Page 2 / 2 1ページ目から読む

〈ダサいことをしたくない〉というこだわりを捨てて、自由になれた

――そうした思い通りにいかない期間を経て、only in dreamsから新作をリリースするという話は、どんなふうに進んでいったのでしょう?

TORA「Gotchとはたまにご飯を食べに行ったりしながら、アルバムのことを相談していたんですよ。〈曲は作っているけど、なかなかスケジュールは合わへんし……〉みたいな感じで。というのも、2016年に“SRKEEN”を7インチで出したとき、ドラムは打ち込みだったんですよ。それには、スケジュールの問題も関係していて」

7インチと配信でリリースされた際のMV。新作『Dawn On』では再レコーディングされたヴァージョンを収録
 

――そうなんですか。

TORA「〈いつまで経ってもできへんし、アルバムも打ち込みでやろうか〉という話も出たんですけど、せっかくカッコイイんだから、しっかりレコーディングしたほうがいいとGotchが言ってくれて。そこから今回のリリースも決まり、やっとレコーディングできる状況になったというか。みんなのエンジンがかかりだしたんです」

――ドラムで打ち込みを使うというのは新機軸ですよね?

マエノソノ「そうですね。今回は全然叩いてない曲もありますよ。僕が叩いた音をサンプリングして、それを並べてみたりとか」

――例えばどの曲ですか?

マエノソノ“愛を集めて”は、ハイハットだけ僕の揺れ、というかヴァイブスが残っていて、あとは全部シーケンスです。“SRKEEN”もハイハットだけ後から足しました。あと、“Rolling”も全然叩いてなくて、最後の8ビートに変わるパートで、ハイハットだけ叩いて、シーケンスと入れ替えています」

TORA「“Rolling”はちょうど、レッチリの新しいアルバム(2016年作『The Getaway』)が出たときに録音していて。〈この感じカッコイイねー、1曲やってみる?〉みたいな流れで作ったんです」

レッド・ホット・チリ・ペッパーズの2016年作『The Getaway』収録曲“Go Robot”
 

――あのアルバムは、プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチが、レディオヘッド譲りの手法でレッチリの音を再構築しているのが面白いですよね。グルーヴィーだけど温度感がまったくなくて、そこが今っぽい。

TORA「そうそう、ガッチガチに組んでいる感じで」

――『Dawn On』では、誰がプログラミングしているんですか?

マエノソノ「古賀(健一)君っていうGotchと関係が深いエンジニアがいて、彼がそういうのを組むのが好きなんですよ。あと、ドラム・テックの三原(重夫)さんも有名な人なんですけど、一緒に面白がってくれて。デモを聴きながら、曲ごとにセッティングやチューニングを工夫してくれて。1曲目の“Ganges-Fox”も、ああいうタムの音はドラムセットを普通に叩いても鳴らないんですよ」

※ローザ・ルクセンブルグやTHE ROOSTERZのドラマーとして知られており、現在はドラム・テックとして活躍

――そうなんですか!

マエノソノ「まずはフロアタムだけ〈ドーン、ドーン〉と叩き、次にロータムを……みたいにひとつずつ叩いて、それをあとで重ねると、あの音になるんです。ドラムには共鳴音というのがあって、セットで一緒に組んで叩くと打ち消し合ったり、混ざってしまったりするケースがほとんどなんですけど、今回はそういう録り方をしているから共鳴音がまったくない。だから、ああいう面白い音になったんです」

――そもそも、過去の8ottoはこんなタムワークや、跳ねたリズムは使ってこなかったですよね。“Ganges-Fox”の祭囃子を思わすリズムが、アルバム全体の変貌ぶりを象徴していると言っても過言ではないと思いますけど、そういう変化は意識的に持ち込んだものですか?

マエノソノ「うん、そうですね。それまでは僕のこだわりとして、さっき話したジョンスペのドラマーみたいに、上半身のあたりにタムを置きたくなかったし、シンバルも一枚でやりたかった。でも、そんなこだわりはもういいかなって。それよりも音楽的に格好良くなるほうが大事だから、必要であればタムを上に付けるし、クラッシュシンバルも用意しようと。今まではタム・アレンジも排除してきたんですけど、Gotchが〈そういう曲があってもいいんじゃない?〉と提案してくれて。試しにこの曲で跳ねてみたら上手くいきました」

TORA「あと、3作目までは全部一発録りだったんですよね。そのあと4作目で少し方向転換して、今回のアルバムはライヴのことをいったん気にせず作ることができました」

マエノソノ「クリックを聴きながら、ベースとドラムを先に録音していくみたいな。かなりオーソドックスなやり方ですけど、8ottoでは初の試みだったんですよ」

――そういった変わろうとする姿勢が、前面に出ていますよね。“Romance”でのレゲエ~ダブ、“It's All Right”におけるスカの要素も、もともとバンドのルーツにあったんでしょうけど、これまでは出してこなった部分だと思いますし。

マエノソノ「“Romance”は完全に、テレヴィジョンの“Marquee Moon”みたいなイメージですね」

TORA「“It's All Right”は、僕がやりたいと言い続けたんですよね。〈スカの曲があったら、みんなびっくりすると思う〉って。でも、想定していたのはスカコアくらいわかりやすい感じだったんですけど、自分たちで演奏するとモッサリしてしまう(笑)。キレとかノリノリな感じが出ないけど、これはこれでカッコイイというか」

マエノソノ「そう、なんか一向に速くならなくて(笑)。ずっとドラムが重たい感じ。昔からパンク・バンドがスカをやると、(本家より)少しもっちゃりというか、ヘタクソになるじゃないですか。僕らもそんな感じだと思ったので、スペシャルズやオペレーション・アイヴィーではなく、クラッシュやダムドをがんばってめざすしかないと」

――シンガロングを誘いそうなビッグ・コーラスも、新作のトピックですよね。8ottoの個性はリフとグルーヴという話もしましたけど、このアルバムでは今までになくメロディー志向が強くなっている気がします。

マエノソノ「昔はきっと〈8ottoでダサイことはしたくない〉という気持ちが強かったんですよね。そういう思い込みで、自分たちの首を絞めていたというか。それで結果的に、どんどん自分たちの世界を狭めていって、どんな曲を書いたらいいのか全然わからなくなってしまった。でも今は、そういう余計なこだわりを全部取っ払って、曲調やリフとか関係なしに、僕ら4人が演奏したら8ottoやなって思えるようになったので、アレンジの自由度が一気に拡がったんですよね」

 

今はスイッチを入れ直したような感覚

――そういうポジティヴな開き直りを進めるうえで、Gotchさんのプロデュースはどのような影響を与えたのでしょう?

TORA「今回は僕とセイちゃん(ヨシムラセイエイ/ギター)とでトラックを作って、マエソンにメロディーを付けてもらう作り方もやってみたんですけど、いつもよりエンターテイメント性を重視していたから、Aメロやサビといった構成がわかりやすくてシンプルな曲ばかりになったんですよね。そこでGotchが、持ち前のポップさとオルタナ感覚で上手いことバランスをとってくれたと思います」

――具体的に、プロデュースで曲が変化した例を挙げてみてもらえますか?

TORA「“Romance”のヴァースの部分ですね。もう少し凝ったほうがいいんかなと思ったけど、〈アルバムに1曲くらい、すぐサビに移るわかりやすい曲があってもいいと思う〉と言ってもらえて、悩んでいたのがその一言で納得したというか」

マエノソノ「僕はヴォーカルでいい影響をもらいましたね。Gotchはリズム感がものすごくいいんですよ。〈タイミングさえ合っていれば、ピッチが少しくらい外れてもカッコイイんだよね〉とよく話していました。僕もリズム感には妙な自信があったんですけど、Gotchの言うとおりにしてみたらかなり良くなった。自分はこれまでルーズな歌い方をしてきたけど、サビでのタイトな合わせ方とか、そういうのは勉強になりました」

――あとは今年7月に掲載された公式インタヴューで、“Ganges-Fox”にはデヴィッド・ボウイの影響があると話していましたよね。ボウイの死は、アルバムにも影響を与えている?

マエノソノ「かなり大きいですね。この曲自体は5~6年前からあるんですけど、最初は僕が死んだときに葬式でかけてもらう曲というイメージで作り始めて。だから〈新しい門出〉じゃないけど、楽しい感じの曲調にしたかった。でも、ちょうど曲を詰めていく段階でボウイが亡くなったことで、自然とトリビュートを捧げるようになったんです」

――“Ganges-Fox”の終盤で大サビに登り詰めていく過程は、ボウイの“Space Oddity”でカウントダウンするくだりのオマージュですよね。

マエノソノ「もともと僕は宇宙が好きで、〈宇宙はヴァイブレーション〉というブログもやっていますけど(笑)、ボウイが亡くなってから“Space Oddity”を聴いたときに〈やっぱりこれだよね〉と思って。だから、『Dawn On』は宇宙をテーマにもしているんですよ。だからアルバムも全体的にスペーシーだし、メタリックでざらついてる感じが出せたかなと。華道家の片桐功敦さんに手掛けてもらった、ブーツにヒマワリを活けた写真のジャケットも、広大な宇宙空間を宇宙船が漂っているようなイメージにもなっているし、すごく気に入っています」

デヴィッド・ボウイの69年作『Space Oddity』収録曲“Space Oddity”
 

――“Mr. David”もボウイに捧げた曲ですよね。〈神は課題をくれ 僕らはただ踊れ〉というフレーズもありますが、この神にもボウイの死を重ねているのかなと。

マエノソノ「うーん、それよりはボウイを聴いて育った少年が、こんな曲を作ったので聴いてくださいという感じですね。そこでボウイの楽曲――“Starman”や“Ziggy Stardust”、“Heroes”とかのイメージを全部ぶっこんで作ったら、なぜかニュー・オーダーっぽい曲調になったという(笑)。この曲と“Ganges-Fox”が、自分のなかで生と死、表と裏みたいな感じでアルバムの核を担っています」

――最後に、『Dawn On』というタイトルの由来を教えてください。

マエノソノ「スイッチを入れ直すような感覚で、〈On〉という言葉を使ったアルバムにしたくて。インターネットで検索していたら見つけたんです。新しい時代の幕開け、やっとわかり始める、目覚め、夜明けといった意味の言葉で。たくさんもがいたあとに、いい音楽を作ることができた今のタイミングにぴったりだなと」

――本当にそのとおりですね。

マエノソノ「MCでも、〈オーイエー! レッツ・ゴー、ドーン・オン!〉みたいに使っちゃいそう」

TORA「響きがいいからね(笑)」

 


8ottoからのお知らせ

『Dawn On』特設サイトにてゆかりの深い方々からのコメントを掲載中!

・ニュー・アルバムを引っさげてのリリース・ツアーを開催決定!
2018年2月6日(火)の東京・代官山UNITを皮切りに札幌・仙台・大阪・広島・福岡、etc.を回る予定。詳細は後日発表。

その他のLive Information

2017年11月19日(日)兵庫・神戸 太陽と虎
共演:ASPARAGUS

2017年12月4日(月)大阪・難波Hatch
共演:ASIAN KUNG-FU GENERATION/FEEDER

★詳細はこちら