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【セロニアス・モンク ~centennial epistrophy 100回目の回文】 #05 狭間美帆―モンクとラージアンサンブルの世界

セロニアス・モンク ~centennial epistrophy 100回目の回文 #05

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  • 2017.12.08
illustration:目黒雅也

 

 ピアノとは、〈一人で演奏可能なオーケストラ〉だと思う。自分自身幼い頃から触れて構造を知っているだけに痛感しているのかもしれないが、音が減衰してしまうということを除いては、演奏できる音の数も表現できる複雑性も、群を抜いて幅広い。簡単に音を鳴らすことは出来るが、実はこの楽器を個性豊かに操るのは至難の技なのだ。

 10月にオランダでメトロポール・オーケストラとセロニアス・モンク・トリビュート・コンサートツアーを行うにあたって、モンクのソロピアノ・アルバムをじっくり聴き直す機会があった。彼のソロピアノ演奏をビッグバンド編成にオーケストレーションしよう、というメトロポールとのアイディアを実現するためだ。演奏を聴けば聴くほど、彼の頭にはピアノという楽器をはるかに超えた音世界が広がっていたのが伝わってくる。高音で叩きつける不協和音、縦横無尽に移動するメロディライン、絶妙なペダル使い……リードシート(簡単なメロディ譜)一枚では書き表せないことばかりだ。〈この音の伸びはトロンボーンの高音でなめらかに〉〈このインパクトはミュートトランペットでガツンと〉など、彼の演奏から瞬く間に音色のインスピレーションが広がっていった。

 モンクはしばしば、共演者の伴奏の仕方や即興演奏の進め方にも意見を持っていたという。つまり、ピアニストとしてだけでなく、その曲の作曲者として、曲全体がどのように進むべきか、楽器編成のバランスをどう保つのか、という部分にも細心の注意を払っていたのだ。バンドの中で演奏している彼は、他の楽器の奏でるメロディにスパイスを加える天才だ。そして自身がメロディを演奏すると、他の誰も真似できないような歌い回しを発揮する。

 ――ピアノを個性豊かに操るのは至難の技――それを完璧にクリアしたジャズピアニストこそ、このセロニアス・モンクだと私は信じている。

 モンク自身がラージアンサンブルと共演した録音は数枚残っている。風呂場で演奏しているかのようなビッグバンド・アルバム『Monk's Blues』は少々いただけないが、1959年にライヴレコーディングされたラージアンサンブル・アルバム『The Thelonious Monk Orchestra at Town Hall』は、ホール・オーバートンのスコアをのびのび演奏する全盛期のモンクが印象的だ。ホルンやチューバも入るこの洒落たアルバムは、のちにモンクを崇拝するピアニスト、ジェイソン・モランによって素晴らしい再演も遂げた。

 一方で、モンクの死後、メロディメーカーとしてのモンク、つまりモンクの楽曲に焦点を当てたラージアンサンブル・アルバムも生まれている。代表的なのはビル・ホールマン・バンドの『Brilliant Corners - The Music of the Thelonious Monk』。ビッグバンド音楽の書き手として一世を風靡したビルらしい、シンプルさと複雑さのコントラストが明確な書き方で、バラエティに富んだ一枚だ。

 モンクの生誕100周年ということで近年は様々なモンク・トリビュートアルバムが出ているが、その中で頭ひとつ抜け出ているのがジョン・ビーズリー率いるビッグバンド、MONK'estra。『MONK’estra Vol.1』に収録された“'Round Midnight”を聴いたときは、発想の秀逸さに思わず唸った。グラミー賞にノミネートされるなど大反響を得て制作され、発売されたばかりの『MONK’estra Vol.2』は、ラップやヴァイオリンとの共演など更に盛りだくさんな内容。11月にはブルーノート東京に初来日も果たす。〈モンクって聴いたことない〉という人にも持ってこいの、親しみやすく賑やかなライヴになること間違いなしだ。

 ……そういう私自身も、実はただいま絶賛モンク楽曲をアレンジ中! メロディ、ハーモニー、リズムどれを取っても、アクの強さは殺せないがアイディアの宝庫といえるテーマに四苦八苦しながらも、〈産みの苦しみ〉を楽しんでいる。

 あらゆる方面からアーティスト達に衝撃をあたえ、魅了し続けているセロニアス・モンク。これぞカリスマ、といえる彼の独特の世界観を、大人数の演奏でも是非楽しんでもらいたい。

 


挾間美帆(Miho Hazama)
国立音楽大学在学中より作編曲活動を行ない、これまでに山下洋輔、モルゴーア・クァルテット、東京フィルハーモニー交響楽団、シエナウインドオーケストラ、ヤマハ吹奏楽団、NHKドラマ「ランチのアッコちゃん」、大西順子、須川展也などに作曲作品を提供。また、坂本龍一、鷺巣詩郎、グラミー賞受賞音楽家であるヴィンス・メンドーサ、メトロポールオーケストラ、NHK「歌謡チャリティコンサート」など多岐にわたり編曲作品を提供する。そして、テレビ朝日系「題名のない音楽会」出演や、ニューヨーク・ジャズハーモニックのアシスタント・アーティスティック・ディレクター就任など、国内外を問わず幅広く活動している。10月には自身のジャズ室内楽団〈m_unit〉により、10/22(日)アクトシティ浜松、10/23(月)名古屋ブルーノート、10/27(金)ブルーノート東京の3都市ツアーを行う。www.jamrice.co.jp/miho/

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