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クリント・マンセルの音楽が新たな色彩となって動き出すゴッホの名画の数々

 この秋、話題を呼びそうな画期的なアート・ムービー、「ゴッホ ~最期の手紙~」。生身の俳優が演技を行った実写のフィルムを元に、世界各国から集められた計125名の絵描きが、ゴッホ風の油絵に描き起こし、CGも用いて仕上げられたという、驚くべきアニメーション映画だ。そしてその音楽を担当したのは、「レクイエム・フォー・ドリーム」、「ブラックスワン」等のダーレン・アロノフスキー作品の音楽を一貫して手掛けてきたクリント・マンセル。ロック畑出身で、エレクトロニック・ミュージックや現代音楽の要素を含んだ映画音楽を作り続けてきた彼だが、本作でもそのキャリアを存分に生かしたサウンドトラックを作り上げている。

CLINT MANSELL Loving Vincent Milan Records(2017)

 前半~中盤は、ピアノやストリングスも動員したミニマリスティックな楽曲が続き、ミステリーの要素が強い映画のスリリングなムードを静かに盛り上げてゆく。貧しく、不遇な生活の中でもがき、苦しみながらも、一瞬の時の美しさや儚さを捉えるゴッホのように、基本的には無機質で無表情な音楽の表情が、時に静かなやさしさに包まれる。また、最期の悲劇への不穏な空気をマイナーな旋律で表す、といったように、1曲ごとの構成の中にさまざまな情感が表現されている。

 資料によれば、マンセルはゴッホの 「技術よりも表現」という格言から、ゴッホ=パンクス、アウトサイダーというイメージをもった、という。強弱のコントラストや不協和音、そしてかすかなノイズ音などによって、エキセントリックな逸話でも知られる夭逝の天才画家の像にパンキッシュなアクセントを加えている。

 見慣れた名画の一場面がいきいきと動き出す、マジカルな映像、そしてゴッホの最期を探る、というサスペンス・タッチの展開で映像的にも充分に楽しめる映画だが、歴史上の人物に、現代のアーティストにも通じるロックな感性を嗅ぎ分け、一つの個性として音楽に反映させたマンセルの試みも、しっかりと息づいている。

 


FILM INFORMATION

『ゴッホ ~最期の手紙~』
監督・脚本:ドロタ・コビエラ
音楽:クリント・マンセル
出演:ダグラス・ブース/ロベルト・グラチーク/ほか
配給:パルコ(2017年/イギリス・ポーランド/96分)
◎11/3(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次ロードショー!!
www.gogh-movie.jp/