(C)2016 Kasper Collin Produktion AB

 

若干18歳で名門ブルーノート・レコードからデビュー、駆け上がったスターダムから、ドラッグでの転落~ジャズ史に刻まれた一夜の悲劇の真実

 ジャズが大好きではあったが、ジャズの素養の無い自分がロバート・グラスパーと僅かだけど対談させてもらった事があった。

★OMSBがロバート・グラスパーと語った記事はこちら

 そこで彼の印象に残っている言葉があり、それは「音楽は常に時代を切り取るべきだ」というものだった。

 その時はその時で、〈確かに〉、なんて具合に自分の中の嗜好から摺り合わせて納得していたんだけど、今回このリー・モーガンのドキュメンタリー「私が殺したリー・モーガン」を見て更にもう少しだけ、折り合いがついた様に思う。

 このドキュメンタリーには、若くしてディジー・ガレスピー楽団に才能を見出された天才トランぺッターの、ブルーノートからのレコード・デビュー、アートブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズへの参加等、自身の成功と転落が描かれている。そんな彼を深く愛し、支え、リー・モーガンの生涯に大きく影響を与えた妻、ヘレンとの出会い、そしてその最期。本作には、ヘレンが老後に通っていたスクールの講師であり、ジャズ・ファンであったラリー・レニ・トーマスによって生前行われた彼女へのカセットテープに残されたインタヴューや、友人のウェイン・ショーター、盟友のベニー・モウピンやビリー・ハーパーなど、当時身近にリー・モーガンに関わって行った様々な視点を持つ人々によって語られた映像と、当時のライヴ映像や代表曲を使い、リー・モーガンがどの様な人物であったかを映し出した内容が納められている。

(C)2016 Kasper Collin Produktion AB

 その生涯の大まかな内容は、ジャズ・ファンで、特にリー・モーガンのファンであれば、(恐らく)余りに有名な事で、今のご時世、簡単に調べられる事ではあるのだろうけれど、当時彼の周りに居た人々の詳言は、その事実よりも生々しく突き刺さる。

 カセット・レコーダーから流れてくるヘレンの声の質感、語り口は一層このドキュメンタリーの意図を引き立たせ、仲間や深く関わった人達のリー・モーガンに対するエピソードの内容は勿論、詳言者が意識せず出てしまった様な語り口や間、表情なんかが、当事者の心をどれだけ揺さぶったかという緊張感と、その人々が経験してきた人生の皺を感じさせる、もはや“リー・モーガンと妻のヘレン”だけでは括ることのできないスケールのドキュメンタリーになっていた。

 あまりジャズの歴史やリー・モーガンを知らないと、このドキュメンタリーはノスタルジーにしかならないんじゃあないかと思っていた節が自分にはあったけれど、それを通り越して、現代の映像であるにも関わらず、当時の、そして当人達の空気感をしっかりとパックした味わい深いものだった。

 音楽をやるって難しいなーと、改めて思う作品でした。

 

映画「私が殺したリー・モーガン」
監督:カスパー・コリン
出演:リー・モーガン/ヘレン・モーガン/ビリー・ハーパー(sax)/ジミー・メリット(b)/ベニー・モウピン(sax, fl)/ウェイン・ショーター(sax)/ポール・ウエスト(b)/チャーリー・パーシップ(ds)/アル・ハリソン/リナ・シャーロッド/ジェリー・シュルツ/ジュディス・ジョンソン/他
配給:ディスクユニオン (2016年 スウェーデン・アメリカ 91分)
◎12/16(土)~アップリンク渋谷、12/24(土)~名古屋シネマテークほか随時公開!
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