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ウィーザー『Pacific Daydream』 ポップな新作を機に改めて考える、彼らが太平洋の両岸で愛される理由

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  • 2017.11.09
ウィーザー『Pacific Daydream』 ポップな新作を機に改めて考える、彼らが太平洋の両岸で愛される理由

あれこれと振り返りつつ、晩秋はウィーザーの〈味わい深い〉新作に舌鼓!

 昨年の〈White Album〉こと『Weezer』が全米アルバム・チャートで初登場4位を記録し、第59回グラミー賞〈最優秀ロック・アルバム〉部門でのノミネートを果たしたウィーザー。同部門にノミネートされるのは彼らの25年のキャリアにおいて初で、今年2月に授賞式に出席した4人は、とても誇らし気に見えた。〈White Album〉は、ウィーザーのファンであるジェイク・シンクレアが初期2作のサウンドを狙ってプロデュースしたおかげで、新機軸を取り入れつつ、往年のファンを満足させるロック・アルバムになっていた。そんな前作からたった1年半で彼らが完成させたのが、ニュー・アルバムの『Pacific Daydream』である。

WEEZER Pacific Daydream Crush/Atlantic/ワーナー(2017)

 前作の成功で、〈いまのウィーザーにできることをやりきった〉と感じたのではないかと思うが、今回の彼らは複数のヒットメイカーを制作陣に迎えて、新しいサウンドに挑んでいる。3月に発表された先行シングル“Feels Like Summer”は、前作でいちばん実験的だった楽曲“Jacked Up”をプロデュースしたジョニー・コファーが、ジェイソン・デルーロやグウェン・ステファニーらポップ方面の仕事で知られるJR・ロテムと共作/プロデュースしたもの。“Jacked Up”でも披露していたファルセット・ヴォイスを採り入れた、ソウルフルなポップとギター・ロックを融合した斬新な曲になっている。リリース後はファンの間で賛否両論が巻き起こったが、このシングルは結果的にアメリカのオルタナティヴ・ラジオ・チャートで首位を達成し、ウィーザーにとって過去10年間で最大のラジオ・ヒットとなった。

 続くセカンド・シングルの“Mexican Fender”の共作者は、ドイツ出身のプロデューサー、トビー・ガッドで、過去にジョン・レジェンドの“All Of Me”やビヨンセの“If I Were A Boy”といった世界的ヒット曲を手掛けた人物。骨太のギター・リフにラップのライミングのようなヴォーカルを乗せ、サビでは哀愁たっぷりのメロディーが飛び出してダイナミックな広がりを見せる曲で、ウィーザーらしさを維持しながらも新しいステージに向かっている。そしてサード・シングル“Beach Boys”は、ファンキーなベースラインが印象的な、風変わりでおもしろいポップソング。この曲を手掛けたブッチ・ウォーカーが、アルバム全体のプロデュースを担当した。

 アヴリル・ラヴィーン、ピンク、オール・タイム・ロウなどの作品をプロデュースし、ソロ・アーティストとしても活動するブッチ・ウォーカーは、ウィーザーの2009年作『Raditude』で、シングル“(If You're Wondering If I Want You To)I Want You To”を含む2曲をプロデュースしていた。2曲ともブッチらしい明朗なポップ・ロックだったが、今作もまた、全体的に明るいトーンでまとめられている。『Raditude』と明らかに違うのは、ヒップホップ/R&B寄りのダンサブルでモダンなポップになっていることだ。テイラー・スウィフトの新曲で明らかなように、いまのアメリカで最先端の音は、ヒップホップを取り込んだポップス。その要素をウィーザーのロックに組み込んだ本作からは、必然的に激しいギター・サウンドは姿を消している。今作においてもっともロックな“Get Right”ですら、ギターの音量は控え目だ。とはいえ“Happy Hour”や“QB Blitz”、“Sweet Mary”などでは、リヴァースの泣きのメロディーとエモいヴォーカルが健在で、意外な新しさとウィーザーらしさを、違和感なく融合することに成功していると思う。

 最新シングルとして10月に発表された“Weekend Woman”は、YouTubeのコメント欄で多くのファンが指摘しているように、〈Green Album〉制作時の未発表曲“Burning Sun”のメロディーを再利用している。だが、そのメロディーのあと、ビーチ・ボーイズの美しいハーモニーに通じるサビへと発展し、“Burning Sun”よりもずっと凝った作りに生まれ変わっている。この曲に代表されるように、今作はポップなサウンドで統一されてはいるが、各曲の構成が前作以上に複雑で変わっているので、聴けば聴くほど新鮮な発見があるところも魅力である。

 タイトルの『Pacific Daydream』は〈太平洋の白昼夢〉という意味だが、リヴァースが暮らすサンタモニカのある西海岸のビーチは、前作のテーマでもあった。今作の違いは、そのビーチで〈白昼夢〉を見ているという点だ。リヴァースは、中国の荘子の説話「胡蝶の夢」を読んで、この構想を思いついたという。ある日、自分が蝶になって飛び回っている夢を見た荘子は、目覚めて荘子に戻ったあとも、自分が蝶の夢を見ている人間なのか、それとも人間であることを夢で見ている蝶なのかがわからなくなったという話である。それを元に、リヴァースは夢と現実の境界線が曖昧な白昼夢のストーリーを、これらの新曲の題材にした。〈リヴァースに愛人?〉とツッコミを入れたくなる曲もいくつかあるが、それもどこまでが現実でどこまでが夢なのか、想像しながら楽しめる。

 11作目にして画期的な冒険に挑み、新境地を切り開いた『Pacific Daydream』は、ギター・ロック・ファンからは批判されるかもしれない。それでも、彼らがウィーザーらしさをないがしろにせずに、ここまで今日的なアルバムを作ったことは祝福に値すると思う。世界中に新しいファンを広げる重要な一枚になることだろう。 *鈴木美穂

文中に登場したアーティストの作品を紹介。

 

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