前回掲載した主催・FRUEの山口彰悟氏へのインタヴュー記事も好評だった、Mikikiで特集中の野外音楽フェスティヴァル〈FESTIVAL de FRUE 2017〉が、いよいよ来週末11月3日(金・祝)、4日(土)に静岡・掛川のつま恋リゾート 彩の郷で開催される。FRUE側も〈ジャジューカの来日は2度とない気がします〉とツイートするなど、マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカの最初で最後かもしれない(?)来日が依然大いに話題を呼んでいるなか、先日タイムテーブルも発表されたところで、特集の最終回をお送りしよう。今回は、音楽評論家の原雅明氏にコラム執筆を依頼。氏が〈FESTIVAL de FRUE 2017〉のラインナップでグッとくるアーティストの紹介を軸に、同フェスを魅力に想う点をしたためてもらった。 *Mikiki編集部

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 ファビアーノ・ド・ナシメントの話から、まずは始めよう。ストーンズ・スロウから派生したナウ・アゲインは、DJであり、ディープなディガーとしても有名なイーゴンがスタートさせたレーベルだが、レアでオブスキュアな過去の音源だけではなく、現在進行形の音楽も積極的に紹介してきた。その一つが、リオ・デ・ジャネイロ出身でLAで活動するギタリスト、ファビアーノだった。ソロ・デビュー作『Danca Dos Tempos』は個人的にいまも愛聴しているアルバムだ。エルメート・パスコアールの“Forro Brasil”を疾走感のあるギターとドラムスだけで見事にカヴァーしてスタートするこの作品は、彼がそれまでに橋渡しをしてきたブラジルとLAの音楽の繋がりを反映したものでもある。例えば、ブラジルのトータスとも称されるサンパウロのポスト・ロック・バンド、ウルトモルドのパーカショニスト/ドラマーであるマウリシオ・タカラと、LAのシンガー・ソングライターのミア・ドイ・トッドがブラジルでツアーをすることを導いたのもファビアーノだ。その音楽性はブラジル音楽に確かに根ざしたものだが、その括りだけで語ることができない要素も孕んでいる。でも、それはファビアーノだけに限った話ではない。現在のブラジル音楽の中でも特に注目を集めるミナス・ジェライス州から聞こえてくる音楽が、伝統音楽からエレクトロニック・ミュージックまでがごく当たり前に混じり合い、新たな響きを創出しているように、ファビアーノの音楽もハイブリッドな感覚を共有するものだ。

2015年作『Danca Dos Tempos』収録曲、エルメート・パスコアール“Forro Brasil”のカヴァー
 
2016年のライヴ映像

 

 次に取り上げたいのは、アシッド・パウリだ。ドイツ、バイエルン地方出身のプロデューサー、マーティン・グレッチマンが、アシッド・パウリの名義で2012年に初めてリリースしたアルバム『mst』も僕はいまだに愛聴している。美しくて、ちょっと奇妙なこの世界を、単にエレクトロニック・ミュージックとだけ括ってしまうのはあまりにも味気なく、勿体ない。ノーツイスト、コンソール、13 & Godといった彼が関わったバンド/ユニットが生み出したフリーフォームなサウンドも忍び込ませ、さらにはもっとプリミティヴな世界の音楽の記憶までが詰まっている。ビョークが2001年にリリースした『Vespertine』はいまもって彼女の作品の中でもっともレフトフィールドなアルバムであると思うが、そこにマシュー・ハーバートやマトモス、トーマス・ナック(オピエイト)といった一筋縄ではいかない面々と共にフィーチャーされたのが、当時コンソールをやっていたマーティンだ。アシッド・パウリが今年リリースした『BLD』を聴けば、90年代にベッドルームから生まれた音楽にあった最良の創造性や実験性をいまもアップデートし続けている、数少ない重要なクリエイターの一人であることがわかるはずだ。

2012年作『mst』収録曲“A Clone Is a Clone”
 
2017年作『BLD』収録曲“Abbebe”

 

 続いては、ヴードゥーホップだ。トマッシュ、ウルブ・マリンカ、ピーター・パワー、シロサンプルズらによる、このブラジル・サンパウロのDIYパーティーのクルーを知ったのは最近のことだ。しかし、ニコデマスを中心にしてNYから南米や中近東、アフリカの音楽を巻き込んだサウンドを紹介してきたワンダーホイール、リオ・デ・ジャネイロから南米のエレクトロニック・ミュージックの新たな流れを紹介してきたフレンテ・ボリヴァリスタ(Frente Bolivarista)といったレーベルから届けられる音楽を追っていれば、おのずとその先にこのクルーと出会うことになる。ブラジルやアルゼンチンはもちろん、チリやコロンビア、エクアドルといったところからも驚くべきサウンドが登場している。僕は昨年スペイン、バルセロナの〈sonar〉を取材で訪れたが、そこでもっとも印象に残るパフォーマンスを見せたのはエクアドル出身のニコラ・クスルだった。伝統音楽をしっかり取り入れながら、プラットフォームは極めてモダンだった。こうしたローカルな音楽性とグローバルな枠組みの融合がより洗練されたレヴェルで成立しているのが現在の状況であり、それらとリンクするDJを実践しているのがヴードゥーホップだと言える。

2016年のコンピ『Entropia Coletiva I』収録曲“Cosmossamba”

 

 次はヴェッセルに行こう。ブリストルから登場したヴェッセルことセバスチャン・ゲインズボロが、2014年にトライ・アングルからリリースしたアルバム『Punish, Honey』は奇っ怪な作品だ。これは褒め言葉である。メタル・パーカッションらしき自作の楽器を使い、エレクトロニクスを隅に追いやるように作り上げられたサウンドは、ブリストルが想起させるベース・ミュージックでも、インダストリアルやダーク・アンビエントでもなく、新たなイングランドのフォーク・ミュージックを任じている。セバスチャンはその音楽の説明に、オペレッタ「ミカド」で有名なヴィクトリア朝時代のギルバート&サリヴァンと、ゴシック・インダストリアルのコイルを、あるいはグラム・ロックの俗っぽいスターであるゲイリー・グリッターとポスト・パンクからアシッド・フォークや現代音楽まで飲み込むマイケル・ギラ率いるスワンズを引き合いに出してみたりもするが、どこまでが本気なのかは分からない。ただ、そのサウンドだけではなく、かつてのスクエアプッシャーのようにみずからシチュアシオニストたらんとする姿勢を合わせ持った特異なアーティストとしても注目をしている。

2014年作『Punish, Honey』タイトル・ナンバー
 
2014年のパフォーマンス映像

 

 そして、最後に触れたいのは、アイドリス・アッカムール&ザ・ピラミッズだ。シカゴ生まれのマルチ奏者アイドリス・アッカムールことブルース・ベイカーは、70年代初頭にフリー・ジャズのパイオニアであるピアニスト、セシル・テイラーが率いたブラック・ミュージック・アンサンブルに参加をしていた。これは当時オハイオ州アンティオーク大学に招かれたテイラーがジャズを含めたブラック・ミュージックを教え、実践するプロジェクトとして始めた学生を中心にしたオーケストラで、そこから派生したのがピラミッズだった。彼らはアフリカとヨーロッパを回るツアーをおこなったり、サンフランシスコに新たな基盤を作って、70年代半ばまでコミューン的な活動を続けた。アイドリスは以後もサンフランシスコで活動を続け、何度かピラミッズの再結成もおこなってきたが、日本のEM Recordsが再発を手掛けたアルバム『Birth/Speed/Merging』をきっかけに再評価が一気に進み、遂には新録のアルバム『We Be All Africans』を昨年リリースした。サン・ラーなどの影響下にもあるスピリチュアルでアフロセントリックなジャズを演奏したピラミッズのサウンドが、現代的な響きも獲得しているのは、共同でプロデュースに当たったドラマー、マックス・ヴィンセフェルトによるところが大きいだろう。ヘリオセントリックスやホワイトフィールド・ブラザーズの一員でもあり、ドクター・ジョンからバセク・クヤーテの録音にも参加をしてきた才能あるキーパーソンの存在と、その関係性にも注目をしたいところだ。

『Birth/Speed/Merging』収録曲“Black Man & Woman Of The Nile”
 

grenswerk sessies - Idris Ackamoor from deFilmMeneer on Vimeo.

2016年のライヴ映像
 

 〈FESTIVAL DE FRUE〉を紹介する本稿には、2日間に渡って出演するヘッド・ライナーであるマスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカも、日本でもファンの多いババズーラも登場しない。まったくもって偏った紹介となってしまったのだが、ブライアン・ジョーンズの『Pipes of Pan at Jajouka』やオーネット・コールマンの『Dancing in Your Head』のレコードをいまも大切にしている身としては、当然ジャジューカのライヴは必見であるし、この並びで登場する菊地成孔のDC/PRG水曜日のカンパネラなどの日本の出演者のステージがどうなるのかももちろん気になる。さらに個人的なことを言えば、YO.ANらのDJや、リリースをチェックしてきたHOLE AND HOLLANDがフェスという場で聴かせるサウンドにも興味がある。だが、ここでは日本でまだそれほど知られていないアーティストを中心に追ってみた。世代もジャンルも活動するフィールドもバラバラで一見何の繋がりのなさそうなラインナップに見えるが、伝統的な音楽との結び付きやマージナルなサウンドへのアプローチ、異なる世代の交わりといった面では、通じ合うものも多い。そこに通底する何かを発見するのも、音楽がもたらす愉しみである。そして、こうやってアクトを並べたときにその愉しみが見えてくるようなフェスほど、心躍るものはないとも思うのだ。

 


FESTIVAL de FRUE 2017

日時:2017年11月3日(金・祝)、4日(土)
場所:静岡・つま恋 リゾート彩の郷
開場/開演:10:00/13:00
終演:3日/29:00 4日/26:00 ※時間はいずれも予定
出演:
〈11月3日〉
マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ、アシッド・パウリ、
ババズーラ with Nourah、DC/PRG led by 菊地成孔、∈Y∋(BOREDOMS)、ヴェッセル、水曜日のカンパネラ、BLACKSHEEP、HOLE AND HOLLAND
〈11月4日〉
マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ、アイドリス・アッカムール&ザ・ピラミッズ、高木正勝(バンドセット)、ファビアーノ・ド・ナシメント、
OGRE YOU ASSHOLE、ヴ―ドゥーホップ(トマッシュ、ウルブ・マリンカ、ピーター・パワー、シロサンプルズ、KALOAN、A MACACA)
チケット:
前売2日通し券:17,000円
前売1日券:10,000円
キャンプサイト券:2,000円(1名)
南駐車場駐車券:3,000円
web shop : https://frue.shop-pro.jp
e+:http://eplus.jp/
Peatix:http://peatix.com/event/299487
※キャンプサイト券は1名様につき1枚必要
※駐車券は車1台につき1枚必要
※12歳以下は無料
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