過去を顧みている暇はないし、立ち止まってもいられない! この瞬間を死ぬほど生きろ! 強靭なバンド・サウンドが叩き出す僕と君のロックンロールは彼らの現在を歌い上げる!

ずっと描いていた理想像

 「自分は音楽を聴いてもらいたいし、そこで評価してほしかったんです。俺たちはバンドなんだっていうことをより明確にするために、THE 夏の魔物を結成したんで」。

 夏の魔物からTHE 夏の魔物へ移行した経緯をそう語るのは、同名の音楽フェス〈AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~〉も主催している成田大致。2017年1月に始動したTHE 夏の魔物は、リーダーの成田を中心に、泉茉里、大内雷電、アントーニオ本多、鏡るびい、麻宮みずほ(10月29日のライヴをもって脱退)から成るロックンロール・バンドだ。演奏は越川和磨(ギター)、えらめぐみ(ベース)、中畑大樹(ドラムス)、ハジメタル(キーボード)ら名うてのプレイヤーが揃った〈シン・マモノBAND〉に委ねている。〈THE〉を付けて新バンドとなり、さらに進化した彼らがいまこだわるのは、〈生音のバンド・サウンドによるロックンロール〉という表現だ。

 「バンド・スタイルでやろうと思ったのは、チャン(泉)と出会ってから出てきた欲なんです。自分の作るサウンドはかなりの爆音なんですけど、そのなかでしっかりと自分を表現できるヴォーカリストと出会えるのは稀で。チャンと最初に“どきめきライブ・ラリ”をレコーディングしたとき、〈いまなら自分の理想としてたことができるんじゃないか?〉という感覚になって、それが活動していくなかで確信に変わっていき、生バンドでやりたい欲が作品を作るたびに強くなっていきました」(成田)。

 「私はずっとロックンロールとはちょっと遠いところで活動してきたので、逆にすべてが新鮮で。いまのバンドの方向性は自分の好みや身体に合ってるので楽しくやれてますし、この音に出会わせてくれてすごく嬉しいです」(泉)。

THE 夏の魔物 THE 夏の魔物 バップ(2017)

 とはいえ、いわゆるロック・バンド的なイメージを良い意味で叩き壊す新奇性に満ちているのが、彼らの音楽であり、このたび完成したファースト・アルバム『THE 夏の魔物』だ。収録曲はライヴでおなじみの楽曲をリアレンジして再録したナンバーが中心だが、シン・マモノ BANDの演奏で再構築されることによって、楽曲自体にもともと備わっていた魅力が、よりダイナミックに伝わってくる。

 「いまはアウトプットがロックンロール・バンドなので、俺たちが日常的にやってるライヴを作品にしたかったんです。昔自分が作った曲を今回たくさん入れたのは、作っている当時は表現の仕方がわかってなかった部分もあったから、それらをより自分たちらしい形で伝えていきたいという意図もあって。ずっと頭に描いていた理想像に、いまならチャレンジできると思ったんです」(成田)。

 

全員で作るバンドのグルーヴ感

 DOTAMAと掛け合いする女子メンバー曲“RNRッッッ!!!”や泉のソロ曲“わたし”なども交えつつ、多くの楽曲で主軸となるのは成田と泉のツイン・ヴォーカル。成田のヒロイックな歌声に呼応するかの如く、格段に力強さを増した泉の歌唱の成長ぶりは著しく、そこにアントンのエモい咆哮、大内の熱いシャウト、鏡の初期衝動丸出しなスクリームなどが挿入されるのだから、楽曲に込められたトータルの熱量はハンパなものではない。

 「成田さんの歌声がすごいので、私はそれに負けないように自分の色を出して歌おうとがんばっていて、仲間でもあるけど闘ってるみたいな感じなんです。2人で歌ったら共鳴し合って良い音を出せる、常に高め合っていける存在であればいいなって」(泉)。

 「声のマッチングがすごくいいんですよ。特に今回の“涙。”や“僕と君のロックンロール”はチャンがいなかったらできなかっただろうし」(成田)。

 「大内さんやアントンさんはもちろんですけど、るびいも今回のレコーディングではより存在感を出してきて」(泉)。

 「そう、俺が表現したいものにはいまのメンバーが必要なんです。だから俺たちは楽器を弾いてないですけど、全員で作ってるバンドのグルーヴ感はすごくあると思っています」(成田)。

 その新曲“涙。”は、森雪之丞が歌詞を提供したアルバムのリード曲(作曲はWiennersの玉屋2060%)。不器用でも傷だらけでも涙を胸に前進する気持ちをストレートなロックンロールに託し、現在のバンドの状況をそのまま表現したような名曲となっている。

 「自分の曲作りは、人に書いてもらうことで自分たちらしさやバンドらしさが出ると思ってるので、あまり自身で歌詞を書きたくないんですよ。雪之丞先生のことは以前からきっと僕のモヤモヤしてる部分を表現してくださる方だと考えていて、実際に初めてお会いした時も、俺が何か言う前から〈こういうことをやりたいんだよね?〉って言い当ててくれて」(成田)。

 そのように自分たちの持ち味をストレートに研ぎ澄ませた楽曲が並び、最後は〈好きな自分に会えなくて 好きなみんなと会えたんだ〉というサビも印象的なメンバー全員による作詞曲“THE 夏の魔物のテーマ”で締め括られる『THE 夏の魔物』。制作の途中には音楽の方向性の違いという理由で麻宮の脱退発表もあったものの、そのことが逆にバンドの方向性の再認識に繋がり、作品のガッツと求心力を強める結果になったのではないだろうか。

 「もちろん、一緒に歌い続けていきたい。って気持ちはめちゃくちゃあるんですけど、私たちの作りたいバンドの方向性がアルバム作りを通してより固まったなって気持ちもあります。みずほにも、今度は戦友としてステージで戦おうって気持ちにやっと最近なれたし」(泉)。

 「THE 夏の魔物は何も言わなくても向いてる方向が一緒というのはあって。俺はこのメンバーで音を出したい、このメンバーでしかできないことがやりたい、ただそれだけが詰まってるのがこのファースト・アルバムなんです。だからこそ、まだ出会ったことがないロック・ファンに届いてほしいです」(成田)。

THE 夏の魔物の作品。