INTERVIEW

イゴール・レヴィット、9月の来日公演でいよいよ真価を明らかにしたピアニスト―語りくちの巧さ際立たせる技の冴え

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  • 2017.11.15
(C)Felix Broede

 

語りくちの巧さ際立たせる技の冴え

 2017年9月17日は日本の音楽ファンにとって、長く記憶されるだろう。ベルリン・フィル次期音楽監督に選ばれてなお「幻の指揮者」だったキリル・ペトレンコが現在のパートナー、バイエルン国立管弦楽団とともに日本で最初の演奏会(東京文化会館)を成功させただけではない。2004年に浜松市の国際ピアノアカデミーで1位をとり、ソニーからは既に3点のアルバムをリリース、2012年には東京都内でリサイタルを行なったにもかかわらず、正当な評価の機会を逸してきたピアニスト、イゴール・レヴィットがラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》およびアンコールのワーグナー~リスト《イゾルデ愛の死》で桁外れの音楽性を発揮し、ついに真価を明らかにしたからだ。

 1887年にロシアで生まれ、8歳のとき家族とともにドイツへ移住したレヴィットは現在、ベルリンに住む。同じくロシアから18歳でオーストリアに移住したペトレンコとは音楽家としての背景を共有するにとどまらず、「人間的にも最高に素晴らしい。何を共演するにもとことん話し合い、本番中も絶えず双方向のコミュニケーションが成立し、音楽が完全燃焼する」と絶賛する。控えめながら絶妙のペダリング、透き通るような弱音であっても、ホールの隅々まで届き、ほとんどミスタッチのない精確な打鍵……。レヴィットの技は冴えわたっているが、フォルテッシモまでの到達距離が長く、曲に潜む物語や内面の感情をじっくり解き明かす「語りくち」の部分に、大半が費やされる。

 年間の活動の内訳は60%がリサイタル、30%がオーケストラとの共演、10%が室内楽。リサイタルではJ・S・バッハ、ベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ブゾーニ、ジェフスキーら多彩な作曲家を手がけるが、中でもベートーヴェンには思い入れが強く、ソニーのデビューもいきなり、後期ソナタ集で驚かせた。最新盤はバッハ《ゴルトベルク変奏曲》、ベートーヴェン《ディアベッリの主題による33の変奏曲》、ジェフスキー《『不屈の民』の主題による変奏曲》の3大変奏曲を収めたセット。「実際のリサイタルツアーでも事情が許せば、1晩目にゴルトベルク、2晩目にディアベッリと不屈の民といったプログラムに挑みたい」。レヴィットの美しい音と語りの巧さを通じ、一つ一つの変奏は宝石のように輝く。「音楽はドグマではなく、生き生きとして自由な芸術。変奏曲を弾きながら、私が聴衆に何かを与えられたとき、客席からも間違いなく私に対し、素晴らしい贈り物がある。これこそライヴの一回性の醍醐味だと思う」。最も評価する《ゴルトベルク》の名盤は? と質問したら、「鈴木雅明さんのチェンバロによる演奏だ」と即答した。

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