のリズムがリアルなものとして自分のなかに入ってきたんです。曲だけじゃなく、女の子たちの騒ぐ様子にもグルーヴがあって、そのグルーヴを自分なりにトレースして、そこでフィールド・レコーディングした音を混ぜたりして曲を作っていきました。ただ、その新しいリズムに自分のメロディーをはめるのが難しくて。そこでNOPPALに頼んだんです」。

 今回は、NOPPALのほかにも思い出野郎Aチームのメンバー(トランペットの高橋一)、サックスの増田薫、パーカッションの松下源)をはじめ、角銅真実(マリンバ)、Arban Sachs(フルート/サックス)、鶴岡龍(トークボックス)らが参加。“Fiction Romance”では生楽器の演奏が中心になっている。

 「この曲はアルバムのコンセプトが決まってから作った曲です。〈かつて出会った人や風景が、記憶の中から忘れ去られても匂いだけがかろうじて残っている〉みたいなイメージの曲にしたくて、マリンバみたいに伸びない音ですぐ消えていくようなメロディーが必要だったり、トークボックスみたいな機械と人間の中間みたいなエロティックな要素が欲しかったり、曲のイメージに合わせていったらいろんな楽器が必要になったんです。サンプリングしているセリフも重要で、ある映画のものなんですけど、そのセリフの一部は〈フィクションだと思って観ていた映画の中の風景が、ある瞬間に自分にとってリアルなものになる〉というようなことを言っています」。

 “Fiction Romance”というタイトルからしてVIDEOTAPEMUSICそのものとも言える曲だが、このタイトルは彼が考えたものではなく、ライヴで行った高松の街を歩いているときに見掛けた、港に落書きされていた言葉らしい。まるで、風景のほうから彼に語りかけてきたようなエピソードだ。アルバムのアートワークも風景だが、絵を描いたのは坂本慎太郎。映像作家としても活動するVIDEOTAPEMUSICは坂本のMVを手掛けたことをきっかけに交流を深め、昨年は12インチ“バンコクの夜”で坂本とコラボレートしているが、坂本の歌が持つ日常と非日常の間を揺らめいているようなサイケデリックな感覚は、VIDEOTAPEMUSICと通じ合うものがある。

 「もともとジャケットは風景がいいと思ってて。いろいろ考えてたときに、坂本さんにスプレーで風景を描いてもらうのが一番いいんじゃないかって思ったんです。空気中に塗料を出して描くっていう手法が、そのまま『ON THE AIR』的というか、〈空気中に漂う何かを定着させる〉っていうアルバムのコンセプトを物理的に表現する手法でもあるし。去年、坂本さんと共作したとき、お互いの音楽のことも話したりしていたので、僕のやりたいこともわかってくれるんじゃないかと思って。絵に関しては、日本かもしれないし海外かもしれない、時間もいつ頃かわからないような風景がいいと思いました。ただ、電波塔とパラボラアンテナは入れて欲しかったんです。その電波塔から発信される電波を受信したようなアルバムになるといいな、と思ったので」。

 ちなみにアーティスト写真でVIDEOTAPEMUSICの背後にそびえているのは米軍の通信施設の廃墟で、そこにも巨大なパラボラアンテナがふたつ並んでいる。かつて、そこから発せられた電波も『ON THE AIR』のなかに漂っているのかもしれない。感覚の周波数を合わせてみれば、そこから未知の世界が聴こえて/見えてくるはずだ。

『ON THE AIR』に関与したアーティストの関連作品を一部紹介。

 

VIDEOTAPEMUISICが手掛けたMVを一部紹介。

VIDEOTAPEMUSIC“Hong Kong Night View”(2015)

 

HALFBY“Slow Banana”(2015)

 

NRQ“sui”(2014)

 

cero“Summer Soul”(2015)

 

サニーデイ・サービス“夏は行ってしまった”(2014)

 

坂本慎太郎“悲しみのない世界”(2013)

 

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