心地良い重層的な響きが宇宙に響くブルガリアン・ヴォイス アンジェリーテ

 1988年に〈アンジェリーテ〉と命名され、世界中で多くの観衆を魅了し続けて来たブルガリア最高峰の女声合唱団が、20年ぶりに来日することになった。彼女たちの公演の記録をひもとくと、ノーベル平和賞受賞式、モスクワ赤の広場など伝説的なコンサートが並ぶ。93年にリリースされたアルバムは、グラミー賞にノミネートされた。95年には、阪神淡路大震災の記憶もなまなましい神戸で支援コンサートを行ない、アルバム『Live In Kobe』をリリースした。同年、佐渡島での〈鼓童〉との共演も話題になった。

 ふりかえると日本ではブルガリア調のコーラスがさまざまなメディアをとおして流れていた。芸能山城組や姫神は日本でブルガリア調の合唱に取り組んだ。菅野よう子はゲーム音楽の未来感とブルガリアンな響きをリンク。cobaは映画音楽のエンディング・テーマのためにブルガリアで合唱を録音し、サラエボ生まれのヤドランカの声にコラボした。近年では、リオ・オリンピック閉会式の三宅純編曲“君が代”がブルガリア調だったことも記憶に新しい。CMなどでサブリミナル的に聴いていた人も多いだろう。

 世界各地で聴衆を魅了し続けているブルガリアンな響き。その不思議な不協和音はボーダーを超える。今回の公演フライヤーに記された〈文明の十字路に花咲く歌声〉の文言はツボだ。ギリシア、トルコ、ルーマニア、黒海などに囲まれたブルガリアは、いにしえからメルティングポットとして知られる。モザイクのようにさまざまな民族や文化が往来した地ならではのダイバーシティ。その倍音には、さまざまな神が宿り、宇宙へと聴く者を誘う。

 アンジェリーテのメンバーは、一人一人異なるデザインの民俗衣装をまとい歌う。その刺繍や意匠にはファミリー・ヒストリーもあるのだろう。個性を生かし、敬意を評しながら重なり合うポリフォニー。歌い手の巫女性が引き出される発声法は世界各地の喉歌にも通じる。

 ブルガリアン・ヴォイスの重層合唱の途中のブレス。その間合いの余白にも惹かれる。宇宙にまで届き、地上に降り注ぐ重層的な合唱が、突然、突きはなされるように無になる瞬間。潔い沈黙。それは一瞬にして宿り、一瞬にして消える森羅万象の生命の有り様に通じる。かつて来日公演で “Hiroshima”という曲も歌ったアンジェリーテ。今回はどんなメッセージが届くのだろうか。西も東も超え、国境を越える歌声。ちっぽけな惑星をまるごと包み込むようなサムシンググレートな響きに身をゆだねたい。

 


LIVE INFORMATION

ブルガリアン・ヴォイス アンジェリテ
○1/26(金)19:00開演
会場:武蔵野市民文化会館 大ホール
出演:ブルガリアン・ヴォイス アンジェリテ

www.musashino-culture.or.jp/