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全曲が繋がって〈フロウ〉している感じ

――お互いのアルバムについて、もう少し掘り下げていきましょうか。まず、Masato さんはJoyの新作を聴いてみていかがでしたか?

Masato「最初にデモを送ってもらった時点で、速さやリフに頼らないヘヴィーな音作りというのは伝わってきましたね。あとは出来上がったのを聴いて、真っ先に思ったのはイントロが全部強いんですよ。それに、全曲が繋がって〈フロウ〉している感じ。日本のバンドだと曲の役割がどうしてもハッキリしがちで、この曲はジャンプする曲、この曲は手拍子、この曲は頭を振るとか、そういうテーマが聴くだけでわかるけど、そういうのがない」

――うんうん。

Masato「だから、変な言い方に聞こえるかもしれないけど、BGMにできるアルバムだと思います。俺も最近、ヴァイナルでよくアルバムを聴いているけど、欲しいのってこういう感じだったりするし。第一印象のインパクトだけじゃなくて、何周も聴いているうちに自分が好きな部分を見つけられそうな感じもする。それでいて、ラウドなオーディエンスにも伝わりやすそうなのは、歌のパッションじゃないかな。Adam独特の吠えながら歌っているサビの声というのは、すごいオリジナリティーだなって思うから」

Adam「ありがとう。さっき〈フロウ〉と言ってもらえたのはすごく嬉しい。そこは狙ったんだよね。25曲くらい作ったんだけど、同じ雰囲気の曲を揃えたかったから、アルバムのフロウに合わない曲は全部捨てていって。そのあたりは、サウンドもやっていることも全然違うけど、レイジ(・アゲインスト・ザ・マシーン)のファーストみたいな感じをめざしました」

――アルバムの制作にあたって、リファレンスとなったものは?

Adam「いっぱいありますよ。ロードの新しいアルバム(『Melodrama』)、パリスの前作(2014年作『White Noise』)に……あとはブリング・ミー・ホライズンの『That's the Spirit』(2016年)。彼らも昔はリフを重要視していたけど、あのアルバムはそこまででもなくて、ギターがもっとシンプルでヘヴィーな感じ。それが強く印象に残っていて」

――『Find Hell』はシンセ・サウンドの使い方も効果的だったから、ロードの新作が挙がったのもしっくりきました。あのアルバムは、プロデューサーのジャック・アントノフによる音作りがとにかく冴えていたので。

Adam「ロードは音作りがすごすぎる。どんなことをやっているんだろうって、本当に知りたい。あんまりギターも使ってないけど、すごく重い雰囲気を作れていると思う。ヴォーカル・プロダクションもそうだし、シンセの使い方も勉強になる一枚ですね」

ロードの2017年作『Melodrama』収録曲“Perfect Places”
 

――MasatoさんはJoyの新作で、どの曲が好きでしたか?

Masato「さっきの〈フロウ〉でいえば、7~9曲目の流れがデカかったです。“Cinnamon”のAメロでアルペジオが流れたあと、歌からイントロに入る“Acid Kiss”のあたりで〈これはいいアルバムだな〉と思ったあとに、“When I Was A Ghost”では他の収録曲よりもストレートにロックしていて、それがまた痛快なんですよね。あとはやっぱり、リード曲の“Head Full Of Tongues”と“Gold Blood”が強い。さっきも話したけど、イントロの時点でヤバいですよね」

――そう思います。

Masato「どの曲もJoyの新しい武器を見せているなかで、ストレートなのもできるよって自信が“When I Was A Ghost”で感じられたから、リスナーとしては次のアルバムがどう来るのかわからなくなったんじゃないかな」

Adam「俺もわからない、ハハハハハ(笑)」

――“Head Full Of Tongues”はソングライティングの精度も研ぎ澄まされているように思いましたね。キャッチーなんだけど、よく聴くと物凄く緻密に練られていて。

Adam「今回のアルバムでは、曲の構成をわかりやすくしようという話はバンド内でしていましたね。それと、〈ダーク〉〈キャッチー〉〈スペーシー〉〈ビッグ〉という4つのキーワードが頭に入っていたから、ソングライティングの方向性が以前より定まっていると思う。前作はとりあえず作った感じだったけど、今回はもっと焦点を絞って曲作りすることができました」

Masato「あと、『Find Hell』はすごくメジャー感が強くなったと思いました。ヴォーカルの音も前に出ているし、前作以上にスケールが大きくなっている」

Adam「それは狙ったかもしれない。前作をプロデュースしてもらったアレックス・ニューポートは、アット・ザ・ドライヴ・インの作品で有名だけど、ブロック・パーティーも手掛けていたりして、プロダクションがちょっとインディーっぽいんだよね。『Find Hell』ではプロデューサーを入れなかったけど、アデルにも携わったリアム・ノランがエンジニアとして参加していて。ヴォーカル・プロダクションでいうと、ハーモニーを重ねるために4回も歌ったんだよね。普通はだいたい2回しか歌わないんだけど、やっぱり2本と4本だとスケールが全然違うね。だから、歌がより深く感じるんじゃないかな」

※今作ではミックスを担当

 

盛り上がらなくても、実は大丈夫

――続いてcoldrainの『FATELESS』についてですが、そもそもプロデューサーを担ったマイケル“エルヴィス”バスケットとcoldrainを繋いだのは、他ならぬAdamさんですよね。エルヴィスってどんな人なんですか?

Adam「(即答で)最高、大好き。エルヴィスはまず、メロディーのセンスが半端ない。FACTが2作目(2010年作『In the blink of an eye』)を作るときに、俺はまだメンバーじゃなかったけどレコーディングに同行したんですよ。そのときエルヴィスがFACTの曲を聴いて、〈このサビはこういうふうにすれば、もっと上に行ける〉と言っていて、やってみたら実際にそうなった。あとはギターも上手いけど、何よりすごくいいヤツですよ(笑)」

Masato「本気でやりたいことのあるミュージシャンに、きちんと応えてくれるタイプだよね。お金だけのために仕事しようと思ったら、まったく違うキャリアを築けたと思うけど、あれだけ機材やギターを購入して、自分の家にスタジオを建てたりしているのは、純粋に音楽が好きだからなんだと思う。逆に言えば、好きじゃない仕事はやりたくない人だろうから、自分たちの音楽に興味を持ってもらえるかどうかがスタートだった」

Adam「昨年のツアーの打ち上げをしているときに、Masatoからプロデューサーについて相談されたんですよね。それで、coldrainだったらサウンド的にも絶対に合うだろうし、人間的にも仲良くできると思って提案したんです。エルヴィスは楽しくやらせてくれるけど、厳しいところは厳しい。でも、ベスト・テイクができるまでとことんやらせてくれる」

Masato「だから今回は、Adamがいなかったら実現しなかったんじゃないかな。エルヴィスのことは昔から気になっていたんですけど、その当時海外でレコーディングしているバンドはFACTとCrossfaith、あと俺たちくらいしかいなくて。ワンオクもまだやってなかった頃だったし。そういうのもあって、他のバンドとは被りたくなかった」

Adam「それはすごくわかるよ」

Masato「でも、Adamと相談したことで、FACTのメジャー感にエルヴィスがどれだけ貢献していたのかを理解したんです。あれだけ音を詰め込んでも、しっかり聴かせられるのは素晴らしい耳を持っている証拠だし、それでお願いすることにしました」

――Adamさんの『FATELESS』についての率直な感想は?

Adam「名曲が多すぎる! アルバムを通して聴いたあと、どれがシングルなのかわからなかった。“ENVY”がシングルなのはすぐわかったけど、“LOST IN FAITH”のサビで入るドラム・ビートもポップだし、次の“BURY ME”もシングルではないみたいだし」

『FATELESS』収録曲“ENVY”
 

――そうそう、オールスター打線みたいなアルバムですよね。

Masato「エルヴィスが、〈俺のほうでシングル候補曲をチェックしておくから〉と言うんだけど、いざレコーディングが終わったら8曲くらい印がついてて。全然参考になんねーよって(笑)。そういうアルバムになったのも、国ごとのマーケットで推すべき曲が違うというのを、ツアーで世界を回ってきたことで学んだからだと思う。“ENVY”みたいな曲は、日本のマーケットを知らなかったら絶対に書かない曲だと思うし。特に今回は、日本にいる邦楽/洋楽の片方しか聴かないリスナーのどちらにも、深く刺さるようなアルバムにしたかったから」

――なるほど。

Masato「でも一方で、“ENVY”のキャッチーなサビは、海外のリスナーにも新鮮に映りそうな気がしているんですよね。それこそおもしろかったのは、エルヴィスが“ENVY”を聴いたあと、〈思い出したよこの感じ。FACTもこういうのをやってたよね〉と話していたんだよね。あとはヨーロッパでドラムテックをやってくれたスタッフも、〈“ENVY”は日本のファンが爆発するだろうね〉と言ってたし、いろんな日本のバンドが海外で浸透し始めているからこそ、日本のシーンにおけるオリジナリティーも海外で伝わりだしているんだと思う」

Adam「サビで歌詞を繰り返す構成も、向こうのリスナーの印象に残りやすいんだと思う。そういえばFACTでもあった。“miles away”(2014年作『witness』収録)という曲で、メロディーは全然違うんだけど、同じような歌詞を3回繰り返すパターンがあって」

Masato「“miles away”は名曲だけど、あの曲が日本っぽいのは、イントロが面倒臭いところ(笑)。ああいうのは海外だったら絶対にやらないじゃん。アメリカのバンドだと、たまにフー・ファイターズがそういうことをするくらいだと思う。それで言ったら、BABYMETALが海外でウケた理由もそういうところなんですよ。究極のキャッチーさと、それに相反する面倒臭さを兼ね備えることで、初めて成り立つのが日本の文化だから」

――日本式のロック・フォーマットが海外で浸透し始めているって話は、メチャクチャおもしろいですね。

Masato「そう、日本人のほうが誤解している部分が多い気がして。日本のロックが海外に影響されていると思いがちだけど、逆も結構あると思うんですよね。実は想像以上に、日本のバンドは海外の人たちに聴かれていると思う」

Adam「そうだよね。昨日(取材日の前日)、Crystal Lakeの新しいシングル“Apollo”をレヴューしているビデオをYouTubeで観てたんだけど、本当にいっぱいあったな。マキシマム ザ ホルモンも南米をツアーしていて、向こうではみんな知ってるし、そう考えると影響を与えていてもおかしくないと思う。その2組やCrossfaith、coldrainはもう海外でも余裕でツアーができちゃうわけだし」

――日本と海外のオーディエンスでは、反応も違いますか?

Masato「(リアクションは)もう全然違う。ブレイクダウンに頼りっきりのバンドは、ライヴの雰囲気はすごく盛り上がるんだけど、そのあとに何も残らない。実際、そのバンドの横で俺たちがサイン会をやったら、こっちのほうがお客さんも集まったからね。だからなおさら、最終的に残るのは歌とメロディーなんだと思った」

Adam「なるほどね。Joyは、ライヴでノセるための曲がまったくないんですよ。だから、最初のうちはすごく不安だった。お客さんもキョトンとして見てるだけだし」

Masato「そうそう、少し前に、凛として時雨のライヴ映像を観てびっくりしたんだよね。すごく盛り上がりそうなサウンドのバンドなのに、お客さんはみんな立ち尽くしているわけ。でも、それは音を全身で感じているんだろうなと。そういうバンドは日本だと数が少ないから、個性になるんだと思う」

――こうやってお話を伺うことで、日本のラウド・ロックが新しい局面を迎えていることが本当によくわかりました。海外も視野に入れることがスタンダードになったことで、バンド側の意識が大きく変化しているんだなって。

Masato「そうですね。流行っているからという理由で電子音を入れればいいってもんじゃないし、自分たちの芯を持って活動することが大切なんだと思います。だから僕らも、ミドルテンポの曲を絶対にあきらめない。どれだけシーンが速い曲やヘヴィーな曲を求めていても、ミドルテンポをあきらめなかったからこそ、昨年アメリカで〈Warped Tour〉を回ることができたんだと思うし」

※毎年6~8月に開催されている、アメリカ最大級の音楽/エクストリーム・スポーツのフェスティヴァル。おもにパンク/ロック・バンドを中心とした100を超えるバンドや、アスリートらが全米40以上の都市をサーカス団の如く回る。インディーズ・バンドの登竜門的な側面も

Adam「盛り上がらなくても、実は大丈夫なんだよね。前にラスベガス(Fear, and Loathing in Las Vegas)と対バンしたときも、絶対に客層が違うと思っていたけど、ライヴが終わったあとの物販にすごくお客さんが集まってくれてさ。だからやっぱり、勇気が必要なんだよね」

 


Live Information

●Joy Opposites
〈HER NAME IN BLOOD presents KINGDOMS TOUR 2017〉
2017年11月24日(金)心斎橋 THE LIVEHOUSE soma
共演:HER NAME IN BLOOD、SURVIVE SAID THE PROPHET、waterweed
2017年11月25日(土)名古屋 伏見JAMMIN'
共演:HER NAME IN BLOOD、FEELFLIP、MINOR LEAGUE

〈SWANKY DANK “Smokes TOUR”〉
2017年11月27日(月)仙台 enn 2nd
共演:SWANKY DANK、INFOG

〈MEANING presents MEANING to be here... vol.39 "nothing to forget"〉
2017年12月27日(水)下北沢 Shelter
共演:MEANING、SHANK

〈"FIND HELL" JAPAN TOUR 2018〉
2018年2月24日(土)静岡 UMBER
2018/2/25(日) 名古屋 HUCK FINN
2018/3/1(木) 岡山 Crazy MAMA 2nd Room
2018/3/2(金) 神戸 太陽と虎
2018/3/4(日) 大阪 Clapper
2018/3/6(火) 金沢 vanvanV4
2018/3/9(金) 東京 UNIT
●第二次先行予約販売
静岡・名古屋公演
(e+プレオーダー先行販売)
受付期間:11月21日(火)12:00~27日(月)18:00
https://eplus.jp/ath/word/82751
岡山・神戸・大阪・金沢・東京公演
(レーベル先行予約販売)
受付期間:11月20日(月)17:00~12月1日(金)23:59
https://magniph.stores.jp/
●一般販売
全公演 12月2日(土)予定

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●coldrain
FATELESS JAPAN TOUR 2017
2017年11月21日(火)福岡DRUM LOGOS
共演:Paledusk
2017年11月23日(木・祝)高松オリーブホール
共演:Crystal Lake
2017年11月24日(金)神戸太陽と虎
共演:SiM
2017年12月4日(月)京都MUSE
共演:a crowd of rebellion
2017年12月6日(水)広島CLUB QUATTRO
共演:HEY-SMITH
2017年12月8日(金)Zepp Nagoya
共演:SUPER BEAVER
2017年12月10日(日)長野CLUB JUNK BOX
共演:GOOD4NOTHING
2017年12月15日(金)なんばHatch
共演:COUNTRY YARD

〈Crossfaith “ACROSS THE FUTURE 2017” 〜10th ANNIVERSARY SPECIAL EDITION〜〉
2017年12月3日(日)新木場STUDIO COAST

〈MERRY ROCK PARADE 2017〉
2017年12月23日(土)ポートメッセなごや1号館~3号館

〈FATELESS JAPAN TOUR 2017 in 日本武道館〉
2018年2月6日(火)日本武道館

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