音楽のどこにお金を落とすのかを、みんなが考えていかなきゃいけない時代
――ただ、最終的に7インチで出すことは決めつつ、それをどういう形でリリースするかは決めあぐねていた?
「そうです。出しどころも考えつつ、今年中にワンマン・ライヴをやりたいなとも思っていたんですけど、どういうふうにワンマンをやればいいかを決めていくうえで、いまは音楽のどこにお金を落とすのかをみんなが考えていかなきゃいけない時代だなという意識が出てきたんです。たとえば、僕がいま週1で働いている下北沢のライヴハウス、THREEの店長の(スガナミ)ユウさんが、自分のバンド、GORO GOLOのワンマンを今年のはじめにTHREEでやったんですけど、バンドの知り合いだからゲスト料金でとかは一切なしで、どんなお客さんであれ一律1,500円で入場するようにしたんです。それを見て、このやり方こそが当たり前だなと思ったし、そもそも僕らがやるのは小箱であって武道館とかじゃない。じゃあ、小箱でライヴをやり続けていくというスタイルにしても、もう次に行かないとダメだなと思ったんですよ。それは結構デカかったですね。
〈別に1,500円でワンマンできるんだよなー〉とわかったし、(前にやっていたRiddim Saunterを含めて)3,000円や4,000円くらいのチケット代でワンマン・ライヴをやってきたけど、そのチケット代の行先って結局どうなってたんだろうな?と考えるようになった。だったら、チケット代を1,000円にして、その入場料金はすべてハコに入るようにして、(お客さん的には)浮いた2,000円でバンドの物販にあるTシャツを買ってもらえるほうが、僕らにも直接お金が入るし、そのお金の動きに不明な点はないじゃないですか? そういうことをバンドでも話すようになっていったんです。もっとライヴに来やすくなったほうがいいし、お金の行先も見えるようになればいい。お客さんからお金をとるうえで、僕らはどうすべきなんだろう?と話し合ったんですよね」
――なるほど。そうした発想から、今回の7インチ付きの前売りというアイデアにはどう繋がっていったのでしょう?
「12月1日(金)にSHELTERでワンマンをやることが決まって、最初はチケット代を1,000円くらいにして、ゲストも一切なしでというのを提案してたんですけど、途中で物販を買ってもらいたいんだったら合わせて“The Starry Night”の7インチを付けたほうが、僕らのこの1曲への想いも見えやすくなるし、意味が出せるんじゃないかと思ったんです。今年の7月にTHREEで開催していたSEVENTEEN AGAiNのリリパのやり方もおもしろくて、新作のCDを持って来れば無料で入場できたんですけど、そういうふうにアーティストやライヴハウス側でいろんなやり方をまだまだ考えていけるんだな、と気付いたんですよ。僕達みたいな100~200人規模の企画をするバンドとしては、そのイヴェントをちゃんと意味があるように作っていったほうが、お客さん的にも心に残ると思うし。1,000人規模だと大変かもしれないですけど、僕たちは100人も集まらないかもしれないお客さんに理解してもらったうえで、お金をもらうという正直なやり方でいきたいんです。それをやり続けたうえで、残るものもあると思うし。
今年からTHREEで働くようになって、今までより深くバンドの活動について考えるようになった。
— TA-1 (@TaichiFurukawa) 2017年11月8日
箱側から、あのような今の時代の提案があるんだったら、バンド側からも、古いフォーマットに則ったやり方ではなく、自分たちなりの活動の提案が無くては、次につながらないと思った。
僕らなりの提案が、3月のSHELTER全員ゲスト無し、なるべく地方のバンドに還元だったり、7月のTHREEに全国のインディーバンドを集めて、Block Party入場無料だったり、次の12月、ワンマンのチケットにその日限定の7inchレコードを付ける、だったりする訳です。
— TA-1 (@TaichiFurukawa) 2017年11月8日
どうしてもライブに来てほしい、来てくれた人に何か残したいと思い、レコードプレスの賭けに出ました。
— TA-1 (@TaichiFurukawa) 2017年11月8日
無謀な計画をOKしてくれたAWDR/LR2、SSTVの皆様に感謝。ぜひ、ライブ会場でお会いしましょう!よろしくお願いします! pic.twitter.com/7XWWs92a5S
僕は自分でデザインもするし、自分が納得するものを出しているから、それに対してお金を落としてくれるというのは、お客さんと信頼関係を作れたということだと思うんですよ。ハコでお酒を飲むこととかも同じだけど、あのバンドが出したものだったらお金を払って買いますよということを循環させていくと、僕らみたいなバンド――お客さんが50人とか100人のインディーズのバンドでも、ちゃんと活動できるように、ちょっとはなっていくかなと思ったんです。こっちもタダで活動できるわけはないし、それだとバンドも止まっちゃうんだけど、だからこそ、ちっちゃなインディーズのカルチャーのなかでお金がちゃんと回っていく流れを作れたらいいなって。この時代、もう無料は止められないじゃないですか? Spotifyとかも絶対拡がるべきだと思うし、知らない音楽と次から次に出会えたほうが間違いなく良いし。でも、そういう意味ではTHREEのカルチャーもSpotifyとかと同じだと思うんですよ。THREEも入場無料のイヴェントをすることによって、それまでよりも多くのお客さんを巻き込みながら予想外の出会いをもたらしているし」
そこにいる10人の音楽好きのために、ちゃんとした情報を発信したい
――最近、THREEが来年の施策として発表した、年間フリーパス的な機能を持った3,000円の優待チケット〈THREEパス〉も、そういった時代の流れを受けての提案ですよね。
「いまライヴハウスが変わっていっている感じと、音楽の聴き方はリンクしているのかもしれないですね。YouTubeでしか聴かないとか、ダウンロードすらしないとか全然アリだと思う。そういうときにライヴハウスだけ頭デッカチになっても先へ進まないし、次の策を考えないと、やっていてつまらないですよ。何が正解とかはあるわけではないんですけど、そのバンドなりに自分たちのお客さんに自分たちをどう表現していけばいいのかを考えればいいし、僕らは自分たちのお客さんにレコードを手にしてもらえたらすごく嬉しいなということで、その方法をやってみる。それ以外の方はぜんぜんYouTubeで聴いてくれて構わないし、お客さんがレコードで聴いても聴いてくれなくても、どっちでもいいんです。ただ、そういう一個一個おもしろいことがあれば、ライヴもおもしろくなるんじゃない?という。あまり深い提案でもなくて、なんか良いじゃん?みたいな。それくらいで続いていくのが、重くなくていいかなと思っているんですよね」
――〈これがあるべきライヴの形だ!〉と声高に宣言するものではない、ということですよね。太一さんにとって、THREEで働きはじめたことも大きかったんじゃないですか?
「いやー、大きいです。毎週水曜日に働いているんですけど、週1であっても1年間行くと変わりますよね。週に1回、いなきゃいけないとなったら、まったく知らないバンドのイヴェントでも〈あー、今日はこういう感じなのか〉とか〈こういうお客さんがいて、こういうふうに作ってるんだ〉とか思うし、カウンターで皿洗いながら、〈自分たちのイヴェントだったら、こうしたらおもしろいかなー〉とかも考えられる。THREEで働きはじめなかったら、今回の前売り用にレコードを作るというアイデアも出てこなかったんじゃないかな」
――発想のヒントをもらった、と。
「やっぱり入場無料の〈Block Party〉とかに尖ったバンドがいっぱい出ていて、多くの人たちがおもしろがって集まっているのを観ると、ワクワクしますよ。あとは、あそこに夜立っていると〈あ、TA-1さん〉みたいに声を掛けてくれて、そこで何か話が進んだり。実際に会えるとなると、話が早いですからね」
――人が集まることで、物事も動いていくという良い循環が生まれているんですね。
「自分が地方に行ったときにも、〈太一さんTHREEにいるんですよね? 僕もTHREEでライヴしたいんですよー〉みたいに言われることもありますしね、そこで、じゃあ〈何か繋いでいこうよ〉と進んだのが、I HATE SMOKEの大澤くんとTHE FULL TEENZの伊藤(祐樹)くんと一緒に主催した今年7月の〈Ordinary Punches〉ツアーでした。あのツアーは、みんなで全国を回って最後はTHREEに集まる(2017年7月15日)ようにしたんですけど、THREEでは入場を無料にして、できるだけ多くの人に来てもらうようにしたんです。ライヴを観てもらって〈あのバンドが格好良かったー〉となれば、次に繋がるとも思ったし、実際にKONCOSがやっているディストロでも売れていくという流れもあった。そういうふうに、自分がいる場所を使って、新しいことをできるようになってきています」
――太一さんがやっているKONCOSディストロもバンドの活動において重要な要素になっていますよね。
「ディストロをできるのはありがたいですね。最初はそんなことやろうと思っていなかったんですけど、北海道に行ったときにtoiletのキムくんが新しい音源を200円で売ろうとしていて、その内容がすごく良かったんです。そこで、ちょうど僕らはいまツアー中で全国に持っていけるチャンスだから、僕らなりにツアーで出会ったバンドの音源を全国に持って行けば、交流の足がかりになるんじゃないかなと思ったのがきっかけでした。そうしたら、そのtoiletのCDが僕らのツアー中に50~60枚売れたんですよ。すごいなと思ったし、僕らはお客さんに恵まれているなともわかった。音楽を好きなお客さんが来てくれているんだなと、ちょっと勇気づけられましたね」
――ディストロの活動もそうだと思うんですけど、さっき“The Starry Night”の歌詞について言われていた〈いま起きていることを伝えたい〉とうのが、太一さんの指針になっているように思うんです。9月からWarp Magazineでスタートした、日本各地のバンドと音楽カルチャーを紹介していく太一さんの連載〈Trippin’〉にも、そうしたスタンスが窺えました。
「僕もそうですけど、みんな音楽が好きじゃないですか? 別に好きだからすごいとかじゃなくて、まだそこに希望があると思っているんです。これだけ配信が盛んになっても、好きなものはレコードで買いたいし、ライヴも観に行きたい。それは僕だけじゃないと思うんです。だって、そうじゃなかったら、みんなバンドもやらないですよね。スタジオ代払って、赤字になるかもしれないツアーに行ったりはしない。そして、それを観に行くお客さんにも絶対に可能性はあって、僕が観た良いバンドや感動したことを拡げることで、そうしたお客さんに届けばいい。それはほんとに少ない数でよくて、それを売り出そうというわけじゃなく、 音楽を好きな人に響けばいいんです。別に何百万人に響く必要はなく、そこにいる10人とかのために、僕はちゃんとした情報を発信したい。音楽だけでなく、ご飯とかもそうですけど、そういう視点になってきていますね」
街のみんなが〈やろうよ〉となれば、僕らはそこに行く
――じゃあ、〈AFTER SCHOOL〉しかり〈Ordinary Punches〉しかり、KONCOSは対バンをすることで、繋がる/繋げていくという動きを大事にしていたと思うんですけど、そのうえで今回ワンマンをしようと思った動機は?
「対バンのライヴだと30分の表現しかできないけれど、それには限界もあるし、ずっと30分の表現をやっていると、たまには1時間の表現をやりたいという欲求が出てくる。30分のライヴがシングルだとしたら、1時間のワンマンはアルバム的な表現ですね。30分だと勢いになっちゃうんですけど、1時間あれば、曲の構成にせよ楽器のアレンジにせよ、いままでにやってないこともできる。自分たちの音楽のもうちょっと先を表現したくて、というのが大きいです。そして、東京のSHELTERでは去年もワンマンをやっているけど、それを今回は東京だけじゃなく京都のnanoでもやりたいなと思いました」
――今回、東京と京都の2か所だけというのは特別感が強いけれど、他の地方……たとえば岡山や北海道でもやってほしいという声が上がってくるんじゃないですかね。
「それをできたらおもしろいなーとは思いますけど、どうなるか怖い部分もあるんですよね。ワンマンだと集客とかに関しても、そこまで自信があるわけではないので、その街のみんながこう〈やろうよ〉みたいになってくれたら(笑)」
――俺たちの街でKONCOSのワンマンを〈やろうぜ〉と。
「でも、僕らの活動にとって理想のあり方は、そういうことなのかなと思います。〈呼んでください〉じゃないですけど(笑)、やるとなったら僕らもまた考えますよね。〈じゃあ、何か作って行くわ〉みたいな。まずは、今回のこれが僕らからの新しい提案だから、それがどういう結果になるのか。不安もあるけど、楽しみです」
Live Information
〈STARRY NIGHT PARTY -KONCOS ONE MAN SHOW-〉
2017年12月1日(金)東京・下北沢SHELTER
出演: KONCOS
DJ : TOMMY(BOY) / kimuqn(toilet)
開場/開演:20:00/21:00
前売り:3,000円(7inch Vinyl付/ドリンク代別)
ローソンチケット [L:70499]、e+ [ http://sort.eplus.jp/sys/T1U14……09P0030001 ]
INFO : SHELTER
2017年12月9日(土)京都・二条nano
出演: KONCOS
DJ : shota_yam(S-Y-S)
開場/開演:19:00/20:00
前売り:3,000円(7inch Vinyl付/ドリンク代別)
INFO : nano