フランスの〈JAPAN EXPO〉をはじめ、台湾メキシコといった海外のステージを次々と経験した2013年を経て、今春にかけてはHONDAが提案する次世代の乗り物〈UNI-CUB β〉やディズニー映画「エンダーのゲーム」のヴィジュアル・イメージ、そしてグラミーで2冠を獲得したロード“Royals”のMVを担当。歌い手として、絵師としての大舞台を重ねてきた秋赤音が、その先の表現へと踏み込んだ新作『SQUARE』を完成させた。その母体は、昨年末にコミックマーケットで発表された同名の同人盤だという。

秋赤音 SQUARE トイズファクトリー(2014)

  「最初は単に、イラスト集を作ろうと思ってたんです。それでテーマを決めたくて、友達に〈カッコイイ英単語ないかな?〉って訊いたら〈SQUARE〉が出てきて。自分も〈良いな〉と思ってテーマはそれに決まったんですけど、そのあとに別の人から〈イラストから曲を作ってもらったらおもしろいんじゃないか〉っていう提案をしてもらって。それはやったことがないし、じゃあチャレンジしてみようと思って、普段聴いている作曲家の方に1枚1枚イラストを渡して、〈これから曲を作ってもらえませんか?〉って依頼していったんです。〈SQUARE〉っていう正方形に囚われた街があるっていうのが前提で、その中で暮らしているキャラクターだったり、起こる出来事だったりを描いた絵だっていうことだけは伝えて、あとは見たまま、感じたままで作ってくださいとお願いしました」。

 〈SQUARE〉という大テーマの元で描かれた7枚のイラストにはそれぞれ〈COLOR〉〈GARDEN〉……といったサブ・テーマが付され、それらをベースにクリエイターたちが楽曲を制作。同人盤ではボーカロイドが歌ったその7曲を、今作ではリアレンジのうえで本人が歌唱している。さらに今回は、歌世界から触発されて固まったものもあるというイラスト内の人物のキャラクター設定を基盤に、各キャラに沿ったセリフを秋赤音自身が執筆。豪華声優陣が演じたそのモノローグを楽曲と融合してMVを作り上げ……と、イラスト→音楽→映像といったインスピレーションの連鎖で〈SQUARE〉という街の世界観がよりヴィヴィッドに伝わる仕様となっている。

 「同人盤は同人盤で完結してたんですけど、今回は〈SQUARE〉の世界観をより明確にできたと思いますね。作ってて楽しかったですし、自分ができることを最大限に活かしながら、自分にとって新しいことができたっていうのが何より嬉しい。出来上がりに関してもすごい満足というか、いやあ、ここまでよくやったなっていう感じですね(笑)」。

 そうした7つの連作の前後には八王子P製のレイヴィーなエレクトロ・ハウス“Black Ganger”や「親が聴いてたので、自分の最初の音楽体験として記憶に残っている」という中島みゆき“糸”の柔和なカヴァーも配し、秋赤音だからこそのエキセントリックなプロダクトに仕上がった『SQUARE』。その街の風景を、以下の各曲解説から覗いてみよう。

 

イラスト→音楽→映像というインスピレーションの連鎖によって築かれた街『SQUARE』を構成する7つの場面

 

 

2. FIRST(COLOR) 秋赤音のパワフルな歌唱と劇的なシンセ・ストリングスがエモーショナルに重なるロック・チューンは、nikiが担当。CVは櫻井孝宏。「イラストの男の人は、画材屋ではなくて、色そのものを扱う店の店長さん。腹黒くて、好奇心旺盛。個々の色には感情みたいな何かしらの意味があって、もらうと自分に組み込める」。

 

 

 

3. 反鏡のバリアシード(GARDEN) ダイナミックな展開で揺さぶるエレクトロックゆうゆによるもの。CVはくまいもとこ。「ピンクの野原に少年が佇んでる絵を描きたいなと。でも描いてみたら異常な雰囲気になって。キャラの設定や物語の世界観は、曲を聴いて具体的になりました。歌は最後のサビ前のセリフが恥ずかしかった(笑)」。

 

 



4. カックラウ(FOOD) ブロステップファンク調のトラック上で病的な数の言葉が躍る、EZFGの異色ナンバー。CVは小松未可子。「両手にナイフとフォークを持ってるありがちな構図で普通の女の子を描いたつもりなんですけど、曲によってどこか壊れたイメージになって。サビで欲が爆発する感じは歌で上手く表現できたかなと」。

 

 



5. シャクネツ(BATTLE) 梅とらが手掛けたスピーディーなトランス・ロックでは、ろんとデュエット。CVは小林ゆう。「〈和vs洋〉みたいな絵を描きたくて。お互いが攻撃してる四角いのは“FIRST”の人から買ってるイメージ。和風な子は一見キツそうだけど、声が可愛くてそれがコンプレックス。洋風な子は本当は男の子という設定」。

 

 



6. RUNWAY(FASHION)「絵はファッション雑誌のイメージですね。この人、実は〈GARDEN〉の少年のお兄さんで、親がいなくて弟のために働いてるっていう。歌詞が少し大人っぽいので、最初は歌えるか不安でした」。清澄なシンセが印象的なIrus製のロック・ナンバーは、途轍もないファルセットを乗りこなす主役の歌唱が聴きもの。CVは朴璐美

 

 



7. 空閒⇔Formation(ROOM)「正方形のカラフルな箱に囲まれて、女の子が一人いるのを描きたいなあと。曲は、女の子の悲痛な叫びが歌詞にも音にも出ていて良いなって。絵からカラオケルームを連想したらしくて、最初の音漏れのような表現がお気に入り」。ブレイクダウンも備えた重厚チューンはやいりが制作。CVは三森すずこ

 

 



8. Melancholic Degree(SCHOOL)「主人公は絶望してる先生。この絵は制服のモチーフとか、床のタイルとか……とにかく四角にこだわったんですけど、koyoriさんもそれをよく見て、曲で上手く広げてくれて感動しました」。低空飛行のテンションを体現するメロとブラスを効かせたアレンジのマッチングが絶妙な逸曲。CVは鈴村健一

 


▼『SQUARE』関連のアーティストの作品

左から、中島みゆきの92年作『EAST ASIA』(ポニーキャニオン)、koyoriの2013年作『World on Color』(BinaryMixx)、EZFGの2014年作『サイバー サンダー サイダー』(Due.)

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▼秋赤音がジャケットを手掛けた作品を一部紹介

左から、ゆずの2011年のシングル“翔”(SENHA&Co.)、秋赤音の2012年作『ぼろぼろな生き様。』『DRAGONFLY』(共にトイズファクトリー)、Applicat Spectraの2012年作『スペクタクル オーケストラ』(A-Sketch)、渡辺麻友の2012年のシングル“ヒカルものたち”(ソニー)、MINMIの2013年のシングル“さくら ~永遠~ feat. 湘南乃風”(Far Eastern Tribe/ユニバーサル)

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