プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーがお気に入りと公言したことでも話題のゴールデン・ティーチャーは、グラスゴーに住む男女6人組。幻覚性キノコの名を掲げた彼らは、2013年にこのバンドを組む以前から地元の音楽シーンでそれぞれ活動していたとか。結成のいきさつについてリーダー格のサム・ベラコサ(発言:以下同)はこう語る。

 「ミュージシャンの育成を目的とした政府のプログラムがバンド結成のきっかけだよ。グリーン・ドア・スタジオという場所があってね。〈金のない若手ミュージシャンに作業場を提供したい〉と考えていたスタジオの創立者たちが、それを実現するために国から資金をもらい、このプログラムを始めたんだ。もっとも、ゴールデン・ティーチャーのメンバーは各々グラスゴーで音楽活動をしていたから、ずいぶん前からお互いのことは知っていたけどね」。

 彼らの評価を上げたのは、JDトゥイッチ主宰のオプティモから発表された12インチ群。とりわけ、ハウスやダブ、アフロビート、パンク、エレクトロなどが交雑した『Party People/Love』でのファンキーなグルーヴに、早耳リスナーたちは腰を激しく揺らすことに。

 「グリーン・ドア・スタジオの運営者たちはJDトゥイッチと付き合いがあってさ、ここでレコーディングした音源をよく彼に聴かせていたみたいだよ。そのなかに俺たちのデモも混ざっていて、JDトゥイッチが気に入ってくれたんだ。おかげで初めてのライヴはオプティモが開催したパーティーだったし、〈EPを出したい〉なんてオファーもしてくれた。EPを出せるだけの曲はすでに出来上がっていたから、喜んでOKしたよ」。

GOLDEN TEACHER No Luscious Life Golden Teacher/BEAT(2017)

 その後もバンドはさまざまなレーベルから音源をリリースし続け、そしてここにファースト・フル・アルバム『No Luscious Life』が完成。過去の音源よりもESGやスリッツ的なポスト・パンクの要素が濃くなっている印象を受けたのだが、本作のインスピレーション源について尋ねたら少々意外な答えが返ってきた。

 「数年前にツアーをした時、ソウル・ジャズから出ているスタジオ・ワンのコンピ・シリーズをメンバー全員で聴いていてね。それには影響を受けたよ。70年代末~80年代初頭にかけてのジャマイカで、〈ディスコ〉というスタイルが流行っていることを認識したうえでその美意識を自分たちの音楽に採り入れるなんて、マジで完璧だと思った。あと、メンバーの多くがもともとパンク・バンドにいただけあって、当然パンクの影響も強い。ただ、6人それぞれの音楽趣味は違うから、いろいろなものをグループ内で共有したよ。グレイス・ジョーンズも聴いていたし、プリンスのブートレグからもインスパイアされているしね」。

 ちなみに、『No Luscious Life』を直訳すると〈豊かじゃない人生〉。UKの国内情勢を皮肉るようなタイトルに思えたので、この点についても訊いてみよう。

 「アルバム・タイトルはヴォーカル担当のキャシー(・オジェイ)が書いた曲の歌詞から取ったんだ。その曲はごく最近にレコーディングしたもので、君の指摘通りUKの現状と一致していると思う。でも別の意味があって、俺たちはもう若くないけど、老いているわけでもない年齢でさ。メンバーの多くはレストランやバーでバイトしているから、週末は楽しいものではなく出勤日なんだ。そして平日の休みにありがたみを感じる。アルバムのオープニング曲もハードな労働に関する歌だ。だから、タイトルは皮肉として捉えることもできるけど、俺たちの正直な主張でもあるんだよ」。

 パッと聴きは享楽的なゴールデン・ティーチャーのサウンドには、労働者階級の苦悩や哀愁も込められているようだ。

 


ゴールデン・ティーチャー

キャシー・オジェイ(ヴォーカル)、チャールズ・ラヴナック(ヴォーカル)、オリヴァー・ピット(ドラムス/パーカッション)、ローリー・ピット(ドラムス/パーカッション)、リーチャード・マクマスター(キーボード)、サム・ベラコサ(シンセサイザー)から成る6人組。アルティメット・スラッシュやシルク・ カットのメンバーが集い、2013年にグラスゴーで結成。同年にオプティモからファーストEP『Bells From The Deep End』をリリースする。以降もサウンド・オブ・ジ・ユニバースやアカシックより精力的に12インチやカセットテープを発表。ESGなどとのツアーを経て、このたびファースト・アルバム『No Luscious Life』(Golden Teacher/BEAT)をリリースしたばかり。