Photo by Shinya Matsuyama

本邦初公開のメランコリックな摩訶不思議ワールド

 着物みたいに大きな袖の真赤なワンピースをまとい赤鬼の面を付けた女は、音楽に導かれて蜘蛛のようにゆっくりと床を這いながらステージに登場した。8月末の〈スキヤキ・トーキョー〉で本邦初登場となったカナダはケベックの女性シンガー・ソングライター、クロ・ペルガグ。赤鬼で蜘蛛でおまけにペルガグ。意味不明。しかし素顔はとってもカワイイこの27才のお嬢さんは、モントリオールから北東500キロほどにあるサン=タンヌ=デ=モンという小さな町で生まれ育ったという。

 「美しい山と川しかない静かな田舎町なの。いつも退屈だったから、空想好きになった。幼い頃からピアノを弾き、15才から歌を作り始めた」

 2013年に出たデビュー・アルバム『怪物たちの錬金術(L’Alchimie Des Monstres』はカナダやフランスでたちまち評判となり、昨年にはオケを大々的に導入した2作目『あばら骨の星(L’Etoile Thoracique)』も出た。何度読んでもなかなか理解できないシュールな歌詞には、病気や死にまつわる言葉が随所に埋め込まれている。メロディアスだが屈折激したつかみどころのないチェンバー・プログレすれすれのアート・ポップ系サウンドは、ドラマティックにしてメランコリック。アルバムのジャケットはいずれも面妖。つまり、面持ちはシリアスだが、トータルな表現としてはすこぶるキュートかつユーモラス。なんとも不思議な二面性、いや多面性だ。影響を受けたものとして挙げる名は、フランク・ザッパ、キング・クリムゾン、ジャック・ブレル、ドビュッシー等々。

 「10代には60~70年代のプログレやサイケ・ロックを大量に聴きこんだ。私はいつも自由な音楽に惹かれてきた。だからザッパは特に好き。自由な意志で新しい世界を開拓してゆくことは必ずしも人を喜ばせるわけではない、ということをザッパの音楽は教えてくれた」

 つまり、堂々のアンチ・ポップ、アンチ・エンタテインメント宣言?

 「人の嫌がることを意図しているわけじゃないけど、音楽にタブーはないと思っているの。日常的にはあまり話さないようなこと、人々が忌避するようなことも自由に歌にしたい。優しすぎるもの、親切すぎるものは好きじゃないから」

 そんなクロちゃんが最近特に惹かれているのが、いわゆるワールド・ミュージックものだという。

 「今回日本で一緒に〈スキヤキ…〉に参加したトルコやモーリタニアのグループにも驚かされた」

 そこで受けたインスピレイションは、もちろん次作でしっかり昇華されるはずだ。