これからの100年を生きる人たちに伝えたいスタンダード集

ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子がスタンダード集『The Standard』をリリースした。

 「初めてジャズのレコードが録音されて今年で100年。このタイミングで名曲の数々を録音したかった。偉大な音楽家たちに感謝を込めて。私自身もこれからの100年に受け継ぎたい。その思いで演奏しました」

寺井尚子 The Standard ユニバーサルミュージック(2017)

 全13曲収録。そのうち“フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン”“デヴィル・メイ・ケア”“これからの人生”“イエスタデイズ”“ブルーゼット”“ゴールデン・イヤリングス”“枯葉”の7曲が寺井自身の選曲。寺井バンドのピアニストで、今回アレンジも担当する北島直樹が“ナイト・アンド・デイ”など6曲を選んだ。

 「私の7曲はどれもメロディが強い作品です」

 彼女が好む“メロディが強い作品”とは――。

 「より具体的に言うと、1度聴いたら忘れない、口ずさみたくなるような旋律です。だからこそ、多くのアーティストが演奏して、名演奏もたくさんあって、その結果たくさんのリスナーに愛されています」

 彼女自身数多くの名曲の演奏を重ねてきた。

 「ミシェル・ルグラン作曲の“これからの人生”などはどれだけ演奏してきたことか。修業時代にこの作品に出会い、何度も何度も。とても大切な曲です」

 ミュージシャンデビューは1988年。CDデビューは1998年。来年で30周年を迎えるが、リーダー作をリリースする前の10年を彼女は〈修業時代〉と呼ぶ。

 「当時はいつも自分に問いかけていました。私の音楽、これで大丈夫?と。手探りの10年でした」

 そんな彼女に海の向こうから手を差し伸べたのが、ピアノの〈巨匠〉ケニー・バロンだ。

 「ニューヨークに呼ばれて3曲演奏し、スタジオを去ろうとすると、ケニーが、もう1曲一緒にやろう、と声をかけてくれて。即興でやった演奏が“ロゼ・ノワール”になりました。〈黒バラ〉の意味です。私の黒い衣装が曲名になりました。あの日、スタジオを出た時の景色は忘れません。ミュージシャンとしての自分の道に光がさした。私はやれる!と思えました」

 “ロゼ・ノワール”には1回の即興で生まれたからこその輝きがあった。『The Standard』のほとんどの曲も、ほとんどはその日の1回目の演奏を収録した。

 「私はできる限りテイクワンをCDに入れます。新鮮で躍動感があるからです。いつも私は〈渦を巻いている〉と言っていますが、音楽が動いている。演奏が生きています。何度も演奏をくり返すと、メンバーが考え過ぎて、演奏に渦が感じられなくなる。たとえば画家も、何も考えずにすっと描いた最初の一本の線が一番生き生きしているはず。音楽も同じです」

 


LIVE INFOMATION

○2018/1/7(日) 愛知:知立 リリオ・コンサートホール
○2018/2/3(土) 東京:板橋 板橋区立文化会館 大ホール
○2018/2/4(日) 東京:六本木 SATIN DOLL
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